第11話 【改訂工事前】凶神...所望する

◆アルグリア大陸暦1538年2月2日 アッバース王国辺境~ミモザの森




「くそっ! どうする! こんな数のゴブリンとは、......私の考えが甘かったのか!」




 王女が、己の脳筋を今更ながらに嘆いている。




 其の横で、王女を庇いながら戦う俺の妹。




『せい! やぁ! えい!』




 王女は息切れ、体力が切れ掛かっているのに、妹は全く以て元気だ。




 理由は簡単だ。




 妹の称号《憑依者》の恩恵だ。




 妹のステータスでは能力値が低いので、称号効果に依り、で戦闘しているのが答えだ。




 そして、俺はカツンパラデスの地下王墓で獲得した古代魔道具アーティファクトの1つ【隠者のローブ】を纏っている。




 このローブは、使用者の気配・匂いを隠す代物しろもので、傍観ぼうかんする時には重宝ちょうほうする。

 



 それにしても、妹はどうしてしまったのか?




 他人の為に己の身を投げ出すような教育を、俺はした覚えは無い。




 ふむ、俺に取り憑いていた間に、某かの心境の変化でもあったのだろうか。




 唯々、俺は少し変わってしまった妹の、これからを案じていた。






「ぐっ、......」




 王女も限界をとうに迎えている。




 意地か、誇りプライドか。




 妹に守って貰っている現実に、己が許せないか。




 まあ、何にしろ終局は徐々そろそろだ。






『シャンダナさん! 確り! はぁぁぁ~!』




 妹は王女を守りながらも、確実に緑鬼精霊人ゴブリンを倒していく。




 それも、緑鬼精霊人ゴブリンの死体を上手く使って、防衛陣地を構築していく。




 遣るな、妹よ、......だが、その戦略は諸刃の剣だぞ?






『イマダ、マホウブタイ! ヤレ!』




「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」




 ゴブリンキングの号令で、ゴブリンメイジの一団から火球ファイヤーボールが放たれ、妹達の周りの緑鬼精霊人ゴブリンの死体に着弾する!




 其れに依り、妹達は炎のおりに囲まれ、燃える死体から立ち昇る煙に依って視界が塞がれる。






『イマダ、ユミタイ! ウテ!』




「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」




 妹達を囲む緑鬼精霊人ゴブリンの群れから、200体ほどの弓兵が一斉に弓を鳴らす!




 弓矢の豪雨が、妹達を襲う!




 閉ざされた視界の中で、その豪雨の如き矢を防ぐ事は無理だろう。




 俺は針鼠のように、矢が突き刺さった妹達を幻視げんしした。




 ふむ、......生きているな。




 俺の脳内に浮かぶ周辺地図の情報では、虫の息どころではなく、全く傷を負っていないノーダメージ状態がうかがえる。






 炎の檻が、徐々じょじょ緑鬼精霊人ゴブリンの死体を焼き尽くして消えていく。




 そして、姿を徐々じょじょに現していく妹達。




 ふむ、防御魔法の鉄壁の守りマジックシールドか。




 王女のMP(魔力)値が、空っぽになったな。




 これでは、第2波の攻撃を防ぐ事は出来ないだろう。




 万事休すか、其れに敵はからな。





 

「くっ、これで最後の切り札が無くなった! メル、お前だけでも逃げろ! 私と共に死ぬ必要はあるまい!」




 王女は必死に妹の説得を試みる。




 だが、......妹が其れに素直に従うとは思えない。






『嫌よ! シャンダナさん!』




 王女の言葉を一刀両断に切り捨てた妹は、周囲の警戒をしながらも、王女を見つめこう言った。




『私、初めてなの。同じ年齢の人と話しするの! 私はずっと誰とも話しが出来なかった。最近やっと兄ちゃんと話が出来て、凄く嬉しかった! そして、シャンダナさんに出会えて、もし友達がいたらこんな感じかなとか、そう想像するだけで嬉しかった! だから、私の勝手でシャンダナさんを助けるんだから気にしないで!』




 妹の言葉を受けて王女は、ニヤリと笑いながらも真剣な表情で妹を見つめていた。




「そうか、それなら生き残るのは難しそうだが、私と友達になってくれないかメル!」




『え、良いのシャンダナさん?』




「ふふふ、メル。私達はもう友達だ! さん付けは要らない、シャンダナと呼べば良い! 来るぞメル、生き残るぞ!」




『解った、シャンダナ!』




 俺は一体何を、見せられているのだろうか、......仲良し青春ごっこか!




