後編

「はいはい、いるから叫ぶんじゃないよ」


 レナはそう言いながら礼拝堂へと向かった、リナも後をついていく。

 すると、そこにはいつの間にかリアやマティア、ケイト達まで来ていた。


「なんだなんだ皆いるじゃないか」


 レナとリナ以外の教会関係者と一部部外者が集まっていた、最後に入ってきたレナとリナの姿を確認した雅代が声をかけてくる。


「小松屋の店長さんから新商品の豆乳納豆プリンを沢山いただいたんですよ、それで皆さんと食べようと思って持ってきたんですよ」


 そう言って雅代は二人にもプリンを手渡す。


「へぇ、小松屋の新商品かぁ。しかし豆乳納豆プリンて……あそこ時々とんでもないゲテモノ作るよな」


 レナは手渡されたプリンを見てそう答える、リナも顔をしかめながら手渡されたプリンをマジマジと見ている。

 オタク二名が先陣を切ってプリンのふたを開けていた。


「くあー! 臭いでつ。なんでつかこの臭い!」

「この食欲をそぐ臭いは凄いでござるな、これを考えた人の血は何色でござるか?」


 オタク二人が悶え転がりだす、それを見たリナが雅代に。


「言いにくいんだが、コレは絶対に不良在庫を押し付けられただけじゃないかな?」

「……」


 リナに言われて、雅代は二、三度瞬きをすると目をそらした。

 雅代の反応に肩をすくめたリナは周りを見回した、すると部屋の隅に少年と思われる人物を発見した、背丈は小学生の低学年ほど少し頭の大きい子供に見える。オリ〇クスバファローズの野球帽を目深にかぶっているので顔は見えない。


(藁、ストラップ、帽子かなるほど、やはりそうか。答えは最初から提示されてたというわけか。あとバッファローは乳牛じゃないからな)


 その人物を見たリナは何かを納得したようだ。


(しかし、アレは誰も気づかないよ。そもそもアレがどういう物かを知っていても解読が出来ない、まあ、そのためのヒントだったわけか。レナの言っていたように迷惑なことだ)


 リナは深いため息をつくとレナの方を見て言った。


「牛乳プリンを盗んだ相手が分かったよ」


 リナの言葉を聞いたレナがリナに詰め寄ってきた。


「ほ、本当か? あんな良くわからないヒントで良くわかるな」

「答えは最初から出ていたんだよ」


 リナから応えは最初から出ていたという意味不明の事実を聞かされ、目が点になるレナ。


「え? はぁ? どゆこと?」

「まあ、そういう反応になるな。 丁度いい全員揃ってるようだし種明かしといこうか」

「行き成りだなぁ」

「尺の都合なんでね」


 とりあえず豆乳納豆プリンのフタを開ける二人、せっかっくなので貰ったものは頂こうという考えである。しかしフタを開けると……


「「くっさ!」」


 二人でハモって鼻をつまむことになっていた。


「なんだこれ? てか何で大豆製品と大豆製品の組み合わせなんだよ!」

「これは、なかなか。いやいやどこの層がターゲットなんだい?」


 二人とも鼻を摘みながら喋るので鼻声になっていた、しかも目に涙を浮かべている。

 オタク二人とレナリナの反応を見た人たちは、フタを開けようとした手を止めていた。


「小松屋好きのアタシでも、流石にこれは擁護できないぞ……」


 レナはあまりの臭さに泣いていた……

 リナはというと、芝居がかった動作と仕草で、部屋にいる一同を見回すと


「さてさて、これは都合がよろしい。一同揃っておられる」


 リナの芝居がかった声を聴き一同がリナの方を向いた、何事かと言った顔をしている一同。

 再度一同をくるっと見回すと、やはり野球帽を被った子供が部屋の隅にいた。


(注目されるこの感覚はいつ感じても悪くないものだな。そしてやはりいるかプレッシャー)


