第27話 将来に向けての取り組み

 仲里さんという漫画編集者と出会ってから、彼女にアドバイスしてもらっていた。学業を第一に優先して同人誌を描きながら、漫画新人賞への応募を繰り返し行って、活動的に漫画に関わる毎日を過ごしている。


 知り合いになった仲里さんと、あの後も連絡を取り合い関係が続いていた。仕事と関係なく、プライベートで僕の同人活動の手伝いをしてくれている。


 僕のモチベーションの管理から、スケジュール調整、新作の同人誌やコンテストに応募するように描いた作品を確認して、色々と指摘してくれたり、新しいアイデアを話し合ったりしてくれた。


 漫画家を支える編集者としての仕事を、無償でしてくれていた。彼女の働きぶりはとても助かっていたので、手伝いとは言え相応の給料を支払いますと提案をしたが、僕の申し出を彼女は断ってしまう。


「将来、一緒に働けたらそれで十分ですから。あなたは何も気にしないで、今は腕を磨いて下さい。それを支えられる事が、私の幸せなんですから」


 そう言って、絶対に僕からのお金を受け取ろうとはしなかった。そんな彼女のためにも、最高の作品を作り上げようと技術を高めていく事に集中できた。将来、傑作を生み出す事ができたたときには、編集者さんという手助けしてくれる人が居てくれたから、描くことが出来たと言えるように。いつか、仲里さんの利益になるような働きが出来るように備えておく。




 高校の2年生から卒業間近までの間に、新たに8冊以上の同人誌を発行した。年に4冊以上の発行ペース。余った時間に描いていたら、それだけの作品が出来ていた。


 学業を第一優先で絶対に無理が無いような作業スケジュールを立て、負荷も少なく同人活動を行うことが出来た。それでも、他の同人作家と比べてみると発行ペースはほぼ同じくらい、だろうか。これも仲里さんが上手にスケジュールを調整して予定を立ててくれるから。その通りに作業を進めれば、ちゃんと作品が完成した。


 最初の出来事によるインパクトで、テンセイの名は同人界で既に知れ渡っていた。そのおかげだろう、その後に販売した7冊の作品も飛ぶように売れた。評価も高く、作品のクオリティが認められたようで嬉しかった。何冊かは、評価がぼちぼちという作品もあるが、一応売れた。


 学年では一番の成績を収めながら、描いた同人誌も売れていた。どちらの活動でも結果を残せて、無理なく両立することが出来ている。


 ただ残念ながら僕の本命である漫画新人賞では評価を得られないままで、不合格が続くという結果だった。


 仲里さんから、シナリオだけ別の誰かに頼んで描いてみてはどうか、という原作をつけるアドバイスをしてもらった。だが僕はあまりその方法については気乗りせず、彼女の提案をやんわりと突っぱねてしまった。


 仕事とは関係のないコンテストに応募する作品については極力、自分の能力だけで挑戦したい、という頑固な考えによって。まぁその結果、僕の作品は入賞すら出来ていないという不甲斐ない結果。仲里さんのアドバイス通り、原作者をお願いするべきかな。


 どうやら僕は、世間と価値観や常識がズレている部分があるようだ。それで、僕の描く作品はストーリーの内容に問題があるようだった。課題については分かっているので、そこを色々と改善して試してみるが思うようにいかない。




 試行錯誤しているうちに、高校の卒業が間近に迫っていた。進路をどうするのか、決めないといけない時期になった。大学への進学は、考えていなかった。というか、この世界の男性は大学に進学するというのは余程の理由がない限り、選択しない進路らしい。ほとんどの男性が高校を卒業した直後に、すぐ相手を見つけて結婚する子が多いという。


 高校を卒業したら僕は、漫画家として本格的に働き始める予定だ。未成年で学生である僕も、成人向け漫画を描くというのに問題は無さそうだ、という事が仲里さんの調べによって判明したから。


 仲里さんに、ある雑誌で作品を掲載する枠を用意してもらった。まずは短編から。だけど、商業誌に載せてもらえるらしい。


 自宅の近くに作業場とする部屋を借りた。僕は、前世と同じような道を順調に辿り始めている。ただ前と比べて、格段に知名度がある状態から順調にスタートすることが出来そうだった。もう既に、雑誌に掲載してもらえる予定もあるし。


 不本意ながら、僕が求めていた一般向けではなく、成人向けの漫画家としてだが。でも、漫画を描いて人に読んでもらえるという場があるのは純粋に嬉しい。


 同人界を騒がしているらしいテンセイが、商業誌でデビュー。かなり話題になっているらしくて、着々と準備が進んでいた。約束していた通り、仲里さんと働ける日が近付いてきたのだった。


 今までは、学業優先だったので漫画を描く時間も限られた間だった。これからは、一日を作業の時間に充てることが出来るようになる。


 無理しないよう、注意は怠らないように。けれども、作業する時間があるとはいえ連載が決まると、今までの作業スピードでは間に合わないかもしれない。


 ということで仲里さんから、アドバイスがあった。


「アシスタントを雇いましょう」

「やっぱり、必要ですか?」


 まだちょっとアシスタントを雇うのは早いんじゃないかな、という気もする。だが仲里さんのアドバイスは、聞くべきだろう。


「今までは作業ペースも個人の活動だったので自由がきいて、最悪の場合には締切もどうにかなりました。けれど雑誌に掲載するとなると、締切はキッチリと守っていかないと。今までと違って限られた時間内に、今までのクオリティを保ちつつ、一人で作品を完成させる、というのは非常に困難になってくると思います」

「そうですね」


 僕も仲里さんの意見に賛成する。雑誌に掲載するためには今までの作業方法から色々と変更していかないと。これから、どんどん漫画家として活動していくつもり。だから、今のうちにアシスタントを雇って備えることは必要か。


「ところで、仲里さん。アシスタントを頼めるような人って……」

「実は、既に何人か候補を挙げておきました」

「そうなんですね、ありがとうございます」


 いつものように仕事の早い仲里さんの働きによって、アシスタント候補となる人を既に選んでくれていたという。僕に確認を取ってから数日後には、アシスタント候補から何名か面接を行う予定となった。

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