第18話 モチベーションアップ
「ふぅ……、ようやく家族に言えたな」
母親と姉の2人に向かって、僕は漫画家になると宣言した後。部屋に戻ってきて、一息ついた。まだソワソワしているが、清々しい気持ちだった。
原稿と道具を片付ける。もう金庫の中に隠したりする必要も無くなったので、机の上に見えるように置いておける。気が向いた時にペンと原稿用紙を取り出してきて、自由に漫画を描ける、という環境になった。
「ちょっと描くか」
今もなお、胸がドキドキして落ち着かない。興奮していた。スケッチブックに絵を描きながら、気持ちを静めようと努力する。
母親に呼び出された時、テーブルの上に自分の同人誌が置かれていた。あの瞬間、ものすごく恥ずかしかった。けれどその後、自分の考えや気持ちを打ち明けられたのは良かった。今回の出来事がキッカケになって、隠し事しているという家族に対する後ろめたい気持ちが無くなった。
自宅に送り届けられた、僕の描いた同人誌。それを佑子姉さんが誤って受け取ったことから巻き起こった今回の出来事。
あれは増刷した分についての見本本として、家に送ってくれたモノだったらしい。数日前に受け取っていたメールを再確認してみると、そこにちゃんと書いてあった。増刷した本を送付したので、印刷に不備はないか見本本で確認して下さいと。
そういえば委託依頼でメールをやり取りした時に、自宅の住所を伝えていたことを思い出す。送り先を別の場所にして、自宅以外の場所で受け取れるようにしておけば今回のような事が起こることも無かっただろう。いまさら気が付いても遅すぎるか。それに、今回は巻き起こってよかった出来事だ。
今回の件が無ければ、ずっと隠し事を続けていたかも。家族に対して心苦しい思いを抱えて生きていくことになっていたのかもしれない。それは、ものすごく嫌だな。だから、今回の件は本当に良かった。
秘密にしていたことが家族にバレてしまった。これ以上は、隠し続けることも無理そうだった。観念して、勢いに任せて全てを告白した。もうどうにでもなれ、という精神状態になったおかげで自分の意思を家族に伝えることが出来た。
僕はやっぱり本心では、生まれ変わった今でもなお漫画家になりたかったらしい。それが嘘偽りのない、本当の気持ちだった。
前世での最期を考えると、漫画家を続ける事がダメなんじゃないかな。同じことをすれば、また過労で死んでしまうのではと考えてしまう。そもそも、今回の人生でも運良くヒット作品を生み出せるとは限らない。あの時は、本当に幸運だった。
前世で低迷を続けてきた事実があるから、前世での漫画家とし成功していたとは、とても言えない。
だから、漫画家なんて仕事は続けちゃダメだ。自分には向いていなかったんだ、と言い聞かせていた。今度は普通に生きていこうと強く思い込み、漫画家になる道から逃れようとしていた。
しかし僕の口から出た望みは、漫画家になりたいという言葉だった。
それにやっぱり、漫画家になる意欲も無いまま中途半端に漫画新人賞を受賞しようとするからダメだったのかもしれない。
絶対に面白くて、誇れると言えるような漫画を描いてやる。それほどの強い気持ちが無ければ評価されないだろう。だからこそ、思い切って家族の目の前で決意表明をして、本気でコンテストに挑むべきなんだろうと思った。
涼子姉さん、佑子姉さんの2人が絵の事を褒めてくれたのも良かった。2人の姉が絵の事を、べた褒めしてくれた。非常に高い評価を与えてくれたことで僕のやる気は未だかつてない程に、高まっていた。
もし少しでも否定的なことを言われていたら、僕は絵を描くことをスパッと諦めたかもしれない。姉2人の後押しがあって、漫画家の道を進む決心ができた。
「さて、こんな感じかな」
スケッチブックに描いていた絵が、1つ完成する。そして、次の絵を描き始めた。新たなキャラクターのデザインやポーズ、様々なアイデアがドンドン溢れ出てきた。さて次は、どんな絵を描いてみようかな。スケッチブックにペンを走らせ、白い紙の上に次々とラフ絵が増えていった。
絵のイメージだけでなく、ストーリーになりそうなネタも思いついた。すぐさま、ネタ帳の方にメモしていく。新しい世界観、キャラクターの設定、事件のワンシーンなど、いろいろな案がパッと浮かんできた。あらすじと箇条書きで、書き込む。
「良しッ。もう一度、イチから漫画家を目指して頑張ってみようかな!」
自宅で家族に隠れながら、漫画を描く必要もなくなった。家族皆が応援してくれている。僕が漫画を描いていることを知ってもらい、漫画家になりたいという気持ちも打ち明けた。それが本当に良い判断だったのか、悪い判断だったのか。
将来、どうなるのか結果は予想できない。けれど、間違いはなかったと思えるような結果を残せるように頑張っていく。
モチベーションも高まり、早く新たしい作品を描きたくなった。今なら過去最高に面白い漫画を描けるような気がした。
とにかくやってみようと決意を新たにして、僕はコンテストへと挑む事に決めた。新人賞を受賞して、漫画家になってやるぞ。
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