第2話妖精王ベルを率いる者の誕生

ワシは、この森の妖精を束ねる者じゃ」


 そう言い妖精は語り始めた。

ここの森の事、そしてこの世界には数多くの種族が存在している事、そして魔力には魔力でしか対応できなかった事を。


「へぇ、そうか」


「なんじゃお前!なにもんなんじゃ!」


「俺は勇士って名前があるんだよ、あと気付いたら此処に居たんだよ。」


「ユージか、ふむ。それにしても何故、魔物に対して魔力の無い主がダメージを通すことができたのじゃろう」


「気合いってやつだろ?ところで、お前の名前は?」


「名など持っておらぬわ、そもそもワシら妖精は念話で会話しておるからの、そもそも名など必要としておらんのじゃ」


「そう言うもんなのか?」


「妖精だけじゃないぞ、魔物は基本的に名を持つ事はないの。人間やエルフなどはもっとるかもしれんがワシにはそこまでは知らんがの」


「まぁ、その辺は街に行けばわかるし、いいか。とりあえずは鍛えるしかないな!弱いとカッコわりぃからな!」


ユージはそういいながら、立ち上がり屈伸をして森を進もうとした。


「ま、待つのじゃ!」

 妖精にとっては、この不気味な人間を放置する事は出来なかった。魔力が無いのに魔物を倒せる人間を。


「なんだよ?お前も来るのか?」


「お主みたいな、わけのわからん魔力の無い人間を放置しておいたら、気になって寝る事もできんわ!」


そして、ここから妖精はこの人間に対して監視と言う名目と好奇心によって、同行していく事になった。


 それからと言うもの、あれよあれよと言う間に勇士は魔物を素手で薙ぎ倒していった。

 もう、妖精もその事に関して口を出す事もなくなったのだった。

 そして、森に入り1ヶ月が経とうとしていた。


 「おい、ベル」


勇士は妖精に向かってそう呼んだ。

しかし、名前を持たない妖精は自分が呼ばれた事だとは思わずにいた。


 「おい!お前だよ!」


そう言われてハッとした様にベルは振り向いた。


「ワシの事か?」


「ずっとお前って呼ぶわけにもいかねぇだろ?だからベルって呼ぶ事にした」


 しかし、魔物にとって名を持つ事は主従関係を生み、忠誠を示す事になるのだった。

 勇士はそんな事も知る由もなく、呼びやすさを求めた結果、名前を与える事にした。


「ふむ、まぁワシらにとっては少しばかりの時間じゃからまぁよかろう」


「ん?気に入らなかったか?」


「いやいや、なんでもないぞ。その名、承ったぞ」


「そうか、それならよかった」


 ここに、生まれて初めて妖精王に名が与えられたのだった。

 これが後に大騒ぎを起こす事になる事も知らずに。


「ユージよ。少しばかりか時間をもろうてもよいか?お主に同行するにあたって、他の妖精達にも話しておかんといかんからの」


「あーそうか、ここから出る事になったらみんな寂しいもんな!わかった!その間も魔物倒して鍛えておくぞ!」


 そう言い残して、ベルは勇士のもとから離れた。


[おい、皆集まってもらえるかの]


念話でのベルの呼び掛けだった。

すると、瞬時に他の妖精達がベルの元へと集まった。


「どうされましたか王?」


「少しばかりの、この地を離れる事になったからの」


妖精達が騒つく。


「なにがあったのですか!?」

「緊急事態ですか!?」


それもそのはずだった、幾年もこの地を護り続けてきた妖精王が、旅立とうと言うのだから、何かあったのかと疑うのが当たり前だった。

 そして、ベルは事の顛末を妖精達に伝えた。


「なんと!?そんな人間がおられるのですか?」

「追い払うべきじゃないのですか!?」


騒つく妖精達に対してベルは


「えぇい、黙らんかい貴様ら」


一蹴した。

すると妖精達はベルの威圧に姿勢を正し、口をつぐんだ。


「短い期間じゃ、いずれ人間は命の終わりを迎えるんじゃ、ワシらみたいに精霊体とは違うんじゃ、そしてこんな変わった人間今まで見たことないからの、監視の意味も込めて付いていくんじゃ危なっかしいくて見ておれんわ」


