2 ユウトとの再会

 中央噴水広場を離れて、闘技場に向かう路地へと入った。


「おい、どこに行くんだ?」


 とそこで、不意に声を掛けられた。

 夏樹は立ち止まり、声の主に顔を向ける。

 金属製のブレストアーマーに身を包んだ、短髪の少年――ユウトが立っていた。


「ユウト……」


 ユウトは、自ら《ナツキ》とのフレンドを切ったはずだ。にもかかわらず、理由はわからないが、わざわざユウトから夏樹に声をかけてきた。

 何か心境の変化でもあったのだろうか。

 フレンドを切られたために、夏樹からはユウトにコンタクトを取れない。現状を考えれば、ユウト側からの来訪は、本来であれば僥倖ともいえる。

 しかし、今はタカヤも一緒だ。かえって事態が複雑化しそうで、あまり良い状況とは言えそうもない。


「チッ! あの時の、色男かよ」


 舌打ちをしながら、タカヤはユウトを睨みつけた。


「おい、ナツキ。その男って……」


「うん、例のストーカー男の、タカヤ」


 夏樹はうなずいた。


「くそっ、ストーカー扱いかよ……」


 タカヤは苦々しく顔をしかめた。


「そんな奴と一緒に、どこへ行くってんだよ!」


「大切な物を、取り返しにいくんだよ」


 夏樹は真顔で、ユウトの目をじっと見つめた。


「な……何だよ、大切な物って! 自分の身が、一番大切な物なんじゃないのかよ!?」


 ユウトは一瞬怯んだものの、顔を引きつらせながら、怒鳴り声を上げた。


「おい、痴話げんかはやめろ。さっさと行くぞ!」


 タカヤはいら立ちを隠さず、夏樹とユウトを睨みつけた。そのまま、夏樹の細腕を掴むと、強引に引っ張る。


「ま、まて! オレも行くぞ!」


「ふんっ! 勝手にしろ!」


 周囲の注目を浴びたくないのだろう、タカヤはそれ以上何も言わず、ずんずんと闘技場に向かって歩き出した。




 闘技場に入り、タカヤはフィールドに入るための受付をしている。


「なぁ、ナツキ」


 待ち時間の間に、ユウトが話しかけてきた。


「フレンド、勝手に切っちまって悪かったな」


「ううん、ユウトにもいろいろ、思うところがあったんでしょ? 仕方がないよ」


 夏樹はユウトとともに、入り口そばのベンチに腰を下ろした。


「なぁ……」


「ん?」


 ユウトは夏樹の顔を覗き込み、つぶやいた。


「お前、やっぱ楠夏樹だよな?」


 瞬間、ユウトの目がギラリと光ったような気がした。


「な、何のこと?」


 夏樹は身を後ろにそらしつつ、両手でユウトを押しのけるしぐさをする。


「まだはぐらかすのか? 本当のことを、聞かせてくれよ」


 ユウトはさらに夏樹へ身体を寄せ、鋭く目を細めた。


「……その件は、あのタカヤをどうにかしてからでいいかな?」


「今じゃ、ダメなのか?」


「今は、話せる状況じゃないの」


 夏樹はぶんぶんと頭を左右に大きく振った。


「どうして!」


 ユウトは声を荒げ、夏樹の肩を掴もうとした。


「ごめんね、わかってよ……」


「くそっ!」


 ユウトは夏樹から身体を離し、吐き捨てるように怒鳴った。

 しばらく、無言で見つめ合った。


「まぁ、いい……」


 ユウトは口を開くと、ベンチから立ち上がった。


「あのストーカーを何とかしたら、話してくれるんだな」


「えっと、うん……」


 夏樹は反射的にうなずいた。

 だが、実際は、まだ話すつもりはない。真相を告白するのは、夏帆の言葉を伝えてからだ。

 ユウトは振り返り、夏樹の顔をじいっと見つめる。


「オレも協力をする」


「いいの?」


 夏樹は小首をかしげ、ユウトに問い返した。


「それ以外に、選択肢はないしな」


 ユウトはやや憮然とした表情を浮かべている。

 どうやら、強い失望感をユウトに抱かせてしまったようだ。

 だが、どうしても話せない部分もある。今は、我慢をしてもらうほかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る