第22話「ばか、来ちゃだめだ!」

俺は身を捻って門番の攻撃をかろうじてかわすと、持っていた剣を本来の持ち主に投げ返した。

モエカは剣を受け取ると、持ち替えることなく、そのまま男を斬りつける。


キインッ!


甲高い金属音が鳴り響く。

門番はモエカの攻撃を剣で受け止めたが、背中ががら空きだ。

俺が背後から足に蹴りを入れると、奴は体制を崩した。

その脇腹に、モエカの一撃が炸裂する。


「ぎゃっ!」


刀背打ちだったが、まともに食らってはひとたまりもない。

アバラの2~3本は砕けたのではないだろうか。


いっぽうマロンは、もうひとりの門番と対峙していた。

クロスボウの鋼の弓で敵の攻撃を交わしながら、器用に矢(ボルト)を装弾している。


そこへモエカが乱入。

敵がひるんだ隙きに、マロンのクロスボウが放たれた。


バスンッ!


「ぎゃっ!」


男は矢を脇腹に食らい、うめき声をあげてぶっ倒れた。


この間、俺も実はミリアンを護りながら、魔法水を投げる準備をしていたのだが、その必要も無く、戦闘は終了した。


モエカとマロンのタッグは見事だった。

地面にぶっ倒れている2人の男も、門番を任されている以上、素人ではなかろうに。


マロンは呻きながら倒れている男の袖をまくり上げた。

腕に2本の剣を重ねた意匠の刺青が入れられている。


「やっぱり。

 メタルギルドの手の者か。

 なぜこいつらがマジックギルドにいる?」


誰も理由は分からない。

だが、良くない状況であることは明白だった。


「中に入るぞ!

 ミリアン、君は外で待ってろ!」


などと偉そうな言い方をしたが、俺は魔法水を投げることぐらいしかできないので、モエカとマロンを先に行かせた。


マジックギルドの施設には鍵はかかっていなかった。

受付と待合室のあるエントランスは無人。

書類が散乱しており、なにやら争いがあったことがわかる。

さらに突き進むと、広間に出た。


中央には縄で縛られた人々が座らされており、その周囲で2人の男が液体を撒いていた。

鼻を突く異臭。

恐らく燃料だ!


俺たちの侵入に気が付くと、1人は剣を抜き、もう1人は燃料に火を放った。

床に火が広がる。

何てことしやがる!


モエカは左側の敵に向かって突進した。

マロンもモエカの背中に隠れるようにして敵に近づく。


モエカは速度を緩めることなく渾身の力を込めて、敵に剣を打ち込む。


ギンッ!


男はモエカの剣を弾くが、気がつくとモエカの姿はもう見えない。

代わりに、マロンの矢がもう目前まで迫ってきている。


「ぐあっ!」


肩に矢を食らった男は、もんどり打って倒れた。


俺は、残った敵をモエカたちに任せて、火に囲まれつつある捕虜たちの元へとダッシュした。

このままでは全員黒焦げだ。


フルーツナイフのキャップを外すと、縛られている人の足のロープを切っていく。

だが・・・とても間に合わない。

火の回りが速すぎる。


「おじいちゃん!」


その時、聞き慣れた声がした。

ミリアンが広間に走り込んできた。


「ばか、来ちゃだめだ!」


俺の制止も聞かず、彼女は水鉄砲で水を撒き始めた。


おいおい、そりゃ無茶だよ。

水鉄砲の水ぐらいで、この火が収まるはずがない。

収まるはずが・・・。


え?


俺は自分の目を疑った。

床を這っていた火の勢いが収まったのだ。

なんだ、あの水は!

床が寒さで凍り付いている!


俺は周囲で、捕らわれの人々が、モゴモゴと呪文を唱えていることに気づいた。

そうか、この人たちは魔法使いだ。

水さえあれば、気温を下げて火の延焼を抑えることなどたやすいのだ!


「ミノルさん、

 もっと水を!」

「おう、

 任せろ!」


俺はリュックサックからペットボトルのミネラルウォーターを取り出すと、キャップを外して周囲に中身をばらまいた。

魔法使いたちは撒かれた水に呪文を唱え、床を凍りつかせていく。

冷却効果によって発火点に達することができなければ、火は燃え続けることができない。


よし、成功だ!


気づくと、モエカとマロンも最後の敵を打ち倒したところだった。

モエカが近接戦闘で敵の注意を引きつけ、マロンのクロスボウでとどめを刺すという連携が、コンボ技として定着したようだ。


氷結魔法のせいで、部屋は真冬のように寒くなったが、火はようやく完全に鎮火した。


「ミリアン!」


捕虜になっていた老人が、ミリアンをきつく抱きしめていた。

疲れ果てた様子だったが、とても優しそうなお爺さんだ。

良かったな、ミリアン。


モエカとマロンはまだ肩で息をしていたが、嬉しそうなミリアンを見て満足げだ。

全員が無事で本当によかった。


「ミノル、

 やったね!」

「ミッション・コンプリート!」


満面の笑みの2人に、俺は親指を立てて応えた。


俺たちはついに目的を達成したのだ。


これで俺たちの旅も終わ・・・るわけないよなあ・・・。


***** つづく ******

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