第9話 アルサーの一面、進む企て

 アルサーの朝は、早かった。

 騎士団の訓練がはじまる前に、貴族門を潜り王民街へと足繁く通っているのだ。

 手には、バケットを二つぶら下げある場所に向かう。


「おねぇちゃん!」

「ねぇちゃん!」


 と、沢山の子供達がアルサーが来た事により喜びの声をあげる。


「いつもありがとうございます、アルサー様」


「様なんて付けなくていいのよ、ここには誰も来ないのだからね?それに私達は友達でしょ?」


「ですがっ.....」


「もーっ!テレサッ!」


 ペシンッと優しく両手でテレサの頬を叩いた。


「わーねぇちゃんがテレサの事いじめてる!」

「ぼうりょく女だっー!!」


 怒りながらアルサーはその子供達を追いかけて行く。


「ほらっ、テレサもご飯にしましょ」


「うんっ」


 アルサーが来ているのは、孤児院だった。

そして、そこの院長はアルサーと共に育ったテレサなのだ。

 2人は幼少期に、ここの孤児院で暮らしていた。

 しかし、アルサーの魔力が多い事がわかり、貴族によって引き取られて今は、騎士団副団長の地位にまでのぼりつめていた。

 テレサは、引き取られる事なく育ち奴隷商に引き取られる前に、前院長と入れ替り孤児院を1人切り盛りしているのだった。

 それを知って以降、アルサーはこの孤児院にささやかなご飯を持って来ていた。


「それにしても、みんなどんどん大きくなっていくわね」


 サンドイッチを食べる子供達を見ながらアルサーは話す。


「えぇ、貴族の引き取り手が居ないと、そろそろ奴隷になってしまうの......」


「はぁ、私にもっと力があれば助けられるかもしれないのに、ごめんなさいね」


「アルサーが気にする事じゃないのよ、仕方ない事なのだから、それにこうやってご飯を持ってきてもらってるだけで、感謝してもしきれないもの」


「そう言って貰えれば、少しは気持ちも楽になるわ.......でも...」


 いや、なんでもないとアルサーは言う。

この状況をどうにかしたいと思っているアルサーだったが、貴族と民には超えられないほどの大きな壁があり、救いようのない現実なのだ。

 その壁は、一切の平民を通さない貴族門の様に、はっきりと区分されてしまっている。

 脅威にならないよう、奴隷紋を刻み、壁による侵入を防ぎ、柵に閉じ込められている家畜の様に民を扱う、この国在り方に、アルサーは不信を抱いているのだった。

 するとコンコンと扉を叩かれ1人の男が現れたのだった。

見た目は、20代くらいの冒険者だった。


「ここは、小さい子供が多いが?幼稚園かなにかか?」


 幼稚園?とは聞いた事がない単語が飛び出してきた。


「何者だ?」


 腰の剣に手をかけ、様子を伺う。すると男は、両手を上げ答える


「いや、変な物じゃない、ちょっと散歩してたら子供の声が聞こえたから入ってみたんだが、ダメだったか?」


「自分を変な者じゃないと言う人間が変じゃない訳ないだろ!テレサ子供達をっ」


 テレサは直ぐに、子供を引き集め隅へと、身を寄せる。

 そして、アルサーは剣を抜き戦闘態勢に入る。


「くそっ、どうすれば....仕方ない」


 なんと、男は服を脱ぎ出したのだった。

戦闘の意思がない事を伝える為に、そしてパンツに手を掛けた


「やめんか貴様っ!!!」


 脅せば、引き下がると思い戦闘態勢を取ったエルサーだが、この男に対しては意味をなさなかった。

 そして、慌ててそれを止めるしかなかった。

 手を伸ばし、パンツを掴もうとしたエルサーだが、むにゅりとした柔らかい感触が手に広がる。エルサーも1人の女、男の下着に手を伸ばす時に迂闊にも目をつむってしまっていたのだ。

 その行為が、誤差が生まれる、下着へと伸ばした手は見事に男の局部を捉えていた。

 しかし、直ぐには目を開ける事ができず、それを2回、3回と握り締めてしまった。


「おっ、おっ、おい」


 と、男は言う。

 恐る恐る目を開けると、それを握っている事を、視認し脊髄を介して脳へと伝達される。見る見るうちにエルサーの頬は赤く染まり、叫び声と共に、その手は離され、強く握り締め、拳となり男の顎へと打ち込まれた。


