第9話 【改訂工事前】凶神...憂慮する

◆アルグリア大陸暦1538年2月2日 アッバース王国辺境~ミモザの森




 緑鬼精霊人ゴブリンの集落で、対峙する巨精霊人ジャイアントの騎士達と宝玉精霊人カーバンクルの兄妹。




 一触即発の雰囲気の中で、俺は心の中で嘆いていた。




 厄介な事に巻き込まれたぜ......。




 妹は単に人と話せて喜んでいるが、俺は唯々面倒臭いだけだ。






「お前達、一体何者なんだ? 緑鬼精霊人ゴブリンの集落を、それもゴブリンキングを倒すとは、只者ではあるまい?」




 巨精霊人ジャイアントの老騎士の1人が俺達に誰何する!




 くくくくく、お前に答える義理は無い! この阿呆め!






『此処には、私のレベルアップに来たの!』




「......」




 屈託なく答える妹。




 ああ、妹はやっぱり人と話せる事が嬉しいようだ。




 妹の白い尻尾が、グルングルンとご機嫌に廻ってる。




 妹よ、......知らない人に、何でもかんでも教えちゃ駄目なんだぞ?




 何時、兄ちゃんはお前をそんな子に育てたと言うんだ?




 他人を信用するなと教えたはずだが、...俺の教え方が悪かったのか?




 否、俺の伝え方が悪かったんだ......そうに違いない。




 まあ、いつも通り流れに身を任そう。




 俺は、物事を気楽に考える男だ。






「レベルアップ? なんだそれは? 何処の者だ! 他国の密偵ではあるまいな?」




 巨精霊人ジャイアントの無骨な騎士が問い掛ける。




 あ、阿呆か? 巨精霊人ジャイアントは脳筋が多いと言うのは事実らしい。




 密偵が、こんな大立ち回りなんかするか! この阿呆が!






『えーと。私達の国は、先におじさんが言ってたカツンパラデスって国だよ? 私の兄ちゃんは、カツンパラデスの王様なんだよ! だから、密偵な訳はないよ! べーだ!』




 巨精霊人ジャイアントの無骨な騎士に、見事なアッカンベーをする妹。




 素直なのは良い事だが、......話が混沌としていくぞ、妹よ。




「ふっははははは! これは面白い! 冗談にしても程があるぞ、宝玉精霊人カーバンクルの娘よ! では証拠を見せてみろ、出来ないのならお前達は偽物と断じられても致し方ない! どうだ、宝玉精霊人カーバンクルの娘よ?」




 巨精霊人ジャイアントの若い騎士が、妹に煽りを入れる。




 悔しそうに巨精霊人ジャイアントの若い騎士を睨み付ける妹。






 阿呆は、やっぱり阿呆だ。




 物事の本質を理解していない。




 今一番何が大事か理解していない。




 この緑鬼精霊人ゴブリンの集落の惨状から、妹が己達よりも圧倒的な強者だと何故気付けない?




 この緑鬼精霊人ゴブリンの集落の規模ですら、お前達では返り討ちに合っていたと何故気付かない?




 脳まで筋肉で出来ている巨精霊人ジャイアントならば仕方ないか......。






 なんて、俺が脳筋を気遣う訳はない。




 くくくくく、楽しみだ。




 俺は、この阿呆達が俺達に手を挙げる、素晴らしい未来を願う!




 さあ、毒饅頭俺達喰え攻撃しろ! 




 それが殺し合いの始まりだ! ああ、堪らん!




 俺はゾクゾクとした、愉悦に心震わせる!






 俺にはルールがある。




 それは俺の根源第1優先事項だ!




 “殺られたら、殺り返す!” 




 その単純な行動こそが、俺の思考であり、至高だ! チーン!






