第3話 楽園
接舷できそうなハッチを見つけるが規格が合わない。
エアロックから設備内に入ると、そこはちりひとつない清掃の行き届いた回廊が伸びている。室内灯も全て点灯していて、床も壁も完璧に手入れが行き届いている。ここの管理者の几帳面さがうかがい知れた。
「PARADIS? フランス語ね。“楽園”?」
「あるいは“天国”です、お嬢様」
希美代はジルの言葉に答えずレパーハンドルを回す。
「入るわよ」
「えっ、そんな、何も調べず入るのは危険ですっ、どんなところかもわからないのに!」
にやりと不敵な笑顔を浮かべる希美代。
「ふっ、“楽園”なんでしょ」
必死の形相のジル。
「やめて下さい! “天国”かも知れないじゃないですか!」
「どっちも似たようなものよっ」
扉を開いた希美代の笑みが消える。
「これは……」
巨大なドームの天頂に
大きな音がしたのでぎょっとして上を見上げる。美しい飾り羽をなびかせた大型の鳥が二人の上を通過していった。極彩色の大きなくちばしをもった鳥もいる。
その鳥を見て呟く希美代。
「ゴクラクチョウ……(※1) それにオオハシ(※2)」
ジルも驚きの表情で呟く。
「まるでゴーギャン(※3)の楽園……」
そのジルの発言には少し不満げな表情を見せる希美代。
「少し修飾過剰な気もするけどね…… 中心部に行ってみましょ」
木々をすり抜け、下生えを踏み越え円形と思われるドームの中央へ向かう。
ようやく下生えを抜けると突然視界が開ける。そこは直径三十メートルほどの円形の人口土でできた空き地になっていた。
「ここが中心みたいね」
「はい、間違いありません」
「あの宇宙飛行士がこんなところにいるとは思えない。他を当たるしかないわね」
「かしこまりました」
「よしっ、楽園で憩うのは後にして人探ししてこなきゃ」
突然二人以外の声がドームに響き、希美代は身をすくめるほどぎょっとした。
「お二人はどなた?」
▼用語
※1 ゴクラクチョウ:
正式な和名はフウチョウ。スズメ目フウチョウ科の鳥類の総称。旧世界のオーストラリアとニューギニアに生息していた。飾り羽の美しい鳥で、それ故に脚と翼を切り落とされ、枝に止まることなく風に乗って生きる「天国の鳥」との売込みで売買されていた。フウチョウの名は「風を食べる鳥」の伝説から採られた。
※2 オオハシ:
旧世界の中南米に生息していたキツツキ目の鳥類。
※3 ゴーギャン:
ウジェーヌ・アンリ・ポール・ゴーギャン。画家。
画家として様々な経歴を経た後42歳で旧世界タヒチに渡航。その地に楽園を見出し、いくつもの絵を描いた。のちにはマルキーズ諸島に渡りそこのヒバ・オア島で没する。享年54。代表作は「タヒチの女たち」、「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」
※2021年3月25日 誤字の訂正と加筆修正をしました。
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