「ぐっはっ!!!!」


「あっ」


 やってしまったと思ったが時すでに遅く、男はその場に倒れてしまった。



「その後、ホーリードラゴンはどうなっか申せアレゲロよ」


 エリシオン国王、エリシオン・ユリウスはその口を開いた。

 それに答えたのは、元老院を纏める宰相アレゲロだった。


「あれ以降、姿を見せておらず、住処としていた山岳地帯の頂上に置いて、争いをした後の様な状態になっていたので消滅した、或いは逃げのび、何処かで眠りにより回復している可能性があります」


「違うのだよアレゲロ。我はどうなったのかを聞いておるのだよ」


 ユリウスは慎重なのだった。

 もし、消滅しているのであれば問題ないのだが、生きている可能性がある以上、そして住処から消えている以上、攻めてくる可能性は拭えないのであった。

 だからこそ、早く結果を知りそれに応じたいのであった。

 その臆病さ、慎重さがこの国状態を生みだしたのだが、それこそが盤石さの礎となっているのも事実であった。


「父上、アレゲロが可哀想ではないですか」


 アレゲロに救いの手を差し伸べたのは、国王の息子である、エリシオン王国、王子のトラウスだった。

 トラウスは続ける


「アレゲロも必死に情報収集を行っているのですから、それに例えホーリードラゴンが攻めてきても、エリシオン王国の敵ではないでしょう?我々にとってその生死は気にすることでもないでしょう。その為の騎士団、その為の魔法迎撃装置が城壁にあるのでしょう?」


 トラウスは自信も持ちそう答えるのであった。この地で育ち揺るぎない国家の在り方に敗北などあるはずがないと、敗北を味わった事がない故の自信がそこにはあった。


「トラウスの言い分もあるがの、人間は弱いのだよ、故に備える事ができ、ここまで国を保ててるのだよ」


「何を謙遜しているのですか父上!国王がその様な事を言っていては、他のものに示しが付かないではないですか!」


「アレゲロ、警備は常にして情報収集はおこたるでないぞ」


「はっ」と返事をして頭を下げるアレゲロ

そして、2人は退室を命じられる

 ユリウスは頭を悩ますのだった。


「油断してなければよいのだかな」



 元老院に所属し、税務を担当するギースはタルタロス商会へと足を運んでいた。


「ギース様、実は昨日、冒険者の男が来たのですが、そこに2人ほど女を連れていたのですよ」


 ゲノムはその企てをギースへと話すのであった。

 奴隷商は買い手が見つかれば、かなりの金額が得られるのであった。

 そして、女であればより高いのであった。

男は労働としてしか役に立たないが、女には体があり、それを売れば、そして美しければ美しいほどに高額になるのであった。

 そして、ゲノムが目をつけたベルは見た目も美しくそして若い女、エルは幼くともこれからの成長でどうとでもなると思っていたのであった。

 そして、奴隷では無いことも勇士に確認を済ませていた。


「ほぉ、1度この目で見ておきたいな」


「男1人、さらに冒険者となればすぐに連れてくる事はできますでしょう」


「そうか、楽しみにしておく」


「それでは、お楽しみにお待ち下さい。いつものは警備の騎士から受け取り下さい」


「うむ」


そして、ギースは騎士から受け取りを済ませて、貴族街へと戻って行った。


「おい、お前達」


「「「はっ!ゲノム様」」」


 ゲノムの前に、3人が跪いた。

 男2人と女1人だった。

 体格の良い男は、グラム

 細身の男は、ベロス

 妖艶な女は、ダイナ


 ゲノムの部下であり、用心棒でもあり、そして暗殺のプロでもあるのだ。

 黒色の服を身に付けており、さながら忍の様な見た目であった。


「女を2人捕まえてくるんだ。男はどうなってもいい」


「「「はっ!」」」


 掛け声を発した瞬間に3人はその場から姿を消した。


「儲けさせてもらうぞ、冒険者よ」


 ゲノムは、皮算用をしながら高笑いをし、その声は部屋に響き渡っていた。

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