シスターリナと謎解きたい! -シスターレナに叱られたい!番外編ー

雛山

前編

 静かな日常はある人物の叫び声で終わりを告げる。


「あぁー! またアタシの小松屋の牛乳プリンが無くなってるー!」


 叫んだのはこの教会のシスターである幕田玲奈、元々は不良であった彼女の言葉遣いはいささか乱暴である。

 そのレナの声が厨房に木霊した、レナは冷蔵庫の中を再度覗き込む、目的の物が無いと確認したら冷蔵庫の扉を閉めた、レナは拳を握りプルプルと震えていた。


「まさか、またアイツか?」


 レナはそう呟くと台所を出ていった。


 ――

 ――――


 一人の女性が自室でスマホのニュースを見ていた。

 彼女は聖方里菜、この教会のシスターの一人である、元々は歌劇団のメンバーであった異色の経歴の持ち主である。


「久々に出現したミステリーサークルか……前にレナが何か言っていたな。たしかミステリーサークルは宇宙からのメッセージだとか……しかもこれ近所のモーモー牧場じゃないか、世も末だね」


 リナはスマホの記事の写真に写るミステリーサークルを見ながら、解読できないものかを考える。


「ふーむ、この模様が牛に見えるが……いや、場所が牧場だからそう錯覚しているのか?」


 あれこれ考えながらぶつぶつと呟いていると、部屋のドアが凄まじい音を立てながら開く。


「リナー! テメェ、コノヤロー! またお前か!」


 怒鳴りこんできたのはレナであった、そんなレナを冷めた視線で見るリナ。


「なんだいレナ? 昼間から元気なのは良い事だが、行き成り怒鳴り込むのは感心しないな」


 スマホの新聞記事から目を放し、芝居がかった喋り方で返すリナ。

 そのリナにレナはプリンの件を話す。


「お前、またアタシの牛乳プリン食べただろ?」

「プリン? 小松屋のかい?」

「そう、それ」

「確かに前にアレを食べたのは私だが、今回は私ではないな」

「リナじゃないとなると……じゃあ、誰なんだ?」


 レナは首をかしげる、リナは腕を組みレナを見つめる。

 レナから視線を外しリナは溜息をつくと。


「まったく、レナに疑われたままというのは気持ち悪いな。私が犯人捜しを手伝ってあげよう」

「いいのか?」

「殺人事件を未然に防ぐためでもあるからね」


 リナの発言にレナは眉をしかめ反論した。


「流石のアタシもそこまではしないぞ」

「結果、殺人事件になったら困るだろ?」

「ぇー」

「流石に私もインタビューで、『彼女ならいつかやると思ってました』なんて言いたくないからね」


 リナは声色を変えて、インタビューの真似をしていた。


「いや、多分大丈夫だろ?」


 レナは目をそらしながら自信なさげに呟いていた


「多分でも困るんじゃないか?」

「神は言っている『食ったやつが悪い』と」

「……今度から名前でも書いておいたらどうだい?」

「書いてあったよ」

「そ、そうか……」


 リナとレナは部屋を出て台所に向かうことにした。


「さて、まずは現場を見るとしよう、何かヒントがあるかもしれない」

「何もなかった気がするんだがなぁ」

「とりあえず行ってみよう」


 台所に着くとリナは白い手袋を着けると冷蔵庫の周りを調べ始めた、テキパキと調べていくリナ。


「お前、手際良いな」

「ははは、探偵ものの演目もやったことがあるからね」

「え? 演じただけで出来るものなのか?」

「さあ?」


(流石はリナだ、やっぱこいつおかしいよ)