「私たちは今プリン泥棒を探していてね、この中に犯人がいる可能性が高いんだ」

「まったく、アタシの牛乳プリンを盗むとはふてえやろうだ」


 二人が一同に言うと騒めき始める。

 ざわついてはいるが、ああまたか的な反応であった。


「ちょっとー、もう何度目なのよーリアちゃん忙しいんだけど」


 リアがまっさきにブーブー文句を言いだした。


「やかましい! 犯人候補筆頭!」

「リアちゃんが盗むわけないじゃない! 牛乳プリンなんてカロリーの高いモノを!」

「カロリーなんて考えてたらプリンなんて食えるか!」

「く……食べても太らないヤツは言うことが違うな!」


 リアとレナがロックアップすると力比べをしだした。

 リナは呆れた表情で二人を見る、そして二人を無視して話を先に進めた。


「あー、あのバカ二名は無視して進めよう。リアが言った通りカロリーを気にしまくっている脂肪の落ちにくくなっているリアは犯人から除外していい」

「聞こえてるわよ! アンタも大概失礼ね!」

「ハハ、私はまだまだ脂肪落ちるからね」

「リアちゃんも落ちるわよ!」


 こいつらの相手をしてると話が先に進まないと思い、リナは話を進めていく。


「さて、先日の事だが。レナの取っておいた小松屋の牛乳プリンが何者かに盗まれてしまってね」

「レナさんのプリンを盗むなんて、なんてうらやま……けしからんやつがいたものですね!」

「レナプリンなら一個五〇〇〇円で売れまつね」

「あらあら、レナちゃんまた盗まれてるの? もう何回目かしら?」


(流石はレナだね、事件が事件だから仕方ない気もするが、誰にも心配されて無い所がキュートだね)


 覆面をつけた怪しい男が右手を少し挙げてから発言する。


「HAHAHA、シスターリナ、貴女はここにいる人たちの中に犯人がいると、そう言うわけですね」

「その通りです、ダニエル神父」

「おお、なんと罪深い」

(……初代犯人は私なんだけどな)


 リアと取っ組み合いをしているレナを横目にリナは話を続ける。


「当の本人はバカをやってますが。牛乳プリンが無くなったことにたいそうお怒りでした、私はそんな親友の無念を晴らすべく、犯人を捜すことにしたのです」


 明らかに芝居かかったリナの言葉に一同は息をのんだ。

 それだけリナの芝居に迫力があったのだ。


「さて、現場にはいろいろなヒントがありましてね」


 リナはどこからともなくお釜帽を取り出しそれを被った、ホームズではなく金田一な所がリナらしいひねくれ方だ。


 リナが皆に話しかけている後ろでは、何故か無駄に高度なレスリングバトルが繰り広げられていた。

 リアの鋭いマウントタックルをレナが押さえつけ、倒されないようにしつつリアの上からがっぷりと覆いかぶさりレナがリアを転がそうとする、リアも転がされても素早く立ち上がりレナの後ろを取る。


