4女神、状況を整理する

 確か、年末の多忙な時期を何とか乗り切って、仲の良かった同期に宴席に誘われたのよね。

 そして、一年分とばかりにひたすら煽って………泥酔、酩酊した。


 家まで、ちゃんとたどり着いていたかも、ちょっと怪しいわ………。


 そして気が付いたらここに居るわけだ。


 結論――


 困ったわね。どうやら酔った勢いで死んでしまったようだ。


 余程、疲れていたのね。お酒に酔って過労死でもしたのかしら?


 神であるハリシュが、過労死等するのかは怪しいものだったが、事実こうして見知らぬ世界で人間としてのだからそうなのだろう。


 しかし、ここで困った事態に直面している。


 何かって?


 どうやらここは、最下層世界で、神々も魔王も誕生したばかりの均衡と安定には、ほど遠い世界なの。


 あまつさえ、生まれたばかりの魔王はその職務を放棄し、引きこもり中だとか。本来魔王に使えるべき有力魔族が、魔物や魔族と言った魔種を支配下に置いてを誇称し乱立、跋扈ばっこする始末……。


 更に、イリス成るものの候補として挙げられ、この場にいるのらしいけど………。


 上位世界神界の生まれであるハリシュの力が、何処まで及ぶのだろうか?


 いきなりドカーンッ!ババーンッ!とかやって、即解決。上にバレて強制送還とか成ったりして………。


 ………………ぶるりっ!!


 有りうる!絶対にアリアリの有りで大有りじゃない!!


 これまでの激務を思うに、一人残されたダフネスが、しっかりバッチリこなしてくれる保証は全く無いけど、私はこの数百年の殆どを休みを取らず激務をこなしたのだ!!


 どうして転生したのかは知らないけれど、折角訪れた長期休暇バカンスの好機だ。この人間の人生分くらいなら、休暇として取得しても、問題ないわよね?



 この転生ライフ、満喫するわよ―――!!



「うふふふっ………」



 知らず漏れた笑い声に、傍に居た公爵家三男のレイン様が訝しげな表情をなさっていた。


「お目覚めになりましたか?イリス嬢。何か楽しいことでも思い出されたのですか?」


 頭を打って気でも触れたと思われたかもしれない。


 起き上がってすぐ周りに目もくれず、一人思案の世界に入り浸っていたし、急に『うふふふっ』なんて笑い出したら不気味に思われたかも知れないわね。


「申し訳有りません。レイン様とスタート地点が同じになれたことが嬉しくて、つい心の笑みが洩れてしまいました」


 おっし!当たり障りなく誤魔化せたわよね!?

 だ~か~ら~、頭がおかしくなった訳では有りませんよ~!



「あははっ、それは光栄だね。……所で具合はもう大丈夫なのかな?」


 ……ほっ、良かった!笑って流してもらえた。


「あっ、はい、お陰様で……。所でどうしてレイン様がこちらに?」


「聖女候補の君が倒れたと聞いてね。スタート地点が同じだけに気になってきてみたんだよ」


「え!?あ、あの……それは、ご心配お掛け致しました。もう、すっかり良くなりましたから………大丈夫です」


「畏まらなくても良いよ。これからの話がしたかったのも有るんだ。……今日は何だから、改めて時間を貰えないかな?此方から連絡するから」


 明日から数えて五日後が各地への転移となる。直ぐに転移しないのは準備期間の為だ。事前に武器、防具や道具類の新調、補充だったり旅装を整えるだとか………。


 一度、この旅に出てしまうとこの試練の終了が告げられるまで、基本的に王都への帰還は許されない。

 それだけ、世界規模での深刻な状況でも有るのだ。

 故に、出発する前に同じスタート地点に立つ者として細かい打ち合わせを行いたいのだろう。


「承知いたしました。御待ちしております」



 レイン様が立ち去った後、入れ違いに入ってきたのは、金髪碧眼の騎士姿の男性と赤髪緑眼の魔導師姿の女性だった。


 恐らくこの二人が私の護衛役となるのかしら?