 レナはそう思ったが面倒なので言葉にするのは止めた。

 そして一通り冷蔵庫を調べ終えたリナがレナの所にやってくる。


「冷蔵庫には怪しいところはなかったね」

「まあ、プリン盗られただけだからなぁ」

「冷蔵庫にはなかったが、これを見てくれ」


 リナが何かを見つけたようで、見つけたものを摘みレナに見せる。

 レナがそれをマジマジと見ていると。


「あぁ……レナが私を凝視している。いいじゃないか!」

「お前なんて凝視してねーよ! しかし、これ藁なのか?」


 頬を上気させながらリナが立ち上がると、ほぅと溜息をついてから話し出す。


「ああ、藁だね。この教会で藁なんて使ってるものはないはずだ」

「確かにないなぁ、てことはこれは犯人の持ち物の可能性が高いってことか」

「そういうことだね。しかし藁を使った装飾品を持ってる人物なんていたかね?」


 ふむと唸り、リナとレナは二人で腕を組み考えだす。


「草鞋を履いてる教会関係者や参拝者はいないはずだね」

「ああ、見たことないなぁ。和装の人なんてほぼ来ないだろ」

「ほぼというか私は見たことがないね」

「アタシもないな。他には藁人形かなぁ?」


 レナの発言にリナは一瞬目を見開く、そしてジト目でレナを見る。


「藁人形を持って歩いてるヤツとか嫌だろう、しかもそんなヤツがプリンを盗むとか」

「そうなんだけどさあ、この街ならあり得そうで怖いんだよ」


 変人を見慣れてるレナの発言は謎の重みがあり、リナは少し恐怖した。


「ぐ……完全に否定ができないな」

「だろぉ。プリンを食べてから丑の刻参りする新種の呪いかもしれないしな」

「最低だなそれ」

「アタシもそう思う」


 藁を見つめながら下らないことを喋っていた二人。しかしふと思い当たることがあるのかレナが声を上げた。


「あ! マティアかリアのどちらかかもしれない!」

「……」


 レナの言葉を聞いてマティアとリアが藁を使った装飾品を持っていたか思い出そうとするリナだったがどうも心当たりがない。


「うーん、リアもマティアも藁を使った装飾品なんてしてたかな? レナ、君の意見その心は?」


 レナの発言の真意を聞くリナ。

 レナが何かを思い出したのは確かであった、しかしリナにはリアとマティアが藁を身に着けていた記憶が無い。


「ああ、ハロウィンの時になあの二人は何故かナマハゲの仮装をしてたんだよ」

「ナマハゲ? なんでまた?」

「さあ? あいつらの考えてることなんて、わからないからねぇ」

「確かにな、あの二人はアホだからなぁ」


 何故ナマハゲのコスプレをしたか謎は残るが、今考えることはそこではないので其のことを振り払いリナは思考を巡らせる。


(ナマハゲか……ナマハゲの恰好なら蓑か、確かに藁を使っているな。しかし引っかかる、リアは体型維持や諸々のため間食はあまりしない、それがレナのプリンを盗んでまで食べるだろうか? では、マティアか? いくらマゾのマティアでもナマハゲの恰好でプリンを盗むだろうか? レナのプリンを盗むなんて私以外がやったら自殺でしかない)


「ナマハゲの恰好で得られるメリットは何だろうか?」

「顔がばれないからじゃないのか?」


 レナからは妥当な答えが返ってきた、普通に考えれば顔を隠す理由なんてそれくらいしかない、リナはそう考えていた。


(藁ねぇ……事件のカギを握ってるのは確かだが、どうにも繋がらない)


「顔がバレないだろうが、やはりナマハゲはないだろうな」

「ナマハゲがないと思うワケは?」


 レナの質問に少し考えてから応えるリナ。


「よく考えてみるんだ、ナマハゲの恰好をしていたのはマティアとリアの二名だけだ」

「そうだね」

「顔が見えないとはいえ、そんな特定されやすい恰好をするメリットがない。しかもあの格好だ逆に目立ってしまうぞ」

「言われてみればそうだな」


 二人があーだこーだと推理を巡らせてる姿を、少し離れた場所から二人を見つめる小さな影があった。


(ん、視線?)


 舞台をやっていたためか視線などには敏感なリナが影がいた場所を見る、しかし影はすでに消えていた。


(気のせいだったのか?)