「ち、すばしっこいヤツだな」

「くそ、バカ力が!」


 そしてまた二人で取っ組み合っていた。


「……まあ、あの二人は放っておこう。では話を進めよう」


 リナは証拠の藁を持ちだし、一同に見せた。


「これは盗まれた後の冷蔵庫付近で見つかったものです」

「あら藁ね? あれ? たしかタンフォリオが最近は藁で出来た蓑を着てたわね」


 マリアは顔を青くした。まさか自分の犬が、そんなはしたない事をしたなんて思いたくないといった表情だ。


「あ、タンフォリオは無実ですよ。ただまあ、変な悪霊と遊んでいましたけど」

「犯人ではないのね、なら良かった。悪霊の話は良くわからないけど今はほっておきましょう」

「あれー、そうするとその藁ってボクの持ってるアレかなー。アレはハロウィンの時から使ってないんだけどなー」


 マティアも自分のハロウィンの仮装の事を気付いたのか弁明していた。


「まあ、慌てなさんな」


 リナはそう言って次の品を取り出す、牛のストラップである。


「そしてこれも落ちていました。牛のストラップです」


 このストラップに反応したのは雅代だった。


「あれ? それって小松屋の牛乳プリンについてくるストラップですよね?」

「ほうほう、それは初耳だ。こんなストラップがオマケについているのかい?」


 リナは雅代に問いかけた、実際にリナは初耳の情報だったからだ。


「ええ、限定プリンですが。そのなかでも最初期に発売されてた牛乳プリンにオマケでついてた品ですよ」

「ほほう、なるほど。そうなるとこの品はますますこの事件のヒントになります」


 リナはこのストラップが完全に牛乳プリンを現すことを確信した、そしてリナが最後に用意していた証拠はもはや答えであった。

 リナはスマホを取り出すととある写真を見せた。

 リナが朝見ていたスマホのニュース記事だ。


「最後はこれです」


 一同はスマホ画面を見るていた。


「ああ、これってミステリーサークルの記事ですよね。近所のモーモー牧場に出来たというミステリーサークル。私もその記事見ましたよ」

「流石はホナミさんだ、よく勉強している」

「でもそれがプリン泥棒に繋がるヒントなんですか?」


 普通はそう思うべきだろう。

 だがリナは確信していた、このミステリーサークルこそが犯人への道しるべ、いやこのミステリーサークルが犯人からの挑戦状であったのだと。


「この証拠を見て何か感想はありますか? 灰村さん」


 リナは後ろで見ていた野球帽の少年を指さした。


「レナから話は聞いていましたが。まさか戻ってきたなんてね」


 ――パチパチパチ

 手を叩きながらリナの所まで歩いてくる少年もとい灰村。

 そして帽子を取るとそこには――


「HAHAHA、なんとこれは私も初めて見るよ」

「わ、私もですよ。知識では知っていましたけど――」


 ダニエル神父とホナミが驚きの表情を、いやここにいる全ての人物が驚いていた。

 それもそのはずだ、そこにいたのはリトルグレイ、すなわち宇宙人だからだ。


「よくわかってくれましたね、ありがとう。このまま気付かれないんじゃないかと思ってハラハラしてました」

「気付きたくは無かったけどね。一応犯人を捜す約束だからね」


 リアとレスリングをしていたレナが戻ってきた、リアは床でのびていた。


「ぜぇぜぇ、若さの勝利だな」

「無念」


 戻ってきたレナにリナは犯人が分かったと伝える。


「と、言うことで彼が今回の犯人の灰村さんだ」

「お久しぶりです」

「あ、はい。どうも灰村さん」


 何故か久しぶりに知人に会ったような挨拶をする灰村であった。つられてレナも挨拶をするが。


「え? は? どゆこと?」

「彼がプリン泥棒だよ」

「なんだとー!」


 レナの叫びに灰村は答える。


「まあ、スペースジョークですよ。プリンをアブダクションしただけですよ」

「お前なにしとんのじゃ!」

「喜んで頂けると思ったんですけどね」

「プリンはやめろよ! リアの顔パックにしろよ!」


 リアを指さしながら灰村に詰め寄るレナであった。


「なんでリアちゃんに振るのよ!」

「次はそうします」

「アンタも次とか言ってるんじゃないわよ!」


 呆れた顔で灰村たちを見ている雅代やケイト達、完全に置いてけぼり状態であった。

 しかしそんな外野を無視して話を進めていくリナとレナ。


「さて、では灰村さんこれ等の品は全て貴方が置いたものですね?」

「ええ、気付かれないかと思って証拠を残すことにしましたよ」

「見つかりたかったのかよ……」

「イエス」


 もはやこの場は三名の小話劇場と化していた。

 すでに外野は思い思いに行動をしていた。


「灰村さん、貴方が気付いてほしかったのはコレですね」


 リナは灰村にニュース記事を改めて見せた。

 そう、ミステリーサークルの記事だ、レナもこれを覗き見ている。


「ん? ミステリーサークルはメッセージだっていってたよなぁ」

「ええ、そうです。ですが気付かれていなかったようでミステリーサークルが私のメッセージだと気付けるように牧草、ストラップ、帽子をヒントとして置くことにしました」


 もはや何言ってるんだこれ? 状態の三名の会話。

 そしてリナは最後の質問を灰村にした。


「私はニュース記事を見ていたからね、途中でミステリーサークルには気付けたんだが」

「リナ、お前やっぱすげーな。普通気付かないぞ」

「……」


 褒められても微妙に嬉しくないと思うリナであった。


「……で、ここが問題だったんだ。このミステリーサークルを見ても何が書いてあるかわからない! 灰村さんこのミステリーサークルの意味は何なんだい?」

「あぁ、そうか地球人では解読が出来ないか、盲点でしたね」


 灰村は頭をポリポリ掻きながら答えを話しだした。


「あのミステリーサークルはね、レナさんに『牛乳プリンは頂いた! 美味しかったぜ』ってそれだけのお礼のメッセージなんですよ」


 その答えを聞いたレナは叫び、リナも呆れる」


「お前にプリンをやった覚えはないわい!」

「はは、やはりどうでもいい内容だったか」

「そうなんですよー、いやー気付いてもらえて良かった良かった」


 はっはっはと笑う灰村、そして腕時計を確認すると灰村は


「おっと、それでは時間なんで私は行きますね」


 灰村が言うと辺りが暗くなった、何だと思い思いにしていた人たちが窓から外を覗くと教会の上に大きなUFOが上空に待機していた。


「それでは皆さん、また会いましょう」


 灰村はそう言うと窓から外に出てき、UFOからの光線を受けUFOへと吸い込まれていった。


「レナさん! リナさん! 私UFOなんて初めて見ましたよ!」

「僕もでつよ!」

「拙者もでござる」


 雅代とオタク二人ははしゃいでいた。


「はしゃぐなよ、まったく」

「レナの話通り迷惑な宇宙人だったよ。しかし犯人が見つかってよかったじゃないか」

「ん、あぁ……あ! プリン弁償させるの忘れた!」


 またも叫ぶレナであった。


「あ、レナさん納豆プリンまだ余ってますよ?」


 雅代はそういうとプリンを取り出した。


「それ臭いからいらねーよ!」

「はぁ、やれやれまったく騒がしい連中だよ」


 こうしてみどりむし教会の騒がしい日常は幕を閉じるのであった。

 謎? 事件? いやいやこんなのはここの日常風景ですよ。


          -おわりー

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シスターリナと謎解きたい! -シスターレナに叱られたい!番外編ー 雛山 @hinayama2015

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