第5話 【改訂工事前】凶神...転移する

◆アルグリア大陸暦1538年1月1日 カツンパラデス王国~王宮




「ぎゃあああああ~!」




 ああ、これは俺流の挨拶ではない。




 マジものの絶叫だ! ぎゃあああああ~!




 俺の称号が何故か、何もない! ぎゃあああああ~!

 



 俺の才能が何故か、何もない! ぎゃあああああ~!




 俺は、魔法王ジャジャスと4人のカツンパラデス正規兵を殺った後で、己のステータス表示を確認して絶叫した。




 確かキャンサーは存在の再構築化の為、存在値(個体レベル)が最低値になると言っていたよな?




 個体レベルが最低値からになるのは、理解出来る。




 只、あのスーパーチート超不正行為な、あのウルトラチート埒外不正行為な称号と才能達が、何もない誰もいない状態になったのは、何か違うんじゃねぇか~?




 あっ! 存在値がって、って何て曖昧あいまいな!




 存在の再構築化って、初期化って事じゃねぇか~! 糞、キャンサーめ! そう言う意味ならはっきり言ってくれ!




 だがたとえ言われていても結局は同じ結果とは言え、気持ちの持ちようってものがあるだろう?




 俺は、不意打ちサプライズは好きじゃない!




 まあ、いつも通り流れに身を任そう。




 俺は、物事を気楽に考える男だ。






◆アルグリア大陸暦1538年2月2日 カツンパラデス王国~王宮




「フェート様? 本当によろしいのですか?」




「ああ、ジャス。此処はお前に任せる」




 俺は今、ジャジャス・カツンパラデスにカツンパラデス王国を全権委任したところだ。






 VRSLG『アルグリア戦記』には、委任システムがある。




 これは領土が拡大していく状況で、全ての部隊に指示を出すのが困難なプレイヤーにお薦めのシステムだ。




 メリットは委任した部隊が設定区域の統治をして、設定状況に応じて自律思考し行動を行える事だ。




 デメリットは緊迫した状況だと委任した部隊が自律思考し行動する時に、プレイヤーの意図しない致命的な失策を侵し易い事だ。




 因みに、部隊編成表示で簡単に設定可能だ。






 このカツンパラデス王国は、現在鎖国をしている。




 別名、『魔法王国』と呼ばれる魔法先進国なんだ。




 アルグリア大陸中の強国が喉から手が出る程欲して止まない魔法技術が、この国にはあるんだ。




 そんなカツンパラデス王国自体が、迷宮である事実からも何かがこの国にある事が推測出来る。




 この国は、実はある重要なイベントの鍵を握る国なんだ。




 だからその重要イベントが起こる前にこの国が亡ぼされないように、この国自体が、迷宮と為っている訳だ。




 故に超魔法技術で国自体に存在認識不可の魔法を掛けて、この世界樹ユグドラシルの森で静かに暮らしている設定なんだ。






 俺は、弟子を驚かせたい!




 つまり此処に留まって、国家育成ゲームしている暇はない!




 故に全てジャジャス・カツンパラデス、通称ジャスに丸投げした。




「では、フェート様。この指輪をお持ち下さい!」




 ジャスが、俺に指輪を捧げる。




 え、何? この既視感デジャブ? 






「これは、我がカツンパラデス王国の技術の結晶で御座います。フェート様が念じれば直ぐに、ここカツンパラデスの王宮へ転移出来るマジックアイテム魔道具です!」




 確かに、アイテム説明欄にはそう記載されている。




 まあ、呉れると言うなら貰っておく。




 当然だ、俺は遠慮はしない主義だ。






 さて、アルグリア大陸暦1538年2月13日に弟子カルマが生まれる予定だ。




 その日までに弟子が生まれるマルカ王国の辺境のラック村まで、今からでは物理的に間に合わない。




 え、間に合うように何故早めに此処を出なかったのかだって?




 それは、のが、俺の絶対のルールだからだ。




 俺は、こだわりの解る男だ。




 今回のカツンパラデス王国の措置は特例だ! 妹に感謝しろ、ジャス!




