第2話 MBFD(モンスターバスター・フルダイブ)


2035年5月下旬の金曜日…都内のとある高校近くのファミレスで、幼なじみ同士のオタク女子高生2人組が おしゃべりしながらタピオカミルクティーを飲んでいた。 ( 一昔前に流行ったタピオカミルクティーが、また最近ブームになっているのだ。 …それはさておき、この二人について紹介しよう。 )

 

一人は、黒髪を赤いリボンでツインテールに結っている(ツインテールの末端は肩甲骨辺りまで伸びている)、身長160cmくらいの高校一年生(15歳)で、名前は『狩野 花梨(かりの かりん)』という。

やや釣り目気味の大きな目をした、どことなくボーイッシュな雰囲気を醸し出している少女だ。

ちなみに、胸はかなり大きい。

制服は、基本的にはオーソドックスなデザインのセーラー服で、白い長袖シャツ(袖口は紺色)、紺色の襟(襟の縁の辺りには一本の白いライン)、白いフロント布(胸宛て)、赤いカフス、黄色いカフス止め、紺色のスカート、紺色のソックス…という具合だ。

ただ…『基本的にはオーソドックス』と前述はしたが、シャツの『生地』は一般的なセーラー服とは少々異なっており、袖の部分の生地は一般的なセーラー服と同じ(ポリエステルと綿の複合素材)なのだが、胴体部分の生地はストレッチ素材になっていた。

結果、このストレッチ素材により、(現実世界では ほぼ お目にかかることのない)『乳袋』が形成されており、また、キュッと引き締まったウエストのライン・シルエットも くっきり・はっきりと浮かび上がっていた。 ( ちなみに、一部の女生徒やPTAなどからは「煽情的だ!」などの批判的な意見もあったとか なかったとか…? )

尚、靴は(制服とは異なり)学校指定のものは決まってないので、花梨は黒い靴を履いている。


もう一人は、茶色がかったショートヘアで、頭頂部の左右が まるでネコ耳のように逆立っている髪型をしている、身長150cmくらいの高校一年生(15歳)で、名前は『大友 愛留(おおとも あいる)』という。

どことなくネコっぽいパッチリとした大きい目をしていて、口はビミョーにネコ口(ねこぐち)気味で、左右の八重歯が発達しており、前述のネコ耳のような髪型と相まって、全体的に『ネコっぽい』印象の強い少女だ。

ちなみに、(花梨と同様に)胸はかなり大きい。

制服は花梨と同じセーラー服で、靴は(学校指定品のものは決まってないので)茶色い靴を履いている。 


愛留「 ねえねえ~花梨ちゃ~ん? そろそろモンバスFDはじめようよ~? 」

 

花梨「 いやぁ…まだドラグーンクエストのやり込み要素をまだコンプリートしてないからさぁ~… 」

 

愛留がいつものように花梨にお気に入りのゲーム…モンバスを勧め、花梨は『RPGで忙しいから』とやんわりと断る。

これがいつもの流れだった。

この二人は漫画やアニメやラノベの趣味はバッチリ合うのだが、ゲームの趣味だけは異なり、愛留は狩りゲー等のアクションゲームを好むのに対し、花梨は非アクションでターン制やアクティブタイムバトル制のJRPGやMMORPGを好む傾向にあった。

 

( ちなみに、『モンバスFD』とは、一ヶ月半ほど前に発売されたばかりの『モンスタバスター・フルダイブという最新鋭のオンライン・アクション狩りゲー(狩りをするゲーム)のことである。

コントローラーを手に持ってプレイする従来のゲームとは一線を画し、フルダイブ・ヘルメットというものを頭に被って、意識や五感ごとゲームの世界に完全に没入できるという画期的なゲームだ。

しかも、それと同じかそれ以上に画期的なことに、ゲーム内では時間が現実よりも十倍の速度で進み、プレイヤーの意識・五感もその十倍の速度に同期するようになっている。

例えば、ゲーム内で十時間たっぷり遊んだつもりでも、現実に戻ると一時間しか経っていないことになるのである。 )