『ちょっと良いかな? シャンダナさん達は緑鬼精霊人ゴブリンを倒しに来たんだよね?』




「ああ、その通りだメル。只、メルに先を越されたけどな」




 王女は戦えなかった事が、少し悔しいようだな。




 脳筋王女か、......流石は巨精霊人ジャイアント






『じゃ一緒に緑鬼精霊人ゴブリンを倒しに行けば良いんじゃないかな? まだ、一杯いるよ?』




「何を言っているメル。......緑鬼精霊人ゴブリン達はメル達が倒したんじゃないか?」




『此処の緑鬼精霊人ゴブリンはね! でも、この森には、まだまだ一杯緑鬼精霊人ゴブリンはいるから、それを倒せば良いんじゃないかな?』




「な、何だと? 何故それが、お前に解るんだ?」




「ふん、ゴブリンキングが倒された今、魔物暴走はもう起こらない。緑鬼精霊人ゴブリンなど倒しても存在個体レベルは上がりませんぞ。姫様、戻りましょう!」




「ははは、姫様、此の様な怪しい者の言葉なぞ信じてはなりませんぞ! この宝玉精霊人カーバンクルの娘が本当の事を言っているか、解ったものではありませんぞ!」




 王女様の側仕えの3人の騎士が、俺の妹を揶揄する。




 ああん? 誰の妹に言ってやがるんだ?




 この脳筋共には、きつ~いお仕置きが必要だな、くくくくく。






『ゴブリンキングなら、まだ5体ほどこの森にいるよ? 魔物暴走スタンピート? 其れって確か、根源群れのボスを倒さないと止まらないんじゃない? 多分だけど、ゴブリンエンペラーが根源群れのボスだと私は思うよ!』




 妹よ、......喋りすぎだ。




 鑑定眼と言う言い訳だけでは、誤魔化せなくなるぞ?




 俺は心の中で、妹に突っ込みを入れる。






 だが、魔物暴走スタンピートが起きようと、俺達には関係ないし、全く問題もない。




 誰だろうが、俺を、妹を殺とうとしたら殺り返すだけだ。




 こんな脳筋共なんか相手にしないで、早くお前の個体レベルを上げに行こうぜ、妹よ!




 俺はそう心の中で、妹に語り掛ける。






「ば、馬鹿な! ゴブリンエンペラーだと、世迷い言を! このミモザの森にそんな個体がいるはずはない! 此処はミモザの森だぞ?」




「語るに落ちたな、宝玉精霊人カーバンクルめ!」




「姫様、やはりこ奴等は信用なりません。一旦、城へ戻りましょう!」




 そう騒ぎ立てる巨精霊人ジャイアントの騎士達を、王女様は手を挙げ制する。




「まあ、待てお前達! 私はメルが嘘偽りを言っているとは思えん。......メル! メルには緑鬼精霊人ゴブリン達の居場所が解るんだな?」




『うん、そうだよシャンダナさん!』




「では申し訳ないが、其処まで私達を案内してくれないか? 勿論、礼もするぞ、どうだ?」




『うん、いいよ。えーと、一番近いゴブリンキングの集落は此方だよ!』






 はぁ~、妹よ。




 お前はいつから、そんなお人好しになったんだ?




 お人好しは長生き出来ないんだぞ?




 俺は妹の将来を案じる。




 だが、妹の隣には俺がいる。




 妹を傷付ける者を俺は許さない。




 俺は、妹に甘い男シスコンだ。






「「「グッギャギャギャギャ!」」」




 緑鬼精霊人ゴブリンの警戒網に、脳筋共が引っ掛かったようだ。




 巨精霊人ジャイアントに隠密行動は無理だ。




 見つけ次第皆殺しサーチアンドデストロイが一番効率の良い戦い方だろう。




 順調に緑鬼精霊人ゴブリンの警戒部隊を討伐していく巨精霊人ジャイアントの騎士達。




 俺達兄妹は、手を出さない。




 妹には悪いが、経験値なら別に緑鬼精霊人ゴブリンに拘る必要もない。




 この脳筋達には地獄を見て貰おう。




 お前達の命日は今日だ!




 え、巨精霊人ジャイアントに怒ってるのかだって?




 何故、俺が脳筋に怒る必要がある?




 俺は事実を言っているだけだ。 




 此奴らは今日死ぬ運命シナリオなんだよ!




