第8話 【改訂工事前】凶神...心配する

◆アルグリア大陸暦1538年2月2日 アッバース王国辺境~ミモザの森




「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」




 緑鬼精霊人ゴブリンの群れを絶賛蹂躙中の妹。




 それを眺めながら俺は脳内の地図で、俺達に急接近する集団を補足する。




 さあ、どうする妹よ?




 緑鬼精霊人ゴブリンの群れを統率する、王種ゴブリンキングの登場だぞ!






『オマエ、ハ、ナニモノダ! ナニユエ、ワレノムラヲオソウ?』




 ほう、中々巧みにアルグリア語を話す王種だ。




 個体レベルも80台か、妹の約10倍だ。




 さあ、どうする妹よ?




 え、無視スルーですか...。






 ゴブリンキングが、憤激ふんげきに顔色を染めているぞ、妹よ?




『コタエヨ! カーバンクルノムスメヨ!』




 え、それも無視スルーですか...。




『ふん! でぇ、やぁ!』




 妹はゴブリンキングの憤激ふんげきを物ともせずに淡々と緑鬼精霊人ゴブリンほふっていく。






『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ~!』




 ゴブリンキングが背の大剣を右手に捧げ持って、咆哮を揚げる!




 すると、緑鬼精霊人ゴブリンの群れに紅いエフェクトが纏い出す。




 部隊能力・士気上昇効果のある王種の咆哮か、......妹よ数の暴力にどう対抗する?






「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」




 緑鬼精霊人ゴブリンの群れは王種の咆哮に依り、一層凶暴さを増し妹に襲いかかった。




『シンリャクシャメ! モノドモ、メニモノヲミセテヤレ!』




 ゴブリンキングが緑鬼精霊人ゴブリンを統制して、集団での狩りの陣形で妹を襲う!






 え、それも無視スルーですか...そうですか。



 緑鬼精霊人ゴブリンの連携した数の圧力、...妹は全く動じる事なく楽しそうに素手で撲殺していく。




 うん、あれは棍棒か? 緑鬼精霊人ゴブリンの戦士達が持っていた2本の棍棒...両手にその棍棒を持った妹が緑鬼精霊人ゴブリンの群れを蹂躙する。






『シネ! シンリャクシャメ!』




 すると、その状況に焦れたゴブリンキングが、急接近して妹に大剣を叩き付ける!




 え、マジか?




『でぇぇりゃゃゃゃゃゃゃゃ~!』




 妹はその大剣を紙一重で交わしながら、左手の棍棒を裏拳の如く体を捻りゴブリンキングの左手付け根の肩を殴打する。



 ボォォォォォォォォォ~ン!




 ゴブリンキングの左肩付近が爆散した!




 え、マジか?




 妹の能力でレベル差が10倍のゴブリンキングの肩を、唯の殴打で爆散した?




 どう言うことだ? 






『グゥワァァァァ~!』




 左手を肩ごと失ったゴブリンキングは、苦悶の表情を浮かべながらも右手だけで大剣を操り妹を攻撃する。




 その右手だけの大剣の薙ぎ払いを、屈んで交わした妹は容赦なく右手の棍棒で、ゴブリンキングの急所を一撃する。




『せぃ!』




 ボォォォォォォォォォ~ン!




 俺は思わず内股になりながら、妹に圧し潰され掛けた大事な“ピー”を意識した。




 エゲツナイぞ、妹よ......。






『グゥワァァァァ~!』




 妹の容赦ない一撃を股間に受け、大事な“ピー”が爆散したゴブリンキングは、白目になりした。




 可哀想にゴブリンキングは深い意味で今、お亡くなりになったぞ......チーン。




 それにしても、妹はステータスでは推し量れない攻撃力を有している?




 俺は妹の情報を再度精査して、あるものをスキル欄で見つけた。






 生えてる......。




 スキルが生えてやがる。




 スキル《撲殺》......殴打の上位スキルが殴殺、その上位スキルが撲殺。




 《撲殺》のスキルに依って、妹の攻撃力はスキル発動時に於いて常時の3倍になっている......。




 緑鬼精霊人ゴブリン達は王種が倒された途端に、紅いエフェクトが無くなり四散し出した。




 え、何と妹は、......気絶したゴブリンキングの意識を覚醒させようとしている。




 おお、妹よ......。




 俺は、......既視感デジャブを感じた。




 ゴブリンキングの両頬を、交互に平手で優しく殴打している。




 え、何故ゴブリンキングを殺さないのかだって?




 見てれば解るが、俺は遠い昔を思い出していた。




 あ、ゴブリンキングが覚醒したな。




 可哀想にゴブリンキングよ、そのまま永遠の眠りに付けば幸せだったのに......。




 俺は憐れなゴブリンキングに哀悼の意を送る。






『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ~!』




 ゴブリンキングの王種の咆哮が、ミモザの森に木霊する!




 四散していた緑鬼精霊人ゴブリン達が逃走を止め、再度個々に集結しながらゴブリンキングの元へ集ってくる。




「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」

「「「グッギャギャギャギャ!」」」「「「グッギャギャギャギャ!」」」




『ふん! てぇい! だぁ!』




 妹はゴブリンキングの右腕と両足を棍棒で丁寧に叩き折ると、集結して来た緑鬼精霊人ゴブリン達を淡々と撲殺していく。




 ゴブリンキングは群れの統率者として、緑鬼精霊人ゴブリン達を集める為だけに生かされたと化した。




 俺が前世で、緑鬼精霊人ゴブリンの王国を殲滅した時に使った手だった。






 妹は、俺に取り憑いていた。




 取り憑き、俺の行動を熟知しているようだ。




 だが、己でするのと己の妹がするのでは、感じ方が違うと初めて知った。




 我が妹よ、...兄ちゃんはお前の行く末が、ほんの少しだけ心配になりました。




 妹は緑鬼精霊人ゴブリン達を殲滅し、ゴブリンキングに止めを刺す。






『ごちそう様でした。兄ちゃん、お替わりをお願いします!』




 え、妹よ。




 食い過ぎですよ?