 

さて、いつもなら、花梨が愛留からの(狩りゲーへの)誘いをやんわりと断って、愛留が『ちぇ~っ…』と言って、漫画やアニメやラノベの話に移るのだが、今日は少し違った…

 

花梨「 …って、いつもなら断るとこだけど、昨日で各ヒロインとの結婚イベントも終えて、やり込み要素コンプリートしちゃったんだよなぁ~…。 ドラグーンクエストもファーストファンタジーもペインソナーもテンプルオブファンタジーもファイターエンブレムも、続編が出るのは当分先だし…いつもアンタ(愛留)が勧めてくるモンバスってゲーム、試しにやってみよっかな…。 今夜にでもポチってみる(ネット購入してみる)よ。 」

 

愛留「 マジでっ!? やったーっ♪ …ってか、買わないでもいいよ♪ ちょうどよかったわぁ~♪ 」

 

花梨「 …? 『買わないでもいい』…? 『ちょうどよかった』…? 」(キョトン)

 

花梨がキョトンとしていると、愛留は話を続けた。

 

愛留「 実は明日の花梨ちゃんの誕プレ(誕生日プレゼント)に、FD(フルダイブ)ヘルメット付きのモンバスFDセットを買ってあるんだよね~♪ 」

 

花梨「 えぇ~っ!? いや…FDヘルメットってメッチャ高いだろっ!? いくら毎年、誕プレ送り合ってるとはいえ、そんな高価なプレゼント貰うのは流石に気が引けるっつーか… 」

 

愛留「 いいのいいの♪ ウチが花梨ちゃんと一緒にモンバスやりたいなぁ~って思ったんだし。 それに、お金の心配ならいらないよ? ちょ~っち いいお小遣い稼ぎの方法があってね…。 そこで、花梨ちゃんに『モンバスFD』をサクッと誕プレできるくらいには稼げたからさ♪ 」

 

花梨「 高価なFDヘルメットをサクッとプレゼントできるお小遣い稼ぎって…。 …っ!!? アンタ(愛留)まさか援助交… 」

 

愛留「 って!!? 違うにゃーっ!! 」

愛留はとっさに花梨の言葉を遮った。

愛留「 なに変なこと言おうとしてるにゃっ!!? 」

 

花梨「 えっ…? だって、アタシら(高一の女子高生)ができそうな高額のお小遣い稼ぎっつったら… 」

 

愛留「 ぜんっぜん、違うにゃっ!! 花梨ちゃんの頭の中はエロいにゃっ!! エロまみれにゃっ!! 」

 

花梨「 えぇっ!? 誰がエロまみれだよ… 」

 

愛留「 はぁ~…まったくだにゃ… 」

愛留は ため息を一つついてから話を続けた。

愛留「 実は私、一ヶ月ちょい前から『WeTuber』やってるにゃ… 」

 

花梨「 えっ!? WeTuberって…あの『WeTube』の…だよな? 」

 

ちなみに、WeTubeとは、動画投稿・閲覧サイトである。 そして、WeTuberとは、WeTubeの動画投稿者のことである。 尚、投稿動画内に数秒間の企業CMを流すことで、収入を得ることも可能である。 また、投稿者(WeTuber)のチャンネル登録数や動画の再生回数などで収入は変わってくる。

 

愛留「 そうにゃ。 そこでお小遣い稼ぎしたから、FDヘルメットもサクッと誕プレできるにゃ。 」

 

花梨「 なるほどなぁ…ちな、その動画ってのは どんな内容なん? あ…あと、気になったんだけど、最近アンタ(愛留)語尾に『にゃ』とか付けることあるけど、どうしたんだ? 今もそういうしゃべり方になってたし…。 昔はそんな癖なかったよな…?? 」

 