 リナは首を傾げ視線をレナの方へと戻す。


「さて、藁にばかり気を取られていても先には進めないな」

「他にもヒントになりそうなものを探すということか?」

「ああ、その通りだよ。必ずまだ何かあるはずだ。もう少しこの周囲を探してみよう」

「わかった」


 二人が出口の方に向かおうとすると小さな影は姿を消した。

 リナが注意深く床を調べながら移動する。


「ふむ、やはり細かい藁が落ちているな」

「細かいって事は、藁の束や蓑みたいな物から落ちたってことだよな」

「おそらくね」


 リナは藁をつまみ上げマジマジと見ている。


「ん? おい、リナこれって」


 レナが床に何かを見つけたようだ。

 泥のような汚れと、人間の手のひらの後と思われる汚れが床についていた。


「泥汚れで少し伸びてしまっているけど、小さい何かの足跡かな? 隣のは人間の手の跡か?」

「ああ、どうやらこれも犯人の痕跡か」

「いやー、私は違うと思うなこの手の跡なんて嫌な予感しかしない」

「何故だい?」


 リナはとある人物……いや、人ではない何かを思い出していた。


「コココ……」

「リナ、お前変な笑い方するんだな。というか何が面白いんだ?」

「私がそんな下品な笑い方をするわけないだろう」

「んー、確かにこの声どこかで……」

「「まさか!」」


 二人は同時に叫び同時に天井を見る。そこにはブリッジをしながら天井にへばりつく女性の姿があった。


「お前かよ、ヨシコ!!」

「害虫駆除に駆除されたんじゃなかったのかい?」


 二人に見つめられてヨシコは首を回しながら,

 ガガンボのように上下運動をする。


「レナ、私はアレ何度見ても馴れないんだが」

「アタシもだよ、むしろ馴れたらアタシ達末期だぞ」

「いや、変態に慣れてるのは君だけだよ」

「テメェ」


 髪の毛を伸ばし地面に付ける、その髪の毛を縮めながら降りてくるヨシコ。

 するとブレイクダンスのように回りだす。


「キモイ行動のバリエーションが増えてやがる」

「しかもコイツ井戸に沢山いたサイズの小さいヨシコじゃないのか?」


 二人がヨシコと対峙していると今度は後ろから犬の鳴き声が聞こえた。


「きゃんきゃん!」

「タンフォリオのヤツか?」


 マリアの飼ってる犬であるタンフォリオの声が聞こえた。

 レナが声のしたほうを向くと、そこには……


 ブリッジした小さなヨシコが大量にいた。


「うわーーー!」

「レナ! 耳元で叫ばないでくれない……うわーーー!」


 しかも中央にいるヨシコのお腹に何故か、タンフォリオが座っているのであった。

 大量のヨシコ、おそらく五十匹ほどはいるであろうヨシコに二人と対峙していたヨシコも合流していた。


「やはりキモイな」

「タンフォリオ! お前も友達は選べよ!」


 レナはタンフォリオを見て違和感を覚える。

 タンフォリオは普段付けていないモノをつけているのだった。


「あれ? タンフォリオの背中」


 レナがタンフォリオを指さしながらリナに伝える。


「ん? 蓑か」

「タンフォリオが何で蓑を着てるんだ? マリアさんの変な性癖か?」

「そんな性癖嫌だな。しかしそうなると、あの藁はタンフォリオの着けてる蓑から落ちたって事かな?」

「そうなるのかな?」


 タンフォリオがヨシコとここで遊んでるのなら確かに辻褄が合う、レナはこの事実で納得しているようだがリナはどうも違和感を覚えていた。


「なかなか厄介な事件のようだな」


 礼拝堂がバタバタと騒がしくなっていた、どうやら人が複数やってきたようだ。


「レナさーん、皆さーん、いますか?」

「留守でつか?」

「お土産があるでござるよ」


 女性と男性の声、最低でも三人いるようだった。


「雅代とオタク二名か、雅代も最近はアイツラと良くいるがアイドルとしてどうなんだ?」

「ふふ、君の熱心なファンたちじゃないか」

「なんでアタシなんかがいいんだろうな?」

「君はもう一度よく鏡を見てみることだね、私も歌劇団にいたから容姿には多少の自信があるが。その私から見ても君は相当なものだよ」


 リナは美醜に関してだけはお世辞を言わない人間であった。

 事実レナは容姿だけはアイドル顔負けであるからだ……中身は、うん。


「とりあえず、雅代たちの所に行くか」

「そうしよう」


 二人は声のしたほうへと向かって歩き出した。

 レナがさっさと歩いていくが、リナは足に何かが当たりそれを拾い上げる。


(おや、牛のストラップ何故こんなものが落ちている? さっきまでは無かったはず、いつの間に落ちていた? そしてこれは誰のだろう?)


 ストラップをポケットにしまうとリナはレナの後を追った。


(藁、牛、牛乳プリンか……どうやら見えてきたな)


 そして、またこちらを覗いていた人影がいたのであった。

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