第16話 決意の告白

 誰宛に送られてきたのか分からないエロ漫画の買い手探しが始まって、北島一家の女性3人は誰も自分が買ったとは名乗り出なかった。エロ漫画を買ったことぐらい、わざわざ隠す必要もない。それじゃあ、誰が隠しているのか。


 もしかすると、配達員が送り先を間違って我が家に届けてしまったのかもしれないと母親の北島真理子は考えた。


「んー。宛名は間違ってはない、わよね」


 配達されたダンボールの宛名を確認するが、しっかり北島という名が記されていて間違いではないようだった。送り先も問題ない。名字がハッキリと記入されていて、名前だけ書かれていない。この事から、家族に隠れて買おうとする意図が見えるように感じた。


「ホントに、2人とも買ってないのよね?」

「うん」

「私じゃないよ」


 再度、確認してみるが2人は否定する。だけど名前を隠して、わざわざエロ漫画を買った人が居る。


 その事実から、導き出される結論は一つ。自分たちは嘘をついてまで、エロ漫画を買ったりする必要はない。だけど、隠したいと考えそうな人が家族の中に居るのかも知れない。それは。




 一人息子であるタケルの母親であり、北島一家の大黒柱を支えている真理子。彼女は男の子の育て方について、彼が生まれた時に色々と勉強して学んでいた。男の子を育てることは、とてつもなく大変なことだと心得ているつもりだった。


 扱いが大変だとされている男の子。年頃になると、女性という存在を避けたり嫌うようになったり、身近にいる母親や姉妹なんかを無視するようになる、という家庭が多いと聞いている。


 そして最悪の場合、家族の目の届かないような場所で非行に走るということもあるらしい。タケルがそうならないために母親の真理子は、常に我が息子に注意を向けていた。本人には、なるべく気付かれないように色々と配慮しながら。


 そして今回発覚したエロ漫画を隠れて購入したことに関して、放置してはいけない出来事だと考えていた。今回を良い機会として、彼に性についてを教えてあげないといけない。少し前にもタケルは家族とはいえ女性に対して不用意にパジャマ姿を晒すことがあった。


 男の子でありながら、性に対しての注意力が足りないように感じていた。日頃からあんなに無防備では、いつか女性に襲われてしまう。


 もしかすると、タケルは性に奔放な部分があるのかもしれない。それは自覚させておかないと、後々になって大変なトラブルに巻き込まれることになるかもしれない。


 そうならないためにも、家族として、それから大人の女性として。ちゃんと息子を注意しないといけない。真理子は気合を入れて彼を呼び出す。


「タケル、ちょっと下のリビングに来てくれる?」

「ん? すぐ行く!」


 上の階にある自室に居たタケルを呼び出して、問いただす。まずは、これは貴方が購入したモノなのかどうか、単刀直入に質問して本人の口から明らかにする。


 真理子にとって、エロ漫画を購入した者を明らかにする行為は大きな賭けだった。問いただせば、母親として嫌われてしまうかもしれない。だが、ここで私がバシッと言っておかないと彼が間違った道に進みかねない。母親の真理子は、息子に嫌われたとしても母親としての役目を全うするつもりで挑んだ。


 我が息子であるタケルの考えを把握して、母親として指導しなければ。親としての責任が真理子にあった。彼が将来、不幸にはならないように。男性として正しい道を歩んでもらうために。


「どうしたの?」


 リビングに入ってきたタケルは、いつものように話しかけてくれる。家族に対して嫌悪しているような視線ではない。そこは安心する。だが、これからどう変わるのか心配だった。


「……って、あ」


 テーブルの上に置いておいたエロ漫画を目にした瞬間、タケルの表情が変化した。そんな彼の変化した様子を見て、やはりかと確信した真理子。


 彼の表情は、男の子として性に関係するモノを毛嫌いするような感じではなくて、バレてしまったという感じでバツが悪そうな表情を浮かべていたから。


 その本を買ったかどうか本人に問いただす前に、彼の表情の変化から確認が取れてしまった。この本は、タケルのモノだという事が明らかになってしまった。


「えーっと、そのね。これは悪いことじゃないの」


 真理子は、慎重に言葉を選びながら話す。息子のタケルが傷つかないように細心の注意を払いつつ、エロい事に興味があるのは良いというような理解を示した。


 けれど、黙って勝手に行動したら危ないかもしれないこと、男性として十分に気をつけるように警告した。だが、タケルが待ったをかける。


「いや、違うんだよ母さん」

「え?」


 タケルにちゃんと伝えられたかどうか。そんな事を心配していた真理子。しかし、そんな彼からまさかの回答が返ってきた。


「それ、僕が描いた本なんだけど……」


 その言葉を聞いた瞬間、真理子の頭は一瞬にして混乱した。どういうこと。なんて言ったのか、ちゃんと聞いていたはずなのに理解できない。彼の放った言葉の意味が、よく理解できなかった。


「へ?」

「ちょっと待ってて」

「え? ん? えっと……タケル、部屋に戻るの?」


 そう言って、リビングから急に出ていったタケル。真理子の問いかけに答える間もなく、部屋から出て居なくなった。


 そんな彼の背中を、呆然と見送ることしか出来ない真理子たち。


「描いたって、どういう事?」

「わかんない。というかタケル君は、部屋に戻ったの?」

「そうじゃないかな?」

「なんで?」

「いや、わかんないよ……」


 黙って様子を見ていた涼子と佑子の娘2人が話し出す。真理子と同じように状況についていけずに混乱していた。2人はタケルの急な行動について、一体どういうことなのか理解しようとするが、分からないと連呼。


 というか、タケルはなぜリビングから出ていったのか。これから、何をするつもりなのか。言われた通りに、黙ったままタケルがリビングに戻ってくるのを待ち続ける真理子たち。


「おまたせ」


 言った通り、直ぐにリビングに戻ってきたタケル。彼の片手には、紙の束が。もう片方の手には、ペンやスケッチブックなど色々な道具を持ってきた。


 タケルは手に持ってきた紙の束をバサッとテーブルの上に置いた。女性たち3人の目の前に、よく見えるようにして。


「これが、僕が漫画を描いている証拠だよ」


 タケルは、家族である3人に向かって自信満々にそう言い放った。

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