言われて愛留は『ハッ』として赤面した後、説明をはじめた。

愛留「 あ~…ゴホン…。 え~と…まず、動画の内容だけど…モンバスではプレイヤーは『ハンター』と呼ばれる職業についてるんだけど、その中で特に上手いプレイヤーは『プロのハンター』…略して『プロハン』って呼ばれるのね。 で、プロハンの中には自身の すごいプレイ動画をWeTubeに上げて企業広告付けて稼いでる人もいるわけ。 ここまで おけ(OK)? 」

 

花梨「 うん。 …てか、話が読めてきたわ。 つまり、アンタ(愛留)もプロハンで、広告付き動画で稼いでる…ってわけか? 」

 

愛留「 そういうこと♪ 」

そう言って愛留は、得意げに『フンッ』と鼻息を鳴らし、(大きな)胸を反らしてふんぞり返って見せた。

 

花梨「 …それはわかったけど、語尾の『にゃ』ってのはなんなん…? 」

 

愛留「 あ~…それは… 」

愛留は再び赤面しながら話しを続けた。

愛留「 ゲーム内でのウチのキャラ付けの一環なんよ…。 モンバス内でのウチのキャラ名は『アイニャン』って名前で、しゃべり方も意図的に語尾に『にゃ』を付けたりしてネコっぽいイメージのキャラクターで通してるんだ~。 なんか、その方が動画の受けもいいみたいだしさ…。 」

 

花梨「 なるほどなぁ~… 」

花梨は『納得した』という感じで、腕組をしながら2回ほど『うんうん』という感じで頷いてみせた。

 

…で、その後、二人ともタピオカミルクティーを飲み終え、話も一区切りついていたので店を出て帰路についた。

 

店を出て歩きながら、愛留は花梨に言った。

「 ホントは明日の花梨ちゃんの誕生日にプレゼントを手渡ししたかったんだけど、明日(土曜)は いとこのお姉ちゃんの結婚式が北海道であって、明後日(日曜)も親戚の集まりあるんだよね~…。 で、今夜(金曜)中に家族で出発しちゃうんで、一日早いけど、この後 誕プレ渡しちゃうね? ちなみに、帰ってくるのは明後日(日曜)の夜だから、その時までにギルドランク…まぁRPGで言うとこのレベルみたいなもんなんだけど、なるべく上げといてね♪ ギルドランクが低いと受注できないクエストとか たくさんあるから♪ 」

( ちなみに、二人の家はお隣同士である。 )

 

花梨「 まぁ、がんばってみるさ。 けど、アタシ、アクションゲームって初めてだし、今夜(金曜)と土日でどこまで上がるかなぁ…。 」

 

愛留「 ぶっちゃけ、花梨ちゃんなら日曜の夜にはギルドランクかなり上がってると思うよ? モンバスってゲームはプレイヤー自身の反射神経や動体視力がメチャクチャ重要なんだけど、花梨ちゃんはプロハンのウチと同じくらい反射神経も動体視力もいいからね~♪ 昔からドッジボールとか卓球とか、ウチと同じくらい上手かったし♪ それに、現実の時間とゲーム内の時間は流れが10倍も違うからね~♪ 例えば現実の1時間はゲーム内だと10時間に相当するから、日曜夜までやれば相当上がってるはずだよ♪ 」

 

花梨「 …だといいけどなぁ~♪ …にしても、時間の流れが現実の10倍って…スゲー技術だよな~…現実が漫画やアニメの世界に追いついてきたっつーかさぁ… 」

 

愛留「 だよね~♪ 」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

そんなこんなで、二人は愛留の家の前に着いた。 ( 二人の家はお隣同士である。 )

玄関先で花梨が待っていると、愛留が家の中から大きな箱を持って来た。

『モンスターバスター・FD(フルダイブ)ヘルメットセット』だ。

 

