【第四話】髪は人形の命


「そういえば菊姫ちゃんって、どうして私の髪が欲しいの?」


それは、さゆりの何気ない一言で開かれてしまった……。


「菊姫ちゃん?」

『うっ、うぅっ……!!』

「菊姫ちゃんっ!!??」


古傷だった。


「ごっ、ごめんね!! 菊姫ちゃん!! お詫びに、指切り落としてくるね!!」

『止めて、絶対っっっ!!!!』


流れないはずの涙を流していた菊姫の表情が、一瞬で焦燥に変貌する。


『私はヤクザの親分かっ!?』

「でも、呪いのお人形さんって。多分、ヤクザさんより怖いものでは?」

『まぁね! 昔、堅気にも卑劣な方法で薬物売ったり詐欺働いてた事務所に。深夜に出て脅かしてやったらビビッて漏らして、階段から転げ落ちたりしてたわ~』


愉しそうに黒い笑みを浮かべながら言う菊姫。しかし、さゆりは怖がる所か。


「凄い、菊姫ちゃん……正義の味方みたい!」

『そう、なのかな……?』

「闇夜に紛れて、仕事道具で悪人を暗殺する人達みたい~!」

『必殺はしてないからー!』


心外なっ!! と、叫ぶ菊姫。


『ちょっと暇潰しに遊んでただけよ』

「危険そうな遊びだね」

『良い子は真似しちゃダメよ。でも、私は悪い人形だから良いのよ!』

「菊姫ちゃんはとっても優しくて、可愛い良いお人形さんだよ」

『なっ……!!』


さゆりの言葉に、菊姫は顔を紅潮させた。


『そんな事……!!』

「さっきはごめんね……菊姫ちゃんにも、聞かれたくない事や。言いたくない事あるのに、私、菊姫ちゃんがいつも優しいから調子に乗って……」


しゅん……と、俯き気味で言うさゆり。


「やっぱり、責任取って腕切り落として――」

『止めてっ!! 罰が重すぎるっ!! 真理の扉開けたワケでもないんだからっ!!』


再び声を荒げる菊姫であった。


『言いたくないとか、そういう程の話しじゃないの』

「いっ、良いんだよ! 無理に話さなく――」

『大した話しじゃないから、言うのが恥ずかしいだけで。話したくないって程じゃないわ。それに、髪を提供して貰うさゆりには。聞かれたなら話さないってのも、筋が通ってない気がするし』


照れ隠しをするように、少々素っ気ない様子で人形は続けた。


『ホント、大した理由じゃないの。私の髪、昔は背中が隠れる程の長さがあったんだけど……』


さゆりは、菊姫の言葉に黙って真剣な眼差しで見つめる。


『私が昔居た家の子供に、“美容師さんごっこ”と称して。バッサリ、切られたの……』


哀愁漂う表情で、菊姫は言った。


『それから私の髪型は、長寿アニメの清水市民女の子主人公みたいなおかっぱ頭よ……』

「ま○ちゃんは可愛いよ、大丈夫だよ!」

『下手な慰めは要らないよ、タ○ちゃん……』


でも……と、改めてさゆりは言葉を続ける。


「本当に、今も十分可愛いよ。菊姫ちゃん!」


満面の笑顔で告げられ、菊姫は再び。熱が増さない筈の頬を赤くした。


『そっ、そんな事ないんだから!! 私は、さゆりの髪で井戸から出て来れるような美髪お化けになるんだからっ!!』

「あのホラー映画のお化けは、美髪で井戸からの登場権を獲得した訳ではないのでは?」

『あの滑らか且つ艶やかなサラッサラの黒髪……羨ましい、私にも分けて欲しい……』

「アレはお化けさんでは無く、女優さんの才能では……?」

『でも! 私には、さゆりの美髪が確約されてるから。もう良いけどね!』

「菊姫ちゃん……」


私が一番に必要とされている……と、さゆりは感動に涙腺を少し緩ませる。


「ありがとう、菊姫ちゃん! 私、菊姫ちゃんに一番綺麗な髪をあげる為に。生きるの頑張る!!」


両手の拳を握りながら、力強く言ったさゆりに。


『だから重いってばぁぁぁ!!』


本日、何度目かの菊姫の叫び声が響くのであった。




 ** お ま け **



「そういえば、菊姫ちゃんって。漫画だけじゃなくて、テレビやアニメも詳しんだね!」

『まぁ、結構色々見てるからね』


菊姫は得意気に続ける。


『さゆりの家に居る時も、昼のワイドショーやドラマの再放送や映画とか見てるけど。昔、居た家でも。家族団欒で見ていたテレビを人形として一緒に見たり、住人が全員留守の時には漫画や本読んだりしてたってだけよ』


まぁ、あと……と、さらに続ける菊姫。


『ホラ、私。呪いの人形じゃない? 偶に、深夜の閉店した本屋や。空いてる漫画喫茶で、怪奇現象起こすついでに色んな漫画読み漁ったりしてたからね!』

「菊姫ちゃん、色々満喫してたんだね!」


その後、さゆりは菊姫に古い物から新しい物まで。色んな漫画やアニメ等を布教して貰った。

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