第21話「見るだけだって。大丈夫だから」

森を抜けると、ようやく道が道らしくなり、その先に町が見えてきた。

あれがエスラーダだろう。

大小様々な、白い塔のような建物が立ち並んでいる独特の風景だ。


モエカはミリアンを気遣って声をかけた。


「ミリアン、

 おじいさん、みつかるといいね」

「・・・はい。

 ありがとうございます」


エスラーダについたとしても祖父に会えるとは限らないし、会えたとしても無事とは限らない。

ミリアンとしては落ち着かない心境だろう。

俺も彼女の頭をポンポンと軽くたたき、無言で「何があっても君はひとりじゃないよ」というメッセージを伝えた。


最後尾のマロンが何やらゴソゴソとしているので様子を見て見ると、歩きながら背中のクロスボウを袋に包んでいるところだった。


「モエカ、

 忠告しておく。

 町の中では、あまりその剣を

 見せびらかさないほうがよいぞ。

 メタルギルドに目をつけられたら面倒だからな」


モエカは頷いた。

俺の持っている100円ショップのフルーツナイフも同様だろう。

まったく・・・自社製品以外の存在を認めないなんて、メタルギルドとは物騒な連中だ。


しばらく歩き、町に近づくと、行き来する人々の姿も見えてきた。

人々の服装は華やかで、建物にも原色をあしらった派手な装飾が見られる。

最初に訪れたシュライアンの町に比べると、文化的水準が高いようだ。


さて、まずはミリアンの祖父が若いころに属していたというマジックギルドを探したいところだが・・・


「マジックギルドは

 町の北東だ。

 私が案内しよう」


マロンはそう言って、スタスタと先頭を歩きだした。

この町には、以前来たことがあるのだろう。

いっぽう俺を含む他の3人は、「おのぼりさん」状態だ。

周囲をきょろきょろと見まわして落ち着きがない。


歩きながら、俺は庶民的な服屋を見つけた。

今はマジックギルドに行くことが優先だが、落ち着いたら真っ先にあの店に行って、この焦げてボロボロの服を着替えたいものだ。

店頭でまんじゅうを焼いている店の前は、香ばしい香りが漂っていた。

空きっ腹には拷問に近い。

モエカを見てみると、思いっきりその苦渋が顔に出ていた。


「うぐぐ・・・」


淑女(レディー)としてはいかがなものかと思うが、彼女のこうゆうところは嫌いじゃない。


マロンは、町の中でもひときわ大きな、白い円錐状の建物に向かって歩いていた。

あれが魔法使いの組合「マジックギルド」の施設なのだろう。


だがなぜか、あまり活気を感じない。

今日は休日なのだろうか?

門は閉じられており、武装した男が2人、不愛想に立っている。

ミリアンはたまらず彼らのそばに駆け寄った。


「シュライアンから参りました、

 ミリアンと申します。

 祖父の、マスター・レバリスを

 ご存じないでしょうか?」

「・・・知らん」


門番らしき男のそっけない返事にミリアンは言葉を失っている。

まったく、こんな可愛い子が助けを求めてるってのに何て態度だ。

俺はいらだちを隠せず割って入った。


「中に入れてくれないか?

 ギルドに知っている人がいるかもしれない」

「駄目だ。

 今は中で危険性のある実験をしている。

 ギルドの会員しか入ることはできない」

「実験?

 それはいつまでだ?」

「しばらくだ」

「・・・」


門番は事務的に答えると、無表情で立ち尽くしている。

まるで俺たちの存在を、まったく気にしていないような様子だ。

マジックギルドについて俺はまったく知識が無いが、訪問者に対してこんな態度をとる組織なのだろうか。


そのとき、ミリアンが何かに気づいたようだった。


「危険な実験をしているなら、

 なぜ緩衝陣を張っていないんですか?」

「・・・」

「この建物には魔法水の水路があるのに、

 なぜ使っていないんですか?」

「・・・」


ミリアンはまくしたてるが、門番は答えることができない。

こいつら・・・なんか怪しいな。


「ミリアン、

 俺にもわかるように教えてくれないか?」

「はい。

 魔法の実験を行う場合、

 周囲に影響がでないように緩衝陣を張ることは基本なんです。

 初歩の教科書にも載っているような当たり前のことを

 マジックギルドがやらないというのは、おかしいです!」


説明を受けてもやっぱり意味は分からなかったが、どうやら非常に不自然な状況らしい。

やっぱりこいつら・・・怪しい。


俺はちょっと実験してみることにした。


「モエカ、

 君の剣、ちょっと見せてくれないか?」

「え?」


突然声をかけられて、モエカは意外そうな顔をした。


「なんで?

 町の中で剣を抜くのって

 マズくない?」

「見るだけだって。

 大丈夫だから貸してよ」


モエカはしぶしぶ剣を鞘から抜き、俺に渡した。


「おお!

 すげえ剣だな。

 何とも言えないが、とにかく素晴らしい!

 メタルギルドの量産品とはまったく違う!」


我ながら稚拙な表現力だが、俺がモエカの剣を褒め称えると、2人の門番は明らかに動揺した。

額から汗がにじみ出ているのがわかる。

こいつら、やっぱりメタルギルドの一員か?


俺の狙いを察したマロンが便乗して、ゴソゴソと袋からクロスボウを取り出した。


「私のクロスボウも見てくれよ。

 自作の金属部品を使っている。

 逆立ちしたって

 メタルギルドには作れ・・・」

「ぐぬうっ

 貴様ら、許せん!」


マロンがセリフを言い終わらないうちに、門番は抜刀すると、凄い形相で襲い掛かってきた。


***** つづく *****

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