第7話 【改訂工事前】凶神...邂逅する

◆アルグリア大陸暦1538年2月2日 アッバース王国辺境~ミモザの森




 俺の目の前に立つ純白の毛並みの宝玉精霊人カーバンクル




 俺の亡くなった妹の顔。




 その顔を見続ける俺を、膨れっ面で睨む妹が眩しく俺には映る。






「悪い悪い、ごめん。メル、機嫌を直してくれよ。この通り謝るからさ、ごめん」




 俺はメルの前で、両手を合わせて謝っている。




 え、何故亡くなった妹が目の前にいるのかだって?




 ふっ、......解らん!




 俺が知る訳ないだろう? 馬鹿な事を俺に聞くな!




 うん? 妹の体が透けてる? 




 俺は目の前の妹をゲームシステムで確認した。




 姿は透けて見えるが、実体はある。




 何故なら、俺の“ピー”が激しく痛みを主張しているからだ。






『やっと兄ちゃんと話が出来る。兄ちゃんに私の声が聞こえないから凄く悲しかったよ!』




 そう言う妹の人種種族は、霊精霊人ゴースト...不死族に属する、幽霊だった。




 若しかしてお前、俺にずっと取り憑いていたのか?




 そうか、そうだったのか。




 思い当たる事が結構、いやかなりある。




 くっくくくくく。




 流石、俺の妹だ。




 執念深さは、俺似おれにだな。




 ほう、妹は俺の傍にいつも居てくれたのか?




 ふむふむ、前世からそばに居ただって? ほう......。




 え、俺が何も反応しないから、ゲームアルグリア戦記のスタートボタンを押しただって? テヘペロって......。




 くっくくくくく。




 流石だぜ、妹よ! 最高だぜ、妹よ! それでこそ、俺の妹だ!




 え、妹を怒らないのかだって?




 うん、何で? 何か妹が悪い事でもしたのか?




 え、俺が用意していたスキル群とアイテム? 




 ああ、あんなのはだ。




 あんなものは大した事じゃない! 忘れるなよ?