 下らない、全く以て、下らない!




 安っぽい友情などに、何の意味がある?




 友の為に死ぬだと、一体何の意味があるんだ?




 妹は本当にどうかなってしまったのか、俺は一抹の寂しさを感じながらも、妹達を傍観ぼうかんする。




 妹達が無傷で生き残っているのを確認したゴブリンキングは、次の一手を放つ!






『キンセツブタイ、トツゲキ! ススメ!』




「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」




 一斉に錆びた剣と槍と粗末な棍棒を持った、緑鬼精霊人ゴブリン達の群れが妹達に殺到する!




『はぁぁぁ~! たぁ! かぁ、っせい!』




「おおおおお~!」




 妹と王女は緑鬼精霊人ゴブリン達の数の暴力を受け止め、激しく跳ね返していく。




 しかし、其処に新たな緑鬼精霊人ゴブリンの群れ500ほどを率いたゴブリンキングが合流した。




 そんな圧倒的に不利な状況でも、妹と王女は何故か楽しそうに、強く吠え合いながら緑鬼精霊人ゴブリンを倒していく。




 限界をとうに超えている王女と、俺の恩恵を受けているとはいえ、実戦の戦闘に慣れていない妹では、到底生き残ることは出来ない。




 俺は冷静に戦況を分析しながらも、一切の手助けをするつもりは無かった。




 “殺られたら、殺り返す”と言う、俺のルールは絶対だ。




 俺は己からは、攻撃はしない。




 全て相手次第だ。




 かつて俺の殺り方を見た弟子が言った。




 “師匠の拘りルールって、無視スルーされたら意味ないよね?”と。




 ふっふふふ、そう俺に対する対処は至って簡単、空気のように気にしなければ良いんだ。




 そうすれば、俺は無力化される。




 何故なら、俺からは絶対に攻撃しないからだ。




 俺の魂に刻みつけられたルール第1優先事項




 それ故に、俺は




 え、なら隠者のロープを脱げば良いんじゃないかって?




 その通りだ、脱げば俺も戦闘に加われるだろう。




 で、俺に妹達と一緒に死ねと言うのか?




 俺でも、




 俺は非効率な、してや、必ず負ける戦いはしない。




 其れは、意味がないからだ。




 俺は貧民街スラムで生まれ、物心付いた時には親も居なかった。




 頼れる者は己だけ。




 そんな世界で生きてきた。




 




 生き残る事が、俺の存在意義だった。




 俺は妹の為に、己の命を賭ける事はしない。




 前世では勝算があったから、行動に移しただけだ。




 結果、お亡くなりになってしまったが、其れは良い。




 其れは俺の判断でした事だからだ。




 現在、緑鬼精霊人ゴブリンの残数は此の場で、およそ900。




 そして、此の場所を目指して、2000ほどの緑鬼精霊人ゴブリンが進軍中である。




 俺が加わった処で、数の暴力によって、蹂躙される結果はくつがえらない。




 俺は、勝算の無い戦いはしない。




 妹は妹の意志で戦い、死んでいくだろう。




 但し、但しだ! もし、もしもだ!




 妹が、兄ちゃん助けてと言えば、もしかしたら、万が一の確率だが、俺の考えも変わるかも知れない、......よ?




 俺は妹に甘いシスコン男だからだ!





 

 妹からの声掛けヘルプミーを心待ちにする男は前世の仮想現実世界では、触らぬDQNに祟り無しと言われ、その残虐性と嗜虐性と殺られたら殺り返すプレイスタイルから、凶神オーバーヒールと呼ばれ忌み嫌われた二重人格者クーデレだった。

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