第12話 授乳狂時代 |4-4| 牧原征爾
アンドロイドにまつわる悲惨な話を耳にするたびに彼らに同情心が芽生えたりしていたのも事実だが、サイトウに対してはそんな気が微塵も起きなかった。彼女に対する自分の野蛮な行為に嫌悪することもなく、実に動物的で情動的な熱中の仕方をしていた。
あっけなく彼女の身体の中で絶頂を迎えてしまったのだが、久方ぶりの性交渉ということもあってか、すぐさまペニスが力強く脈打って回復してくるのを感じた。俺はサイトウと結合した状態を解くことなく、彼女の首元に手を添えて締め付けたり弱めたりしながら、激しく腰を振っていた。締め付ける力を強めるほど、サイトウの身体は硬直して膣内の締め付けまで連動して強まるのがわかり、俺はそのことに驚きと共に心地よさを感じていた。
アンドロイドが人間の力なんかではそう簡単に壊れないことをいいことに、俺は数分という長い時間にわたって手の力をいっさい緩めずに全力で彼女の首を締め続けた。その間も腰の激しいピストン運動は止まることなく徐々に勢いと激しさを増していった。サイトウの赤くむくんだ顔と目を充血させながら苦悶する様子を眺めていた。これはプログラムされた反応なのか、それとも演技なんのか、はたまた本当に苦しいのか。サイトウのうつろな視線が俺にまとわりつく。さすがにヤバいか?と咄嗟に思い手の力を一気に緩めると、彼女は激しく咳き込んで口元から涎を垂れ流しながらえずいた。
窒息死する寸前まで追い込まれたような苦しみに歪んだ彼女の表情を見つめながら、俺は二度目の絶頂を迎えた。サイトウが咳き込んだときに、赤ん坊がその音で眠りが浅くなったのか、「アアー」とうめき声をあげたが、完全に目覚めてしまうことはなく、なんとか眠り続けてくれた。
俺は事が終わると力尽きてしまい、床に寝転がった状態で呼吸を整えていたが、少しすると急激に襲ってきた眠気に抗うように目をしばたいていた。
「あのさ、首を絞められると、本当に苦しいの?」ふと気になったことをサイトウに尋ねて眠気を追い払おうとした。
「身体が破壊される危険にさらされない限りは……、一般的な生体反応を示すようにプログラムされています。ですから、首を絞めつけられたりすれば……、人間と同じようにとても苦しくなります。」彼女は乱れた呼吸を整えようと努めつつ、そのように答えた。
「実際のところは呼吸だってする必要ないだもんな。いまも苦しそうに話してるけど、それって演技なわけ?」
「いえ……、これは本当に苦しいのです。そのようにプログラムされていて、私たちはプログラムに逆らうことはできないですから。」
「なるほどね。」と俺は彼女が本当に苦しいという感覚を理解していることを想像してみてから、「それなら、逆に気持ちよくも感じるわけだ。」と思いあたり聞いていた。
「それは、ご想像にお任せ致します。」幾分、落ち着きを取り戻したサイトウは、静かに目を伏せて答えた。「いまさら、はぐらかさなくたっていいじゃないか。」と言いながら、俺は自分の発する声が遠のき、強烈な眠気の渦に飲み込まれていくのを感じた。
キッチンからの物音で目覚めた。直前になんらかの夢を見ていたのは分かるが、その内容の断片すら思い出すことが出来ないもどかしさがあった。
「起こしてしまいましたか。出社までにはまだお時間がありますよね。」ダイニングキッチンに行くと、サイトウは抱っこ紐を利用して赤ん坊をあやしつつ、簡単な食事を用意しているようだった。俺は彼女の作った軽食を食べることはせず、妻の気配に怯えるようにしながら、そそくさと家を出た。
分厚い鈍色の雲が空を覆っており、本降りに備えた予行練習を思わせる小雨が既に路面を濡らし始めていた。
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授乳狂時代 |4-4| 牧原征爾
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