 俺は、妹に甘い男シスコンだ。






 其れよりも問題なのは、妹の種族だ。




 不死族の霊精霊人ゴースト




 聖水を掛けられたら一発で昇天する闇属性種族でも最弱の部類下位モンスターだと言う事だ。




 妹の強化を早急にしなければならない。




 亡くなった妹が何の因果か、俺の元に再び舞い降りた。




 俺はもう二度と妹を離さない。






 ふむふむ、個体レベルも1で、スキルは憑依Xのみ......。




 称号は、ゴクリ......見なかった事にしよう。




 俺の妹って、かなり






 此処はアッバース王国か......こりゃ、弟子カルマの誕生日には間に合わないな。




 ジャスに貰った指輪も、妹と一緒には転移出来ないだろう。




 まあ、大した事ではない。




 今の俺には妹がいる。




 それで、この世界アルグリアに転生した意味は大いに在った。




 それに、VRSLG『アルグリア戦記』はやり込み型戦争ゲームだ。




 つまり、この現実と化した世界アルグリア並行世界パラレルワールドかも知れないと言う事だ。




 同じ世界に生まれるかは、まさしく神のみぞ知るだ。




 若しかしたら、弟子カルマはこの世界とは別の並行世界で生まれるかも知れない。




 弟子カルマは、俺を驚かせるほどの超越者オーバーマンだ。




 同じ世界に居るなら、そのうち必ず再会出来るだろう。




 まあ、いつも通り流れに身を任そう。




 俺は、物事を気楽に考える男だ。






 VRSLG『アルグリア戦記』の登場生物は、存在値(個体レベル)を上げての種族進化か、特殊アイテムの使用で特殊進化が可能になる。




 不死族の霊精霊人ゴーストの進化先は、幽精霊人レイス叫精霊人バンシー怪精霊人ファントムなどがあるが、聖属性攻撃に劇的に弱い種族だ。






『兄ちゃん、どうしたの?』




 無邪気に微笑ほほえむ妹。




「うん? どうもしないさ。メル、この世界で何がしたい?」




 俺は二度と妹を手放しはしない。




 早急な対応が必要だ。






 此処はアッバース王国。




 巨精霊人ジャイアントが統治する国。




 この王国は、戦いの神である《軍神》レオを信奉する軍事国家だ。




 支配下に置いた国家は解体され、アッバーズ王国に併合される組み込まれる




 併合された組み込まれた人々が、その機能を発揮し易いように既に堅牢けんろうな統治システムが確立されている。




 多民族との融合を為し、強い信念を固持する強国がアッバース王国であった。




 武人の誇りを第一義にする巨精霊人ジャイアントは、他国との争いも私利私欲では行わない。




 大義名分を重要視する信条故に、目の前に力尽きそうながあっても敢えて食べない事を選択し、時にはその弱者を助ける。




 大義無き戦はしないのが、アッバース王国の正義信条だった。




 故にアルグリア大陸北西部に於いて、アッバース王国の庇護下に属する国家は少なくない。






 そんな正義を体現する国家の領域である辺境のミモザの森か...。




 面倒臭いな、...正義など人の数だけある不確かものだ。




 己の正義を疑わない狂信者の群れが、俺が認識する《狂国》アッバースだ。






 こんな時に弟子カルマが居れば重宝ちょうほうしたんだがな。




 まあ、人生全てをゲームに捧げる変態だから、弟子に聞いて知らない事はないと言うのが俺の認識だ。




 俺は興味の無い事は、知ろうとも思わない。




 俺はヤりたい事だけして、生きていく主義だ。




 アルグリア戦記の歴史も正直覚えていない。




 何故なら俺は単独殲滅制覇プレイヤーで、己以外の勢力を殲滅してゲームクリアするプレイが殆どだったからだ。




 まず、歴史を覚える必要が無い。




 襲ってきた相手を殲滅するだけだからな。




 只一度、完全制覇したキャラアバター《カルマ》時の情報だけが頼りだ。




 あの一度だけは、隠された情報マスクデータのカルマ値を意識して、大陸制覇した。




 唯々、詰まらない作業だった。




 決まった未来大陸制覇へと道を紡ぐだけ。




 俺はそんな詰まらない作業をしても、弟子カルマを驚かせたかった。




 俺の答えを軽く超える答えを導き出す弟子カルマ




 この世界に転生していれば、面白いのにな...。




 先ずは、妹の個体レベルを上げるのが先決だな。






「メル、個体レベルを上げるぞ! 兄ちゃんが付いてるから好きにやっていいぞ!」




『うん、兄ちゃん!』




 幼女の姿の妹。




 このアルグリア世界では、妹も大人に成長出来ると良いな...。






「グッギャ! グボッ!」




『えい! やぁ! とぅ!』




 妹が、緑鬼精霊人ゴブリンを蹂躙する。




 前世の妹に戦闘技術を教えたのは俺だ。




 病気を発症するまで妹は元気にスラム貧民街で生き残っていた。




 無邪気に緑鬼精霊人ゴブリンの集落を殲滅する妹。




 流石、俺の妹だ容赦が無い。




 妹には徹底して教え込んだのは、だった。




 殺るなら殺られる覚悟を以て、殺れ!




 妹は頂きますと呟くと緑鬼精霊人ゴブリンの集落に突っ込んだ。




 え、妹が強すぎないかだって?




 まあな、個体レベル一桁で個体レベル30台を倒していく妹。




 え、殺られたら殺り返すのが俺のルールじゃないのかだって?




 その通りだ! それが俺の絶対のルールだ!




 で、何だ? え、俺のルールに抵触しないのかだって?




 する訳ないだろ! 俺は俺、妹は妹だ!




 妹は、妹の意志で生きていくんだ!






「グッギャギャギャギャ!」




 緑鬼精霊人ゴブリンの騎士階級のお出ましだ。




 さあ、妹よどうする? 一筋縄ではいかないぞ。




 妹は、恐れもせずに一直線にナイトゴブリンに向かって行った。




 へぇ、ヤるじゃないか。




『はぁぁぁ~っ!』




 妹はナイトゴブリンの剣を軽やかに交わし、交わし様に首の骨を蹴り折った。






 ふむ、まるでを見ているようだ。




 俺ならそうしたであろう動きを、妹は自然な動作で為していく。




 ふむ、やっぱり称号は伊達ではないな......。




 称号《憑依者》。




 称号効果はを得る。




 つまり、俺に取り憑いていた妹は俺と同等の力を持っていると言う事だ。




 マジか? 俺の妹って、かなりヤバい奴だ!




 俺が言うんだから間違いない!






 そう断言する男は前世の仮想現実世界では、触らぬDQNに祟り無しと言われ、その残虐性と嗜虐性と殺られたら殺り返すプレイスタイルから、凶神オーバーヒールと呼ばれ忌み嫌われた疫病者ペスターだった。

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