8女神、依頼を受けてみる(南の森) Ⅰ

 赤銅色のプレート右腕に付けたところで、依頼についての説明となる。


「あちらの掲示板に、今掛けられている依頼が貼り出されています。

 最初に依頼内容、次に適任ランクが記されていますので、単独ならば同じランクまで、複数人で挑む場合はひとつ上のランクまでの挑戦が認められていますので注意してください。

 それから、依頼の終了期日と完了証明に何を持ってくるか、達成報酬ですね。依頼を受ける場合は、受付へこの依頼書をお持ちください。

 依頼完了の証明は、奥の受付へお願いします。

 それから、常時依頼と呼ばれるものも有りますので、そちらもチェックしておいてくださいね」


 う~ん。長い……意外と長い説明だったわね。


「では、これでギルド登録と説明を終わりますね」


 そう言ってリリさんは受付へ戻っていった。





 掲示板の横で、ライセルさんとソレイユさんは何やら話し込んでいた。


 そして、リリさんからの説明を聞き終えた私に視線を移したソレイユさんは興奮ぎみに語り出す。


「あんなに高い魔力反応は、私も始めて見るわ!ねえイリスさん、貴女どのぐらいの魔法が使えるの!?」


 その瞳は、爛々と輝いて明らかにソレイユさんは、私の行使する魔法に期待しているようだった。

 魔法使いとして、高魔力保持者の使う魔法が気になるのだろう。


「ねぇ、どうなの?どうなのよぉっ???」


 グイグイ迫るソレイユさんに圧倒され、思わず後ずさる。直ぐに掲示板にべたっと張り付いたところで、両肩を掴まれいよいよソレイユさんの顔が近付く。


 怖い、怖い、怖い、怖い!!


 これが殿方なら大喜びのシュチュエーションでしょうけど……。

 私は女です。ナイスバディーな年上美女に迫られて喜ぶ嗜好では、有りません!!



「イ・リ・ス・さ・ん♪♪♪」



 答えるまで、退く気の無さそうなキラキラ?ギラギラ?した瞳で私の答えを促すソレイユさん。


 美女に迫られて、眼前で熱い眼差しを向けられる……その迫力が怖いのと、美女の顔面ドアップと言うのは、同姓であったとしても気恥ずかしくて、胸がドキドキしてしまう。

 俯き……そして意を決して答えた。


「……かえないの…………」



「…………はっ?」


 か細い声で何を言ったか分からず、ソレイユさんの間の抜けた声が聞こえてきた。


「使えないの……魔法は、習っていないから……」


 そう答えると、ソレイユさんは石のように固まった。







「そ……そんな……。こんなに……魔力が高いのに?…………判定で……漏れた……?」


 絞り出されるように紡がれた言葉と表情には、『そんは馬鹿な!!』と言う言葉が存外に聞こえて来そうなものだった。


 王立学園に入学する際、魔力判定を行うのは宮廷魔導士達だった。

 万が一、入学したのに資金が足りず、魔法指導を受けられない者が現れぬよう、入学時にその才を判定するのだ。

 才有る者を野に埋もれさすことの無いように、国が行う救済措置だ。


 イリスに、今の高魔力判定が出ると言うことは、宮廷魔導士の判定に誤りが有ったと言うことになる。


 それだけに、ソレイユの衝撃は凄まじかった。

 しかしながらどうして、彼女は立ち直りが早かった。ふるふると、体を震わせたあと、決意を固めた表情で口を開いた。


「解ったわ…………。イリスさん、貴女はまさしく生きる原石だわ!!安心して頂戴、この試練の旅の間に私がキッチリ、バッチリ指導して、貴女が高ランク魔法使いに成るよう導いてあげるからっ!!」


 先程とは趣の違う、より一層の熱意の籠った眼差しで、ソレイユさんは私の魔法の師と成ることを決意したようでした。



 …………何故そうなる!!?



