05/身嗜み

外へ出るにあたって、もしかしたら雨音には嫌な思いをさせてしまうのではないかと、僕はかなり不安だった。

尻尾と耳は隠してもらう事が出来たけれど、お面だけは外す事が出来なかったからだ。

人は、珍しかったり、一般的に普通ではない物にはとても冷たい視線を向けるから、雨音もそう言う目で見られるんじゃないかと心配だった。

しかし、どうやらそれは余計な心配だったようだ。

僕と手を繋ぎ歩く雨音は、見るからにウキウキしていてとても楽しそうで、その様が雨音に向けられる奇異の視線をことごとく塗り替えて行った。

今の上機嫌の雨音を微笑ましく思うのは、どうやら僕だけではなかったようで、ほっとした。


そうして特に大きな問題が起きる事もなく、僕と雨音は数駅程移動した場所にあるショッピングモール、その中にある服屋に来ていた。

休日の昼間なだけあって人が多い。


「とりあえず見て回ろうか。」


僕の提案に雨音は頷く。

たくさんの服が並ぶ店内をしばらく二人で歩いてみたけれど、雨音はそれらを眺めているだけで手に取る気配が全くない。


「好みの服はなさそう?」


気になって聞いてみる。

雨音は頭を左右に振った。

そう言う訳ではないらしい。

でも、それならどうして見ているだけなのだろう?

僕がそんな事を考えていると、雨音が僕の服の裾を引っ張る。


「どうしたの?」


と聞いてみると、雨音は僕の顔と並んでいる服を交互に見る。

何だろう?


「どれが欲しいの?」


もしかして遠慮しているのではと考え、僕は雨音にそう聞いてみる。

しかし、そう言う訳でもないようで、雨音はまた頭を左右に振ると、僕の服の裾を引く。

何だろう?本当にわからない......

僕が雨音の考えがわからずに困っていると、遠くの方にいる家族の会話が偶然耳に入った。

それはこんな内容だった。


「お父さん!お父さん!この服どう?似合う?」


「うん、とっても良く似合っているよ。」


「そればっかりー!」


「あはは、ごめんよ。でも本当にどの服も似合っているからさ。」


「それじゃ、いつまでも決まらないよー!」


家族間のなんて事のない、なんとも微笑ましいやり取りだった。

欲しい服を決める事のできない子供が、親に選んで貰っていると言った所だろう。

そんな親子のやり取りを聞いて、僕はもしやと思い雨音に


「もしかして、僕に選んで欲しいの?」


と、そう聞いてみる。

すると雨音は力いっぱい頷いた。

当たりだったようだ。


「僕が選ぶのか......」


人の、しかも異性の服を選んだ経験なんて、僕には当然あるわけがない。

しかし、真っ直ぐに僕を見てくる雨音に無理だとも言えず


「わかった。頑張ってみる。」


結局、僕は雨音の服を選ぶ事にしたのだった。

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