第26話 校内の男子人気について《女子生徒》

 午前中の授業が終わって昼食の時間も過ぎた頃の、とある昼休み。


 校庭に出てきて遊んだり運動している生徒たちの様子をぼーっと眺めつつ、2人の女子学生が、花壇の前にある広場でダラっとしたようなポーズで座って、おしゃべりしていた。


「ねぇ、うちの学校ってさ、他校に比べて男子学生が多いよね」

「え? そう? 確か、5人って普通ぐらいだと思うけど。多いところは、10人も男子学生が在籍している学校がある、って聞いたことがあるよ」

「そうなの? 10人か、羨ましぃな。ちなみにアンタは、うちの学校にいる5人で誰が好み?」

「あぁ、そういう話ね」


 彼女たち2人が話題にするのは、自分たちの学校に在籍している男子学生の中では誰が一番に好みか、ということだった。


 年頃の彼女たちは、異性に関して日頃から色々と気にしていた。男子学生について話題に出すだけで、2人の女子は笑顔を浮かべて楽しそうにしている。


「片平君とかは? 私たちよりも年上だけど明るい性格をしてるし、女性に対してもちゃんと尊重して振る舞ってくれる」

「最初に名前を挙げたってことは、あんたは片平君が一番なの?」

「うーん、いや、一番ではないかなぁ。他の娘たちも、最初に彼の名前を挙げるから人気は有るみたいだけど。でも、あの人って美人な女が好きみたいだし、私たちじゃ相手にしてもらえないと思っちゃうからね」

「まぁ、そうだね。私もそう思う」


 話題を振った女子の方が、とある男子学生の名前を挙げる。一つ学年が上である、片平という先輩学生の名前を。


 しかし、自分たちでは相手にしてくれないだろうという予想で、好みではないなと2人はバッサリ切り捨てた。


「それじゃあ、片平君と仲良しの堀場君とか?」

「いやぁ。あの人、よくある女性嫌いじゃなかったっけ?」

「あー、そっか。じゃあ堀場君も私たちじゃ、望み薄かな」


 世の中には、女性よりも男性同士で仲良くしたいという人も居るんだ、という事を2人は理解していた。そして、堀場君は女性が恋愛対象外である。私たちには少しも興味を持たないだろう。すぐさま2人は、自分たちの考える好みの中から堀場という名前を除外した。


「逆に年下は? 米田君」

「あぁ、彼ね。でも、これといって特徴が無いからなぁ。まだ、私たちが彼の魅力を分かっていないだけ、かもしれないけどね」

「うん。そうね」


 名前の挙がった米田について、まだ情報は少ない。普通の人、という印象しかない彼に対する2人の意見は、一番に挙げる程の持ち味はないと辛辣なモノだった。


「じゃあ、私たちの同学年の水本君とかどう? 彼だったら、女子ともちゃんと会話してくれるし、良い子じゃん」

「アレだけ軽薄だと、尻軽な男って感じがしてヤダなぁ」


 同級生であり、一番身近に居るであろう男子学生。そんな彼に対する印象は、女子皆に愛想を振りまいて浮気しそうな男性だから、ダメだと指摘する。


「贅沢ね、アンタ。付き合ってくれるだけ、良いじゃん」

「出来ることなら、私一人だけを愛して欲しい」

「一対一で付き合うなんて、夢見過ぎだって。現実じゃ、あり得ないわね」

「まぁ、そうだろうけどさ。夢ぐらい見させて」

「ムリムリ」


 男の数が少ないこの世の中では、一対一の男女関係というのはあまり見られない。普通は、1人の男性に対して複数の女性が夫婦になるという、一夫多妻制が政府から奨励されていた。




「そしたら、アンタの本命は残ってる北島君ってことね?」

「もちろん!」


 今まで、気合の入っていない受け答えをしていた少女。それが、北島タケルの名を聞いた瞬間、今までとは打って変わって力強い応答をする。だが、名前を挙げた方の女子生徒は納得していない、という表情を浮かべていた。


「そっかぁ、北島君かぁ」

「絶対、彼が一番だって!」

「いやでも、常に話しかけたらダメな雰囲気が全開だし、敬遠する子も多いよ」

「馬鹿だなぁ、あの雰囲気が良いのに」

「そうなの? 私には、理解できないなぁ」


 話しかけにくくて、親近感が湧かないから苦手だと評価している子も実際に多い。そんな、北島タケルが一番だという肯定派と否定派に別れての話し合い。


「見た目が良くって、成績優秀だし運動神経も凄いって。アレだけ完璧だとしたら、私たち女でも勝てないし、付き合うとしたらちょっと恥ずかしくない?」

「それが良いんでしょ。男として完璧なのが」


 否定的な意見を述べてみるが、北島タケルを一番に挙げる少女は一蹴する。そこが良いんだと、拳を握って力説していた。


「いつも無表情だし、時々ジーッと見られたりするから不思議で近寄り難いムードがあるのよね。あれが、苦手だなぁ」

「あれが、良いんでしょう。王子様っぽくて、人を寄せ付けないオーラ。そんな彼にジーッと見られるのも、全て楽しまないと」

「えぇ……」


 その考えは理解できない、と少し引き気味になる。だが、そんなの反応も関係ないと熱く語る肯定派の少女。


「もしも私がタケル君と付き合うことになったら、あの無表情を笑顔にしたい、って考えるのが良いんだって」

「うんまぁ、それは理解できる」


 北島タケルを一番に推す彼女の妄想が進む。そんな話を聞かされて、なるほどねと少し感化される、もうひとりの女子学生。


 だがそこで、肯定派であった少女の興奮した気持ちが落ち込んだ。


「まぁ、本人を目の前にしたら緊張して、私なんか何も言えなくなるだろうけどね」

「それは、まぁね。はぁーあ、なんだかんだ言ってるけれど誰でもいいから、もっと男の子と仲良くなりたいなぁ」

「それはそう」


 男子の好き嫌いについて楽しく語っていた彼女たちだったが、結局のところ誰でも良いので男子学生と仲良くしたい、という切実な想いがあった。そんな、彼女たちの本音は全国の女子全員が同意するような意見である。

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