 王女様も含めてな、何故なら巨精霊人ジャイアント4人共の死亡日が今日の日付だからだ。




 俺はプレイヤーだ。




 プレイヤーには恩恵がある。




 途轍もない恩恵、......そう、ゲームシステムだ!




 脳内に浮かぶ周辺地図で、対象のクリーチャーマークを注視すれば、簡単に対象個体の情報が得られる。




 妹が、このミモザの森でゴブリンエンペラー及びゴブリンキングの集団を見つけたのもゲームシステムの恩恵だ。




 そして、対象個体の情報に個体の説明書きがある。




 そこには、こう書かれている。




――――――


情報表示:▼


NAME:シャンダナ・アッバース


個体LV:38


備考:▼


年齢:18歳


種族:巨精霊人ジャイアント


身分:アッバース王国第2王女


職業:姫騎士


称号:《お転婆姫》


才能:《長剣Ⅳ》《盾Ⅲ》《肉体強化Ⅵ》《防御魔法Ⅲ》《激高Ⅲ》《威圧Ⅴ》《礼儀作法Ⅲ》


説明:アッバース王国第2王女。お転婆姫としてアッバース王国では有名な姫騎士。アルグリア大陸暦1538年2月2日にミモザの森の魔物暴走スタンビートに巻き込まれ死亡する。


状態表示:▽


能力表示:▽


部隊編成表示:▽

――――――




 巨精霊人ジャイアントの騎士3人も説明書きに今日が死亡日とある。




 アルグリア大陸暦1538年2月2日にミモザの森の魔物暴走スタンビートに巻き込まれ死亡する。




 これが巨精霊人ジャイアント4人の運命シナリオだ。




 だから俺は言ったんだ。




 厄介事に巻き込まれたとな。




 つまり、今日このミモザの森で確実に魔物暴走スタンビートが起こると言う事だ。






「メル! 解っているな?」




『うん、兄ちゃん! 勿論よ!』




 解っているなら、それで良い。




 そう俺達は、巨精霊人ジャイアント達の戦いには関わらない。




 王女様一行を助ける義理は、俺達にはない。






『オマエタチ、ハ、ナニモノダ! モノドモ、テキヲウテ!』




「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」




『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ~!』




 緑鬼精霊人ゴブリンの群れに、王種の咆哮の部隊能力・士気上昇効果が付与される。




 はてさて、巨精霊人ジャイアントの騎士達のお手並み拝見だ。




「行くぞ、皆の者! 殲滅だ!」




「「「『おぉ~!』」」」




 王女様の号令で、騎士達が雄叫びを上げ突撃する!




 馬鹿なのか? この緑鬼精霊人ゴブリンの集落の人数は、凡そ500。




 数の暴力で、嬲り殺しにあうぞ?






 う、うん? き、気のせいかな、......騎士達の雄叫びに妹の声が混じっていたような?




 ま、まさかな......うん、やっぱり妹だ!




 それも一番先頭で緑鬼精霊人ゴブリンの群れに突っ込んでいく!




 妹よ、......何を解ったんだい? 何が勿論なんだい?




 兄ちゃんは、お前の行く末が大変心配です!




 俺は呆れながらも、嬉々として緑鬼精霊人ゴブリン達を撲殺していく妹を見つめていた。






 そして、俺は盛大に溜め息を付く!




 ああ~厄介な事になった!




 俺の脳内に浮かぶ周辺地図に於いて、俺達がいる地点を目指し、赤色アクティブが包囲網を作りながら、ゆっくりと集まって来る!




 一際大きな赤色アクティブに注視し確認すると、ゴブリンエンペラーとの表示が出る。




 総勢3000ほどの赤色アクティブが、此処を目指し行軍している。




 厄介な事になったと呟く俺は、ボリボリと頬を掻きながらも、これから起こる戦いを想像して愉悦を感じていた。




 た、たま らん! 漏れそうだ!






 愉悦に浸る男は前世の仮想現実世界では、触らぬDQNに祟り無しと言われ、その残虐性と嗜虐性と殺られたら殺り返すプレイスタイルから、凶神オーバーヒールと呼ばれ忌み嫌われた快楽殺人者サイコキラーだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る