第6話 姉妹の疑心《北島家の姉妹》

「やっぱりさ、バシッとストレートに聞かないと!」

「でも、あの年頃の男の子ってとても複雑なんでしょう? 何してるの、って聞いて機嫌を損ねたり、嫌われたりしないかしら」


 夕方。キッチンで夕食の準備をしている姉の涼子に向かって話しかけているのは、リビングにあるテーブルに座ってくつろいでいる妹の佑子。


「いやいや。タケルだったら、質問したぐらいで大丈夫でしょ」

「でも。息子を持つ母親は、多感な時期の子に構いすぎちゃって自分の子に嫌われている可能性が非常に高い、って書いてある本を読んだことがあるわ」

「それは一般論でしょ。うちのタケルは違うって。というか、あんたは姉じゃんか。その本に載ってたっていうデータに当てはまらないんじゃないの。知らないけど」

「そうかしら……」


 2人が話題に会話しているのは、自分たちの弟について。とても可愛がっている、タケルという弟について。不安そうに話す涼子に対して、楽観的な佑子。


 佑子は心配無いという風に話していたが、ある疑念について語りだした。


「でも、本人に聞かないと何も分からないままだよ。それに部屋の中で何をしているのか、早い内に探っておかないと。後々になって大変なことになるかも」

「後になってから大変なことって? ……いやまさか、タケル君がそんな犯罪に手を染めるだなんてこと、ありえないと思うけど。ただ学校の勉強が大変だから、家でも勉強してるだけなんじゃないの?」

「流石に、犯罪とかではないと思う。でも、あんなに長時間部屋にこもって勉強をし続けることってある? やっぱり、家族には知られたくないような何か危ないことを隠れてやってるんじゃないかって……」

「そんな……」


 涼子と佑子の二人は、友人たちから家族の中に男の子が居ること、男の子と同棲をしている家庭環境を羨ましがられていた。けれども、実際は一緒に生活していると色々と問題があることが分かる。嫌われないように気を使って接しないといけない、という悩みが。一緒に生活してみないと理解できないような悩みだ。


 そして今回の悩みは、最近ずっと部屋の中に1人で引きこもりがちのタケルにどう対応するべきなのか。弟に嫌われないように対処するにはどうするべきかな、という話し合いが長々と、姉二人の間で行われていた。答えはまだ出ない。いや、行うべき手段は考えついたけれど、それを実行する勇気が2人には無かった。失敗して、弟に嫌われたくないから。




 学校が終わり家に帰ってくると、そのまま部屋に直行して一人きりになるタケル。夕飯と風呂以外には部屋から出てこない。彼が部屋の中に引きこもるのは、何か悪い事でもしているんじゃないか、と危惧している佑子。そんなはずは無いと、反論して料理の仕上げをする涼子。とは言いつつ、涼子も心配だった。


「それにしたって、部屋の中にずっと引きこもりすぎじゃないか? 中学の勉強ってそんなに大変だっけ?」

「うっ……。そ、そうよねぇ」


 部屋の中で弟のタケルが何をしているのか、家族なのに知らない。勉強をしているにしては、長時間すぎる。他に何か、してるんじゃないだろうか。そうだとしたら、姉として家族として、シッカリと把握していおいたほうが良い。というのが妹である佑子の意見だった。


「部屋の中で何をしているのか……。うーん、そうね。やっぱり思い切ってタケル君に聞いてみよう」

「うん。それじゃあ、決心してくれた姉さんに質問役は任せるね」


 万が一のために、真実をハッキリさせようと気合を入れて本人に聞き取りをする。そう決意した涼子。そして佑子は、姉さんに全て任せると言い切った。


「もうッ! いつも私が悪者にされる。機嫌を損ねて嫌われるのは、私じゃない!」

「怒らないでよ姉さん、お願いだって。姉さんの読んでる本には、決断力が有って堂々としている女らしい人が男に好かれるって書いてあったよ」

「……そうね。読んだこと、あるかも」

「じゃあタケルも、女らしくストレートに何してるんだって聞いてみたら、ちゃんと答えてくれるって。それで、嫌いにはならないって。……たぶん、きっと」

「はぁ……、分かったわよ。私が聞く」


 姉の説得を続ける佑子。仕方ないと観念し、渋々だが涼子は質問役を引き受けた。こうしてタケルに、部屋で何をしているのか質問をするのは長女である涼子の役目に決まった。そんな彼女を矢面に立たせて、上手く立ち回る次女の佑子。




 身内である2人から見ても、タケルは可愛いし男として非常に魅力的な子だった。


 変な女に誘拐されたりしないか、いつも心配になるほど。一緒に外出する時など、周囲を常に警戒して目を光らせて、注意を向けながら歩くのが常だった。


 そんな愛しい家族に絶対に嫌われたくないと心配する涼子だったが、勇気を出して行動を起こすことにした。


 仕掛けるタイミングは、夕食時だと佑子は考えた。


 タケル君は、夕食の時には部屋から出てきてくれる。その時なら、会話することが出来る。質問する内容は、いつも部屋にこもって何をしているのか。それを自然に、聞き出したい。


 佑子は頭の中で、タケルとの会話のシミュレーションを行う。色々と振る舞い方や会話する内容を考えて準備する。


 そんな事をしている間に、夕食の準備は完了した。料理も完成。タケルを呼んで、夕食の時間が訪れる。

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