第8話 創作活動の様子

「やっぱり、駄目だったかぁ」


 漫画新人賞に応募した作品の原稿と、不合格の通知が家に送られてきた。これで、力試しに応募してみた作品は残念ながら落選してしまった、ということだ。しかも、三度目も。結果は散々だった。


 前世で漫画家をしていた経験があるとはいえ、新人賞を受賞するのはそんなに甘いものじゃなかったらしい。


 一度目は駄目だったとしても、二度目か三度目には合格できるだろう。そう思えるぐらいの自信はあった。


 実際は、そんな経験なんて関係無いというように、入賞することは出来なかった。佳作という評価すら得られず、送られてきたのは不合格という結果。


 僕が応募した作品に、審査員の寸評が付けてあった。そこにはこんなアドバイスが書かれている。


 画力は非常に高いけれども、キャラクターやストーリーが致命的に駄目。

 新人とは思えないほどの画力。しかし、その他は及第点に達していない。

 画力は十分。その他の、ストーリー、キャラ作りを練習すれば良いです。


 というような評価。芯を食ったアドバイスだった。薄々感じていた問題点を明らかにされて、胸が苦しくなる。


 僕の常識だった前世と、今の世界とは違っている。


 今まで僕が描いてきたきた作品のように、男の子を主人公にした少年漫画のようなストーリーだと受け入れられないみたいだった。ただでさえ、前世でも僕は売れない漫画家だった。その時もストーリーに魅力がない、と言われていたのを思い出した。


 考え方を変えないと。この世の中の大半は女性であり、男性の数は少ないのだからターゲットは女性であるべきなのだろう。ストーリーの作り方を、根本からガッツリ変える必要がある。


「う~ん……。しかし、なぁ……」


 ペンを右手に持って、原稿用紙を目の前にして僕は悩んでいた。


 受賞に向けた対策を講じて、主人公を女の子にしてみる。それで新たなストーリーを描こうとアイデアを考えてみるけれど、思考が止まってしまう。自分が男だから、やっぱり描くのも男が慣れているからなのだろうか。


 今までに描いてきたストーリーや設定を色々と調整してみて、主人公の性別を女の子にして描いてみるか。


 登場キャラクターも練り直して、全体的に修正を加える。プロットを書いてから、ネームに起こしてみた。けれと、なかなか納得いかなかった。主人公の性別を男から女に変えるだけと言っても、それは大きな修正だったから。修正して成立されるのが非常に難しい。


 ここで前世の記憶が色々な障害となって、漫画を描くのに困難な壁になっていた。世界が違って、どうやら僕は世間とズレている、という感覚があった。それは漫画を描く上で、大きく影響してしまっているようだ。


 この世間とのズレは、この先も漫画を描いていくのに大変そうだ。


「あ。いやいや、違うか」


 あくまで僕が漫画を描く目的は、絵を描くのが楽しいと思ったから。コンテストに応募するのは、描いた作品が他人に評価されてモチベーションを高める為にだった。絵を描くことを楽しむため、手段の一つということ。それを忘れてはならない。


 漫画を描くことが目的であって、コンテストに応募するのは手段でしかない。


 いつの間にか僕の中で、コンテストの入賞が漫画を描く目的になっていたようだ。手段が目的化してしまったら、駄目だ。


 ……けれども、かつてヒット作も生み出したことのある漫画家としてのプライドもある。漫画新人賞を受賞できないという現状は、とにかく悔しい!



 コンテストに応募するのを、中途半端に止めたりはしない。入賞できるまで頑張りたい。前世の僕も、今の僕と同じように何度もコンテストへ作品の応募を繰り返したことがあった。そして、不合格の通知を受け取り続けた。だが、最後には僕の描いた作品が入賞した。


 ならば今の自分も同じように途中で諦めなければ、いつかは新人賞を受賞することも不可能ではないはず。


 ただ僕は、生み出した作品を褒めて欲しい。不合格が続くと、やっぱり気分が落ち込んでしまう。なんとかしてモチベーションを高めないと、絵を描くことが困難に。




 そこで僕が思いついた方法は、同人誌を作ることだった。


 自分でお金を出して本を作ってみる。寸評での評価を参考にすれば、ストーリーが駄目だったとしても、画力に関しては評価されているようだし多少の自信もある。


 作品の内容は、エロいモノにしよう。


 同人誌といえば、好きに描ける自由である。だが、描いたものを褒めてもらうためには、なるべく需要があるものが描いたほうがいいだろう。


 内容をエロにすれば、言い方は悪いがストーリーの内容が薄かったとしても画力で評価が得られるはず。それに、どの世界であってもエロの需要が尽きることは無いと僕は考えたから。同人誌として作るのに、売り上げを見込む必要もある。


 僕の居るこの世界は、どうやらエロに関してはかなり寛容らしい。わざわざ、絵にモザイクや黒塗りを入れる必要がないみたいだった。


 男性身分保護法により、男性の裸姿を写真や映像の記録に残すことは許されない。だが絵の場合は、実在の人物を扱わない限りにおいては、特に規制とかは無かった。エロい絵を描くことは、問題無いらしい。


 それから、未成年でもエロ漫画を買って呼んでも問題は無いし、未成年に売っても問題無いみたい。青少年健全育成条例というような条例も無かった。未成年がエロを描いちゃダメ、という規制も無いらしい。


 コンテストに応募する用の作品を仕上げる合間の息抜きとして、同人誌で売り出す作品も同時進行で描いていった。創作活動だけに夢中になりすぎないよう、家族とのコミュニケーションも取りながら。

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