「大丈夫よ、安心して!!もしも万が一、錫杖が得られなくて聖女なれなくても、


 にこにこにっこり、ここで思いもよらぬ逸材を見いだしたとばかりにソレイユは、それはもういい顔で言い切った。



 寧ろ、聖女に成らずに宮廷魔導士として、私の側に居なさい!!


 とか、そのうち言い出しそうな意気込みだった。






「ソレイユさんの決意は兎も角として、そろそろ、依頼の確認をしましょうか?」


 見かねたライセルさんの一言のお陰で、ソレイユさんの熱血指導モードは、一旦終息した。


「そうね。余り時間も無いし、サクッとこなせるものからやっつけて行きましょう!!」



 基本、ギルドの仕事は冒険者一人で行う。今は、護衛任務以前の準備段階なので、ライセルさんとソレイユさんは、付き添っているだけだ。同行するだけで、基本手出し無用なのだ。

 なので、私一人でこなせるものから選ばなくてはならない。



 大抵の世界の場合、冒険者初心者の依頼と言えば、薬草採取である。

 平地を抜け、近くの森で……と、言うのが初心者中の初心者向けになるようだ。



 ――――――――――――――――――――




[王都より南の森でフラベベ(薬草)採取]


 依頼量 :30束


 適正ランク :E~G


 報酬 :銀貨12枚


 依頼残り日数 :5日


依頼主 :レメネス薬房店



 ――――――――――――――――――――




 これだ!!報酬が多いか少ないかは兎も角として、やれるものからこなしていこう!!



「これなんて、どうでしょう?……薬草30束って、どう持ち帰れば良いでしょうか?これは、量的に手で持ち帰れる量ですか?」


「30束は、手で持ち帰られなくは無いけど、その間は身をが出来なく成りますね」


「そうそう、だからこれ!じゃじゃ~んっ!!国からの支給品、魔道具収納ポーチよ!」


 ソレイユさんが取り出したのは、腰から提げるタイプのポーチだった。説明によるとこれは、魔道具マジックアイテム収納ポーチと呼ばれるもので、30種類の物までなら上限を99個まで入れることが出来るそうだ。



 しかも、一度ここに入れてしまえば時間経過が止まるので、生物なまものは腐敗しないし、熱い物から凍った物までを保ち続けてくれるのだと言う。


 何とも有り難い、旅のお役立ちアイテムですね!





 あと、見ておいた方がいいのが、常時依頼だったかしら?


 こちらはこぢんまりした色違いの掲示板に、WANTEDと書かれた紙に魔物の詳細が記されていた。





 ――――――――――――――――――――




[ニードルビー]通行上危険の為。


 ※お尻の毒針攻撃に注意

 刺された場合、30分~1時間程腫れとマヒが発生します。

 刺されると普通に痛いです。


 討伐証明:毒針(毒袋付きが望ましい)