愛留「 はい♪ 一日 早いけど、誕生日おめでとう♪ 」

花梨「 おぉ! ありがとう♪ 早速、今夜から使わせてもらうよ♪ あと、アンタの誕生日には同じくらい高価なモンをプレゼントすっからさ! …たぶん。 」

愛留「 ハハ…♪ まぁ、期待せずに待ってるよ♪ じゃあ、また、月曜に学校で…あ…もしかしたら、日曜夜にウチもログインするかも? まぁ、旅の疲れがなかったらだけどね♪ 」

花梨「 あぁ、わかった! じゃあ、またな! 」

愛留「 ん♪ またにゃ~♪ …じゃなくて、またね~♪ 」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

花梨は帰宅後、自室に荷物を置いた後、家族と食事を済ませ、一番風呂に入った。

 

その後、水色のパジャマに着替え、自室に戻って『モンスターバスター・FD(フルダイブ)ヘルメットセット・Sサイズ』を開封した。 ( 一般的な女性や小柄な男性はSサイズらしい。 )

 

中には、メタルブラック(光沢のある黒色)のFDヘルメットと専用のグローブとブーツが一組づつ、監視カメラが一台、WEBサイトのURLとコード番号とパスワードが記載されたカード、そして、簡単な取説(A4用紙一枚)が同梱されていた。

 

花梨は、分厚い取説は読む気がしない性質(タチ)だが、幸いにも取説はA4一枚だけだったのでざっと目を通してからセッティングをはじめた。

 

まず、ゲーム機本体(PF(プレイ・ファクトリー))からネットワークにアクセスし、MBFD(モンスターバスター・フルダイブ)の公式サイトにアクセスした。

次に、同梱されていたカードのコード番号とパスワードを入力。

無事にサイトからMBFDのゲームがダウンロードされ、インストールも完了した。

 

次に、付属の監視カメラを、自室をほぼ一望できる位置(本棚の上)に取り付けた。

FD(フルダイブ)システムは画期的なシステムだが、フルダイブ中は(通常の睡眠状態と比較して)身近で大きな物音や大きな地震などがあっても目が覚めにくいという欠点がある。

そこで、メーカー側は監視カメラを付属して、プレイ中はユーザーの自室に その監視カメラをセットしてもらい、部屋の中やユーザーの身体に異常が見受けられた時は、すぐさま警報が鳴ってフルダイブが強制遮断されてユーザーが即座に現実世界に戻って来れるようなシステムにした。

例えば、フルダイブ中に万が一、地震や火事があった場合や、泥棒が窓から侵入してきたりした場合は、即座に監視カメラが異常を察知して前述のような処置(警報と強制遮断)をとるようになっている。

また、フルダイブ中にユーザーの身体が異常に発汗していたり痙攣していたりするような場合も即座に監視カメラが異常を察知して前述のような処置をとる。

ちなみに この監視カメラは、通常時はコンセントで家庭用電源から電力供給しているが、バッテリーも内蔵されており、家が停電になった場合などは この内蔵バッテリーに切り替わる。

更に、FDヘルメットの内部にもカメラがセットしてあり、プレイ中(ダイブ中)のプレイヤーの表情や発汗や発熱などをチェックして、異常があった場合は前述のような処置(警報と強制遮断)をとるようになっている。


監視カメラをセットし終えた後、花梨は、両脚にFDブーツを履き、両手にFDグローブをはめた。

ちなみに、ヘルメット、ブーツ、カメラ、共に、電力供給の必要があるので(無線ではなく)有線となっており(配線が付いており)、ゲーム機に接続されている。

とはいえ、プレイ中はベッドで寝ながらだし、意識は完全にゲーム内に入ってしまうので、配線を邪魔に感じることはない。

 

そして…いよいよFDヘルメットを被った。 ( このヘルメットにも配線が付いており、ゲーム機に接続されている。 )

 

「 ふぅ~… 」

一通りセッティングを完了した花梨は一呼吸し…

 

「 よしっ! じゃあ、いよいよ、はじめるか♪ 」

 

そう呟いて、FDヘルメット・ブーツ・グローブを身に着けた状態でベッドに横たわり、モンバスFDの世界にフルダイブしたのだった…。


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