第8話 授乳狂時代 |3-3| 牧原征爾

 乳児用の小さなプラスチック製の浴槽に水を溜める音が浴室の方から聞こえてきた。赤ん坊を沐浴させる際に濡れてしまわないように、サイトウも衣服を脱いでいるのだろうか?あの立派で大ぶりな乳房を持つ彼女がふたたび裸に近い恰好となって俺の家の浴室で赤ん坊を湯につけている……。


そんな姿を想像していると再び勃起してきてしまうのだった。いや、今回はむしろ自ら勃起を促すために想像したといったほうが当たっているだろうか。


俺は何事かを警戒するかのようにして音を立てずに部屋から出て、廊下の突き当りにあるトイレに向かうと、サイトウの乳房のことを思い返しつつ着ていたスウェットのズボンを静かに下ろして、大きくなったペニスを握ってゆっくりと自慰を始めた。妻に対する背徳感のためなのか、信じられないほどの興奮があった。


妻の妊娠が発覚して以来、彼女との性交渉はほぼ完全に途絶えた状態だった。体臭を嗅ぐのも嫌だと言って同じベッドで一緒に寝ることを拒絶されているので、俺は夫婦生活を営むことができず知らぬ間にひどい欲求不満に陥っていたのかもしれない……、そのように自己弁護しながら妻以外の女の身体を思ってトイレの中で激しく自慰にいそしんでいた。


サイトウの乳房のことを思い返しながら自分のペニスを擦っていると、妻に抱くのとは違う得も言われぬ強い欲情がわき起こってきて、あまりの気持ち良さに身震いがした。あの乳房を揉みしだいてみたい、そんな欲求と共に太い血管が浮き上がって赤黒く膨張しきっているペニスを擦る右手の動きは速まり、腰の方も自然とそれに合わせて軽く動いているのだった。


自慰の際に勝手に腰が動き出してしまうというのは初めての体験で驚きがあったが、同時に盛っている雄犬が節操なくどこでも腰を振るような動物的な姿だな、と興奮の最中にあって俺は妙に冷めた連想をしていた。


そのまま絶頂を迎えそうになったまさにその瞬間に、赤ん坊の甲高い泣き声が浴室の方から聞こえ、急激にペニスはしおれていってしまった。赤ん坊のなにを考えているのか分からないむくれた表情が頭に浮かんできた。


そろそろ赤ん坊の沐浴を終えてサイトウが浴室から出てくるかもしれなかった。


俺はすべてに嫌気がさして、脱いだスウェットのズボンを急いではき直した。


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授乳狂時代 |3-3| 牧原征爾

読了頂きありがとうございます。

2~3日おきに連載していきたいと思います。

(最近は更新頻度が1週間に1回ぐらいに落ちていますが……、頑張ります)

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