第23話「ありがたく頂戴しておきます」

「召喚の指示があるまで

 町を出ないように」


グレイドと名乗る男は、横柄な態度で俺たちにそう指示した。

ファウエル王国軍の司令官とのことで、よくわからないが、きっと高い地位の男なのだろう。


通報に応じて部下とともにマジックギルドにやってくると、彼は現場検証と聞き取り調査を行い、4人の犯人を連行していった。

今回の事件について、後日開かれる王国裁判に、俺たちを証人喚問するつもりらしい。

偉そうな態度が癪に障るが、この世界では普通のことなのかもしれない。


ようやく自由に行動できるようになると、モエカはミリアンの祖父に疑問をぶつけた。


「いったい、ここで

 何があったの?」


ミリアンの祖父、レバリスは眉根を寄せた。

彼も状況を理解しかねているのだろう。


「わしらはこの施設に閉じ込められ、

 強制的に治癒の魔法水を作らされておった」

「治癒の魔法水?

 つまり薬を・・・作らされていたの?」

「うむ。

 それも大量にな。

 それが完成すると、どこかへ運び出し、

 用済みになったわしらを

 この建物ごと燃やそうとしたわけじゃ」

「・・・大量の薬を作らせて、

 そのあと殺そうとしたって・・・

 いったい何のために?」

「さあな。

 真意はわからんが・・・

 わしらが全員死んだら、

 あの薬の値段は相当吊り上がるじゃろうな」

「そんな・・・

 お金のために・・・」


モエカは言葉につまった。

供給源を絶ったうえで、人の弱みにつけこんで薬を高く売ろうなんて、下衆の極みだな。

人の命を何とも思っちゃいない奴らだ。


「薬を運び出したってことは・・・

 きっと首謀者は他にいるのね」

「うむ。

 ここに残っていた4人は、

 死刑執行人じゃろう。

 指揮を執っていたのは、

 スーツを着た男じゃった」


ミリアンの部屋で俺たちを襲った男が言っていた「身なりのよい男」という言葉が俺の脳裏をよぎった。

どちらも首謀者は同じなのかもしれない。


「大量の薬って・・・どこにいったの?」

「わからん。

 だがいずれ、

 王国軍が見つけてくれるじゃろう」


もしメタルギルドの施設を王国軍が捜査して薬が発見されたら、この事件の背後にメタルギルドがいたことが明白になる。

メタルギルドといえば全世界に鉄製品を供給している巨大企業だ。

これは・・・世界を揺るがす大スクープになるかもしれない。


とはいえ、この後の捜査は王国軍の仕事だ。

俺たちできることは裁判で証言することぐらいだが、それもいつになるのかわからない。

エスラーダの観光でもして時間をつぶすか?


俺が思案していると、奥の部屋から魔法使いのひとりが現れ、レバリス老人に何やら袋を手渡した。

彼は中身を確認すると、俺のところに持ってきた。


「これはマジックギルドからの礼じゃ。

 受け取ってくれ。

 命を救ってもらった礼としは見合わん額じゃが、

 了解していただけると助かる」


袋を受け取り、中を見ると、見覚えのあるコインが10枚入っていた。

1000ルビイかな?

日本円にすると10万円ぐらいか。

報酬は期待していなかったので、ちょっと嬉しい。


「ありがたく頂戴しておきます」


これだけあれば、少なくとも当面の生活費は心配しなくてよさそうだ。


「ミリアン、

 君はこれからどうする?

 俺たちはたぶん、裁判に呼ばれるまで、

 近くの宿に滞在すると思うけど・・・」


ミリアンは祖父の顔を見てから、笑顔で答えた。


「私はここで、

 おじいちゃんのお手伝いをしようと思います。

 魔法について、いろいろ教わりたいこともあるので」


ミリアンが祖父の顔を見ると、彼も優しく頷いた。

今回の件で、本格的に魔法を学ぼうという気持ちになったのかもしれない。


ミリアンと離れるのはちょっと寂しい気もするが、家族といっしょにいるのが一番だよな。

俺がモエカとマロンに合図して立ち去ろうとすると、ミリアンが後から追いかけてきた。


「ミノルさん、

 モエカさん、

 マロンさん!」


俺たちは立ち止った。

ミリアンが潤んだ目でこっちを見ている。


「シュライアンの町でひとりぼっちになって、

 とても不安でした。

 もうおじいちゃんには会えないかもって

 思ったこともありました。

 でも、みなさんに助けていただいて、

 こうして再会できました。

 ほんっとに、

 ありがとうございました!」


ミリアンは流れる涙を隠すように、深々と頭を下げた。

彼女の純粋な感謝の気持ちが伝わってきて、俺はちょっとホロリとなった。


「いや、

 ミリアンだって頑張ったよ。

 俺のために魔法水を作ってくれたし、

 水鉄砲で火を消す作戦も大成功だった。

 またいっしょに旅しような」

「は、はいっ!」


ミリアンは心から嬉しそうに笑った。


「またねー」

「元気で!」


モエカとマロンも、ミリアンに別れを告げた。

まあ、きっとまたどこかで会えるだろうし、そんなに感傷に浸ることもないだろう。


俺たちはマジックギルドの施設から外に出た。

晴れてはいるが、そろそろ陽が陰り始めているようだ。


「さてと・・・、

 これからどうする?」


俺が尋ねると、マロンは待ってましたと言わんばかりに答えた。


「エスラーダに来たら、

 絶対に行くべきって場所があるんだが、

 行ってみるか?」


俺とモエカは顔を見合わせた。


「・・・どこ?」

「魔法水の温泉!」


温泉!?

なんと、この世界にも温泉があるのか!

熱いお湯に全身で浸かれば、疲れなんて吹き飛ぶに違いない。


俺の中で、風呂好きの日本人の血が沸き立つのを感じた。


***** つづく *****

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る