第10話

 年が明けて2月。俺の日常に平穏が戻った。


 年末年始は貴族としての行事があり色々と忙しく大変だった。当主である父はまともに動かず母は我が儘を言いだすので面倒。ウィート・ルドルとしては我が儘を言う側なので気にする必要もないのだけれど色々と分かってしまう側の人間からすれば大変だった。

 使用人統括であるバーツーメ・ネラルは慣れた様子で簡単にこなしていたので何とかなった。主が無能でも下の者がしっかりとしているので成り立っているのだと改めて感心した。


 そんな面倒な時期を乗り越えた俺の生活は領主館から別荘へと移った。

 帝国貴族が動物を飼育することは珍しくないが市内の人目につくところを連れ回すのは外聞が良くない。購入目的からも人目を避けることが望まれる。そういった理由から別荘が与えられた。

 別荘は主都北の外れに用意された。そこに購入した3人と使用人としてフミ・カードゥとの5人での生活が始まったことで平穏が戻った。

 別荘は3階建ての部屋数20以上の無駄に大きい館。子ども与えるにして広すぎるが貴族とはそういうモノ。

 実家には使用人を増やさないかと言われたが断った。元々潔癖の嫌いがあったのであまり問題にはならなかった。館の整備をフミ・カードゥに委ねるのは大変だと思うが特に汚すことをするわけでも無いので大丈夫だろう。


 館での生活は自堕落そのもの。領主館の頃のように他家の子息令嬢に出会うことも無ければ気を使わなければいけない使用人もいないのでウィート・ルドルを演じる必要もない。

 俺の望んだ何もしなくていい日常の慣性だ。


 購入した3人については特に何もしていない。

 彼女らを購入したのは何もしないで良い時間を手に入れるためのものなので何かをする必要もない。主として館から出ない事、館内での生活を口外しない事だけを命令して放置してある。

 魅惑な女性が自分の言葉に従順。その状況はとても魅惑的だが俺には行動を起こせるほど豪胆ではなかった。彼女たちを見ていると自らの愚かしさを再認識させられて何も出来なくなる。そんな気持ちも起きない。

 命令をまともに出さなかった事で不都合があったのは一度だけ。

 自由に暮らす事を許可していリアから奉仕を受けることがあった。朝方行われ気付いた時には終わってしまったので途中で止めることが出来なかった。

 聞けばリアは帝国南部で産み育てられたようで主に対する奉仕をあれこれ仕込まれていたという。俺が求めずに自由な行動を許可していたので自らの意志で行ったそうだ。

 リアの出自については知らなかった。

 正史での記憶には残っていない。リアだけではなくヴェスパーについても同様に。

 貴族子息令嬢が愛玩動物を購入するのは甚振るため。自らの才能をひけらかす為、鬱憤をぶつける玩具とするため。実際正史のウィート・ルドルはリアとヴェスパーには酷いことをした。痛みと屈辱を与え尊厳を傷つけた。

 ウィート・ルドルは彼女らを1人のヒトとして認識していないので興味を持たなかった。どんな生まれでどんな育ちで何が好きなのか。そういった個人情報を得る機会が無かった。そして一方的に欲求をぶつけるだけで尊厳を踏みにじるのだから彼女たちから何かをしてもらえることは無かった。


 多少の想定外はあったものの俺は再び平穏を手に入れた。

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