 ※針毎引き抜けば、毒袋も一緒に抜けます。


 討伐報酬:銅貨5枚






 ―――――――――――――――――――



[フォレストドック]家畜被害軽減の為。


 ※噛みつき攻撃に注意


 討伐証明:上部牙


 ※爪や皮は、商業ギルドで買い取り可

 冒険者ギルド裏手でも解体請け負います。


 ※特殊な方法で、手懐ける事も可能です。

 手懐けると番犬として活躍します。


 討伐報酬:銀貨2枚




 ――――――――――――――――――――




[クロスニーガ]作物被害軽減の為。


 ※角による突き上げ攻撃に注意。攻撃の前に屈み込みます。

 その他、後ろ足のケリ、突進など。


 討伐証明:右の角


 ※角、皮、肉共に商業ギルドで買い取り可。

 冒険者ギルド裏手でも解体請け負います。


 ※季節に応じて凶暴化します。懐柔可能で、荷物の運搬に役立ちます。


 討伐報酬:銀貨8枚




 ――――――――――――――――――――



 ポイズンビーの毒は、妨害系の道具作りや、毒消し作りに使われる。

 フォレストドックの皮は、猟師服や軽装の防具の材としても使われていたかしら……。

 クロスニーガは、食べて良し、角も工芸品として高値で取引され、武器の材にも使われるのよね。皮はバックとか帽子とかの小物を作るのに好まれていた気がするわ。




 成る程、色々参考に成るわね。しっかり覚えておかないと、私みたいな貧乏貴族では後々損してしまうものね。





「これ、お願いします!」

「はい、承ります。それでは、先程のプレートをこちらの水晶に翳してください」


 受付のリリさんに、薬草採取の依頼書を渡し、言われた通り腕のプレートを水晶に翳した。


 すると、プレートが一瞬光りこれで依頼を私が受けたことになるのだと言う。


 さて、これで依頼も受けたし早速森へ向けて出発だ。



 ◇◇◇




 王都全体が全て塀で覆われており南と西と東にそれぞれ門が設置されていた。



 南の門から王都を出て、南の森へと向かう。


「魔物と遭遇したら、剣技の方は私が指導しますから、先ずは私の動きを見ていてくださいね」


 ライセルさんは、柔らかな物腰で話しかけてくる人だった。


 ――あぁ、ルークお兄様もライセルさんの様だったら良かったのに…………。




 歩き始めて程なくして、ポイズンビーと遭遇した。



「先ずは、相手の動きを良く見てくださいね。ビー種は、警戒していると高い位置に行ってしまいます。そして怒っている時は、大きな羽音を出します。そうなる前、低空で飛行している間に仕留めるのかコツです」


 解説をしてくれた後、剣を抜き、地面すれすれに剣を構えたままニードルビーに、素早く歩みより斬撃を逆袈裟に加えた。


 ニードルビーは胴体で真っ二つになって地面に転がった。


 成る程!!なるべく大きな物音をたてず、素早く近寄り一度で仕留めろと言うことですね!


「あと、火魔法で倒しても良いんだけどね、そうすると毒成分が飛んじゃうのよ。そうすると、討伐報酬しか得られなくなるわ」


 ―――だから、ビー種は成るべく物理攻撃か火属性以外の魔法で仕留めろと言うことですね!!


 二人の先生から良く話を聞いて、学べることは良く学んでおきましょう。


 何せ、護衛兼指導役と言っても、試練の間ずっと居てくれるわけではない。

 期間は2ヶ月と区切られており、後は各自己の実力で生き延び、神器を手に入れに行かねばならない。


 そうなると、同じスタート地点に立った者と協力して、神器の入手に赴かなくてはならないだろう。


 誰かがそれを得て、誰かがそれを得られず試練を終える……。


 生きるか死ぬか、得るか得られぬか……試練の旅の間、各々選択を迫られる訳だ。



 まぁ、私はそのあたり、取得に向かう気は更々有りませんけどね。



 出きればこの試練とやらの中途で離脱するか、無難に神器を手に入れない方向で乗り切って、自由を謳歌したいわけなのよね。



 森までの道中、ニードルビーばかり15回ほど戦ったわ。

 ハリシュのではなく、ライセルさんのお手本の通り、剣を構えたまま足音をたてず素早く近寄り、袈裟懸け、又は逆袈裟、或は突き刺して仕留める。


「お見事!イリスさん、剣技の才も有りそうですね!!これから先は、剣技の技もどんどん教えていきますね!」



 もしや…ライセルさんの指導者魂にも火が付きましたか!?



 積極的な意欲を見せる魔法の師に加え、剣の師も得られるとは……この世界の基準を学ぶの為にも、師を得るのは望ましいわよね?


 これは中々にさい先の良いスタートでは無いかしら?


 直ぐに師の実力を越えないように気を付ければ、平均的なの見極めも付けやすいと言うものよね!?



 ふふふ…………転生ライフ謳歌の道筋が早くも見えた気がしますわ!!





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