 そうこう考えていると、魔導師服の女性が声をかけてきた。


「お加減はいかがでしょうか?イリス様」


「ありがとう、もう大丈夫です。それと、敬称付けはしなくて結構です」


 貴族とは言えど、男爵家。

 男爵家令嬢とは言えど、所詮は血の繋がりもないただの養女。

 敬称付けされる謂れは、これっぽっちも無いのだ。


「自己紹介が遅れました。私は宮廷魔術師団第七師団所属ソレイユです。聖女試練頑張りましょう!」



「第五騎士団所属ライセルです。イリス…さんの護衛兼指導を兼ねています。至らぬ点も有るでしょうけど宜しくお願いします」


 やはり、この二人が私の護衛兼指導を役になるのね。

「こちらこそきっとお二人には、沢山迷惑を掛けることになるでしょうけど宜しくお願いします」



 二人と軽く挨拶を交わし、明日から私の家に諸々準備の為、迎えに訪れる旨を伝えられた。




 ◇◇◇





 王都内、男爵家屋敷の自室にて改めて今の状況を整理し、今後の方針を定めることにした。


 まず、第一に私こと聖なる導きの女神ハリシュは、宴席での深酒のせいでどうやら死んでしまったようだった。

 女神ハリシュの属性は、『聖属性』『光属性』『火属性』である。

 元々は光の女神だった。しかしながら格が上がるにつれ、最上位神の聖なる光の神イプサムの存在がよぎるようになる。

 彼は、ハリシュにとって恩人であり師でもある。仕事一筋、仕事命、仕事こそが生き甲斐の人なのだ。

 その彼から、仕事を奪うような真似はしたくなかった。

 だからこそ、方針を変えて『導きの女神』となった訳なのだけど……。


 光属性の上位属性は聖属性になる。何時しか私の中から『聖属性』の力を発するように成り、『聖なる導きの女神』となった次第だった。


 そして、恐らく私の力は、覚醒を期に急激に戻って来ているように感じられている。

 己が何者であるか……一度神格化果たした者は記憶さえあれば、やはりと、なるのだ。


 第二に、転生体らしいイリスの現在置かれている状況は、勇者・賢者・聖女のうち、『聖女』候補として選ばれている。

 そして五日後には、王都から大陸各地に転送され、選定試練の旅に出ることに成る。それは、誰かが定められた武器を手に入れるまで、基本的には王都は帰ってこれないということだった。


 イリスの魔力は、端的に少ない。魔力を貯める器は大きいのに、それに対して魔力を生じさせる機関が弱いのだ。


 それなのに、聖女候補として選らばれたと言う不可解な謎も残るが、こと、ここに至っては既に拒否権など無く、試練の旅に出るのは決定事項となる。


 さて、ここで問題なのが、その試練とやらの目的は『聖女』を選定する事らしい。


『聖女』=『聖属性』


 大きな魔法を行使したら、私の存在がバレるんじゃないの?

 そうしたらまた、書類と格闘する日々に逆戻りよ?

 籠の中の小鳥に逆戻りだわ!!


 冗談じゃないわ!!


 ………と、なると導きだされる結論は、『聖女』の証し『錫杖』の争奪戦への参加を回避しつつ他のどなたかが所得するのを場合によっては促し、待つしかないわよね?


 それから、大規模な魔法行使はしないこと。


 ………気配の隠匿工作も必要よね?


 このまま放置していたらきっと、ハリシュそのものの気配に変わっていくことでしょう。


 ハリシュの気配を隠しつつ、聖属性、光属性の魔法行使には、格段の注意を払いつつ、『聖女』選定試練を回避する。


 うん、これでいきましょう!!



 ともなれば、現状使える魔法属性を一度見直しておこう。

 ハリシュとしては、聖属性・光属性・火属性が、使える。


 イリスとしては、聖属性・水属性・風属性が使える。

 そして魔力値だ。

 イリスの魔力は、それを産み出す或いは貯蔵する器官がほぼ空となっている。

 恐らく殆ど魔法は使えないんじゃ無いのかしら?

 それなのに『聖女候補』?


 甚だ疑問だけれど、この辺りは既に決定事項だから仕方がないわね。


 少しずつハリシュの魔力を流し入れて、魔力の底上げを謀りますか。


 仮にイリスに十分な魔力が有ったとして、イリスの聖属性は、どうやら後天的に発生したものだから威力としては先天的なものよりも劣るだろう。

 その辺を加味して、威力の調整も図らないと不味いわよね。



 ともなると、ハリシュの聖属性をかなり抑えて水属性と風属性を強化した動きが望ましいかしら?


 光と火に関しては、聖属性か強化されていけば、聖なる○○として使用が可能になる。


 使うタイミングと、強度さえ踏み間違えなければ怪しまれる事は無いだろう。


 そうと決まれば、まず女神ハリシュの気配と言うものを完全に封印する。


「聖なる光よ聖なる炎よ納まり鎮まれ、黙せよ静寂せよ。時が汝を解き放つその時まで………『封印』」


 さて、これである程度までなら『聖属性』魔法を使ったとしても、イリスの魔法としてこの世界の神々に対しても上位世界の神界の目からも誤魔化せるだろう。



 後は………旅に出るために必要な物よね。

 何とか本丸錫杖に近寄らないように、時間稼ぎの方法を探さないとな~。


 ………そう言えば、文明の発達した魔法と魔物のいる世界には、大抵『ギルド』があるのよね………。


 ああ、そうね………ギルド……登録して、そこで足踏みを繰り返して時間稼ぎなんてのもアリかしら………。


「あ………っふぅ………」



 そこまで、考えた辺りで、大分遅い時間になっていたらしく、私は眠りに落ちたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る