第19話 漫画編集者からの連絡
やる気がみなぎっていた僕は、次の新人賞へ応募するための漫画を描いていた。
それと同時進行で、同人ショップとの約束で納品することになった作品の方も描き進めている。担当者には、こんな感じで描くつもりだとメールで連絡を取り合った。返信で色々とアドバイスを受けながら変更を加えて、漫画を描くための設計図であるネームを作っていった。
やっぱり、漫画に関係するような仕事をしているような人に意見を言ってもらうと参考になるし、視野に入らなかったようなことにも気付けたりする。漫画を描くために、色々とありがたい存在だった。
2本の作品を同時並行で描くことになったが、締め切りも当分先のことだったので余裕を持ってスケジュールを組み立てることが出来ていた。
新人賞の応募締め切りは、数カ月先。同人ショップへ作品を納品する期限は、特に決められていない。なるべく早くに提出してくれると、ありがたいと言われていた。だが厳密には締め切りが決まっていなくて、余裕があった。一応、3ヶ月以内に完成させて納品する予定である。
期限ギリギリになってから急いで描くことのないように。今から毎日、コツコツと描き進めている。とはいえ僕は学生で、学校に通っている。なので、放課後の自由な時間ぐらいにしか作業できない。
僕が漫画家だった頃、連載の締め切りに絶対に間に合わせるため1日に原稿作業を18時間するという日々を何日間も続けるような無茶な働き方をしていた。けれど、今後はそんな無理をするつもりはない。余裕を持って無理ならば諦める。命と生活を最優先に生きることを学んだから。
漫画を描く時間以外にも、勉強の予習復習をする時間も必要だった。家族と一緒に過ごす時間も確保している。
漫画を描いていることが発覚した、あの出来事があってから家族との距離がグッと縮まっていた。朝と晩の食事の時には母親と姉妹と僕の4人で集まって、必ず一緒に食べるようになった。休日になると皆で一緒に街へ出て、買い物をしたりすることもあった。充実した日々を過ごしている。
そんなある日、一通のメールが届いた。受信ボックスに届いた件名に目を引かれて僕は、それをクリックして開く。内容に目を通した。
”テンセイさんの作品を読ませて頂き、非常に感銘を受けました。貴方の絵にとても魅力を感じています。
つきましては、ぜひ一度会ってお話をさせていただきたいのです。お忙しいところ大変恐縮なのですが、お時間を割いていただくことは可能でしょうか。
勝手ながら、○日までにご都合がつく日程をお聞かせください。
ぶしつけなお願いで申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いいたします。”
漫画家を目指して頑張ろう、と決意を新たにした僕のもとに届いたメール。そんなタイミングで受け取ったから、良い巡り合わせだと感じた。
同人ショップからの紹介で送られてきた、大手出版社の電子署名付きメール。その大手出版社で漫画編集者をやっている、という人から実際に会って話をしたいという内容。偽物やイタズラのたぐい、では無さそうだった。
名前は、仲里咲織さん。ちょっと調べてみようとネットで名前を検索してみると、インタビューを受けている記事を見つけた。漫画編集者の名前が表に出ているのは、結構珍しいことだと思う。しかも、記事に掲載されていた写真を見てみると、かなり若い女性のようだった。
有名な漫画に関わったという優秀な編集者、というタイトルのインタビュー記事。僕は読んだことは無かったが、タイトル名を聞いたとことのある。かなりヒットしたらしい有名な漫画だった。まだ新人だが敏腕な編集者で、仕事のできる人らしい。
記事をさらに読み進めてみると、漫画家に対するリスペクトがちゃんある人なんだと分かる。こういう人に編集についてもらえると助かりそうだ、と思った。
インタビュー記事を1つ読んだだけじゃ、その人のことを全て理解するというのは無理だろう。けれど僕は、仲里咲織という女性が良い人そうだと感じた。
そんな人から、会って話をしたいという連絡がメールで送られてきたのか。
「あ。なるほど、そういうことか」
どうやら、その人は成人向けの漫画編集者らしい。意図せず話題になってしまった僕の描いた同人誌を見て、声を掛けてくれたようだ。同人ショップを経由して、僕に連絡してきてくれたのも、そういう事だったのかな。
パソコンの前で、腕を組んで考える。この人と会って話をするべきか。
同人誌を見て連絡してきたということは、僕が描きたいと思っている少年向け漫画ではなく、成人向けのエロを目的に会いたいと言ってくれているのだろう。すると、期待に沿うことは出来ないかもしれない。
しかし、この人と繋がることで出版社との関係を築くことは出来る。
前世でも、漫画編集者の人から声をかけていただいて知り合いになり、漫画雑誌の連載を持つことが出来た経験があった。今回のケースとは少し違うけれど、編集者と知り合いになることが漫画家になる道に近づけているように思えた。
知り合いだけでなく仕事仲間として仲良くなって、漫画を描くために編集者である彼女が協力してくれるようになれば、最高だった。
この新たな関係を築くチャンスを逃さないようにして、しっかりと良い関係を構築していかなければならないだろう。拒否するという選択は、ありえないか。
僕は決心して、都合の合う日程を書いて漫画編集者にメールを送り返した。是非、お会いしましょうと。
こうして僕は、漫画編集者と顔を合わせる約束を取り付けたのだった。
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