 屈託なく笑う妹に、...俺は苦笑いで答えた。






『ん? 兄ちゃん、どうしちゃの? 兄ちゃん、いつも連戦してたよね?』




 不思議そうに俺に問いかける妹。




 おお、妹よ。




 兄と同じ様な道を進む必要はないんだぞ!




 うん? 脳内の周辺地図に俺達に急接近して来る者がいる。




 単体で、ふむ......厄介な者が近付いて来る。




 はてさて、どうしたものか。






「おい! お前達、お前達が此奴らを倒したのか?」




 おいおい、おい!




 俺は突然現れた巨精霊人ジャイアントの女に、心の中で突っ込んだ!




 突然現れて第一声が、その言葉とは親のしつけがなっていないようだ。






『うん、そうだよ!』




 無邪気に答える妹。




「そ、そうか! それは礼を言う! 私はシャンダナ! ミモザの森で魔物暴走モンスタービートの兆しがあると聞いて駆け付けた者だ!」




 ふむ、シャンダナね......。




 まあ、家名までは名乗る訳もないか。






『初めまして、私はメル! え~と、今はメル・カツンパラデスだね! よろしくね~!』




 え、......妹よ、何故お前が、俺達の家名を知っている。




 あっ、そうか俺に取り憑いていたんだった。




 でも何故、妹自身にも家名があると解ったんだ?




 ああ、称号か、......憑依者ポゼッション




 称号効果はの力を得る。




 つまり、プレイヤーと同じ事が出来るって訳だ......。




 妹も脳内で、情報確認しているようだ......。






『それで、シャンダナ・アッバースさんは、これからどうするの?』




 は? ......妹よ?




 おお~、妹よ、妹よ!




 折角、厄介な相手が素性を隠してくれているのに......。




 お前は、天然さんなのか?




 それに王女に、“さん”はないだろう?




 王女にはせめて“さま”付けだろうと、俺は己を棚に上げて心の中で妹に突っ込んだ!






 妹の言葉を聞いた巨精霊人ジャイアントのシャンダナが、大きな体に似合わない俊敏な動きで俺達と間合いを取り剣を構える。




「何故、私の事を知っている? お前達は何者だ?」




 はぁ~、そりゃそうなるわな。




 初対面で己の素性を知っていて、緑鬼精霊人ゴブリンの集団を討伐して一切の傷を負ってない2人組。




 むっちゃ! くっちゃ! 怪しい!




 妹よ、空気を読もう!




 兄ちゃんはお前の行く末が、少しだけ心配になりました!






『だって、そう書いてあるんだもん!』




 おいおい、妹よ......。




 お前は俺に取り憑いて、一体何を見てきていたんだ?




 兄ちゃんはお前の行く末が、かなり心配になりました!






「お前は、若しかして鑑定眼持ちか?」




 おお、良い具合に勘違いしてくれた。




 王女! グッジョブ!






 俺は何か言おうとしている妹の口を塞ぎながら、巨精霊人ジャイアントの王女に口止めをする。




「ああ、そうなんだ! だけど出来たら妹の鑑定眼の事は秘密にして欲しい。鑑定眼持ちは狙われる。況してや、俺達は宝玉精霊人カーバンクルだからな......」




 俺の説明に納得した巨精霊人ジャイアントの王女は、快く了解してくれた。






「ああ、こちらこそ不躾な事をしてすまない!」




 俺は巨精霊人ジャイアントの王女シャンダナ・アッバースの情報を脳内で確認しながら、俺達に又もや急接近する者達を脳内の周辺地図で捕捉しする。




 ああ、やっぱり厄介な事になった。






『シャンダナさん、お供の人達が来たよ?』




 い、......妹よ。




 やっぱりお前は、天然さんだ!




 兄ちゃんはお前の行く末が、激しく心配になりました!






「姫! シャンダナ様! おお、姫。善くぞご無事で!」




「む! 何奴だ? 貴様等!」




「姫! こちらへ!」




 アッバース王国第2王女の側仕えの騎士3人が現れ、騒ぎ出す!






 ああ、やっぱり厄介な事になった。




 そんな予感がした。




 俺の予感は当たるんだ。






『私はメル・カツンパラデス! そして、こちらが私の兄ちゃんのフェート・カツンパラデスです! よろしくね~おじさん達~!』




 楽しげに挨拶する妹。




「.........」




 遠い目をして、現実逃避する俺。




「カツンパラデス? 確か世界樹ユグドラシルの森にあると言われる猫精霊人ケットシーの国の名が確かカツンパラデス! しかし、貴様等は宝玉精霊人カーバンクルではないか!」




 俺達を誰何する巨精霊人ジャイアントの騎士達。






 ミモザの森の緑鬼精霊人ゴブリンの集落跡は、俺の妹の発言で混迷を深めていく......!




 それよりも何よりも王女とお付きの騎士達の死亡日が、今日の日付なのが一番の厄介事だ、はぁ~






 嘆息する男は前世の仮想現実世界では、触らぬDQNに祟り無しと言われ、その残虐性と嗜虐性と殺られたら殺り返すプレイスタイルから、凶神オーバーヒールと呼ばれ忌み嫌われた自己中者エゴイストだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る