「王がそう言うのであれば....」

「王が決めた事なら従うまでですが....」


と、納得できない妖精達も多くおり

どうしたものかと悩んでいると


「一度、その人間に会わせてもらえませんか?そして、その力を私たちにも確認させてはもらえませんか?」


「ふむ、それもそうじゃの。それならば安心してもらえるかの。よし、待っておれ」


そう言いベルはこの場を離れ、再び勇士の元へと戻った。


「と言うわけなんじゃが、来てもらえるかの?」


「あぁ、いいぜ」


 勇士にとって、ベルの仲間という事ならば、当たり前の事だった。挨拶は礼儀、これは日本でも当然の作法なのだ。


「こやつが、ユージじゃ」


「これがベルの仲間か?俺が勇士だ!悪いが、少しベルの事借りていってもいいか?」


「「「なっ!!!!!?????」」」


多くの妖精がハモり、驚きの声を上げた。


「名を貰ったのですか?王」


「そうじゃ、ゆうとらんかったかの?すまんすまん」


重要な事を伝えずに、悪びれもせず舌をだすベル、それを聞いて頭を抱えた妖精達

 しかし、王が名をもらったと言う事は必然的に王の主人、ひいては妖精達の主でもあったのだ。


「ん?ベルみんな頭抱えちまってるぞ?なんかマズいのか?」


「んまぁ、まずくはないが驚きじゃろうなぁ」


「まずいですよ!王!!」


妖精の一人が声をあげたのだった。

 まさか自分達の王がいつのまにか何処の馬の骨かも知らぬ相手に名前を貰い忠誠を誓っている事が声を上げられずにはいられなかった。しかし、ベルはそんな事も気にせずに答える


「もう貰うたもんは仕方なかろう?それにワシがおろうがおらまいが、さして変わりはなかろう?」


「しかし.....」


「なに、安心せよ。何かあったらすぐに戻ってくるからの。それだけは約束しよう」


小さな見た目でも、一族の王たる故に、その決定に揺るぎはなく逆える物などいないのだった。それが魔物の関係性、上からの決まりは絶対の服従が覆らぬ掟なのだ。


「よし、ユージよ。魔物と一度戦うところを見せてはくれんかの?さすればこやつらも少しばかりは安心するかもしれんからの」


そう言い、前回とは違い魔物の中でも上位の存在とする悪魔を召喚するベル


「そうか?ずっと魔物倒してたからな何が来ても平気だぜ」


悪魔と向き合う勇士 

その戦いの結末はあっさりとした物だった。

先行したのは勇士だった。

悪魔に対して特攻していく

そのスピードは、もはや人間のレベルを遥かに超越しており開いていた間合いを一瞬で詰める。

それに対して悪魔は、人間に対して油断しておりその場で待ち構えている。

それに対して勇士は躊躇いもなく、右の拳を悪魔の顔面へと繰り出す。

交わす事は悪魔にとって可能だっただろう、しかし人間相手となれば奢りが生まれていた。悪魔からすれば人間など遊びにすぎないのだ。強者の奢りこそが敗北の原因だった。

直撃した拳はそのまま悪魔の顎を砕き、バランスを崩した隙にミドルキックをお見舞いした。するとあっさりと悪魔は力尽きその場に蹲る事になったのだ。


「「「!!!!?!?」」」


一同は声にならない驚きを表した。

 魔力の無い人間が悪魔に対して勝つなどと信じられない光景を目の当たりにしたのだった。


「なんだ、こんなもんなのか?悪魔って」


現状に気にする事もなく、勇士は首を回しながら言う


「どうじゃ?常識から外れておろう?こんなあっさりと魔力無く倒す奴見たことなかろう?」


「え、えぇ王の言う通りでございます」


「そう言うわけじゃ、少しばかりこの森を頼むぞ」


そう言うと、皆が一斉に跪き王に頭を垂れた。その姿を見た勇士はおぉと驚いた表情を見せた。

強者に対しての信頼は高くなり、妖精達も認めざるを得なかったのだ。

そして、ここに妖精王ひいてはその部下達を纏める魔力の無い人間の誕生だった。


「ユージ殿、王を頼みます」


耳打ちをしたのは、ベルの腹心かと思われる妖精だった


「任せろ!そして、悪いなお前らの王様かりちゃって」


「いえ、王が認めたのならば、そしてその力をこの目で見ましたので我々は貴方の配下も同然なのです」


「そうか?なら少しばかり借りていくぜ、何かあったらベルに行ってくれ、俺もすぐに駆けつけるからな!」


「その言葉、感謝致します」


そして、遂に死の森から旅立つ事になったのだった。

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