 さて、不眠不休でもラック村までは30日は軽く掛かる。




 でも、此処は魔法先進国カツンパラデスだ。




 何か不可能を可能にするマジックアイテムがあるはずだ。






「おーい! ジャス! 此処から30日位掛かる場所に10日で着けるマジックアイテムとかないか?」




 うん? 何だ、ジャス? その奥歯に物が挟まったような顔は、はっきり言えよ!




「ない事もないのですが、現在転移装置を開発中です。まだ試作段階でして、安全の保証が全く出来ないのです!」




 え、転移装置? マジか! カツンパラデスすげーな、おい! そりゃ、アルグリア大陸中の国が欲しがる魔法技術だけあるぜ。




「良いか、ジャス? 男にはやらなきゃいけない時がある。それが今だ! 俺の辞書に安全って言葉は存在しない!」






 俺は何かヤバそうな装置の台の上で待機する。




 魔法文字が幾重にも張り巡り、まるで生き物のように脈動する魔導線が幾筋も中央部分の台座に魔力を注ぎ込む。




「なあ、ジャス? 因みにこの装置って試運転では、どんな感じだったんだ?」




「はっ、実は数回しか成功はしていません! 勿論、は今回が初実験になります! あのう、本当にやるんですか?」




 え、生き物は俺が初めてだと? おいおい、それって全く駄目だろう?




 ふっ、失敗した時のデメリット弟子を驚かす事が出来ないと成功した時のメリット弟子を驚かす事が出来るか......。




 弟子の驚く顔を見る為に、転生した俺には愚問ぐもんだぜ。






「当然だ! 良いか、ジャス! 俺はやる時には、やる男だ!」




「はっ! 解りました。フェート様、ご武運を!」




 台座の周りに立体積層型魔方陣が、展開を始める。




「ジャス、因みに失敗した物ってどうなったんだ?」




 え、解らない? どう言う事? え、転移地点を始め付近にも見当たらなかった?




 それって、ヤバくない? それってヤバいよね? 俺ってヤバくない?






『兄ちゃん......』






 懐かしい妹の声が聞こえる。




 この世界アルグリアに転生して一番の収穫は、懐かしい妹の声が聞こえる事だ。




 俺の妹。




 たった1人の妹。




 俺が守れなかった妹。




 俺は妹を喪った時に、決めたんだ!




 “殺られたら殺り返す”と俺は妹の魂に誓ったんだ!






『なっ! フェート様! 退避して下さい! 魔力以外のが! これは、霊力スピリチュアルパワーか!? 全員退避しろ! 緊急事態だ! フェート様、お早く! 魔力が暴走する、フェート様!』




 騒ぐジャス達を尻目に、俺は懐かしい気配に包まれる。




 そして、轟音と共に魔力が圧縮し破裂し爆発する。




 俺は閃光に包まれたまま意識を失った。 






『に...兄ちゃん! ...兄ちゃん!』




 何故か、懐かしい妹の声が目の前で聞こえる。




 何故か、俺の頬を打つ音が聞こえる。




 何故か、純白の宝石精霊人カーバンクルが涙目で俺の頬を叩く。




 その宝石精霊人カーバンクルの顔が、俺の喪った妹の顔と重なる。






「おい、メル! 痛えよ! それと服と下着を付けろ! 真っ裸で男にまたがるなんて、お前は痴女ちじょか?」




 ゴッ! フッ! 




『兄ちゃんの馬鹿~!』




「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ~!」




 夢じゃあない!? この股間の衝撃と激痛が、俺を覚醒させる!




 俺の目の前に、亡くなった妹の顔をした宝玉精霊人カーバンクルが、涙目で俺の股間をぶっ続けで連打する!




 俺は最愛の妹に再開した喜びと衝撃で昇天する!




 妹よ! そこはお前の兄の大事な“ピー”だ! ごめん、許して、お願い、助けて!





 

 この憐れな男は前世の仮想現実世界では、触らぬDQNに祟り無しと言われ、その残虐性と嗜虐性と殺られたら殺り返すプレイスタイルから、凶神オーバーヒールと呼ばれ忌み嫌われていた偏愛者シスコンだった。

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