第4話 【改訂工事前】凶神...自爆する

◆アルグリア大陸暦1538年2月2日 カツンパラデス王国~王宮




「お許し下さい、フェート様。何卒、何卒お願いします!」




 俺はカツンパラデス王宮の玉座に胡座あぐらき、土下座して哀願する猫精霊人ケットシーの王ジャジャス・カツンパラデスを睥睨へいげいする。




 何故、お亡くなりになったはずのが、土下座しているのかだって? 






 VRSLG『アルグリア戦記』には、迷宮モンスターかそれ以外のモンスターかの二種類の区分があり、迷宮モンスターは一定時間後に再配置リスポーンされるが、それ以外のモンスターはお亡くなりなったら再配置リスポーン及び復活リスポーンはされない。




 そして、再配置リスポーンされたモンスターの記憶は初期化される。




 しかし、このアルグリア世界を創造した神には、人類とモンスターの区分はない。




 つまり、全て等しく同じだと言う事だ。




 そして、再配置リスポーンされるとは迷宮に帰属するだと言う事だ。




 但し、記憶を継承し、再配置リスポーンされるも希少だが存在する。




 この土下座している猫精霊人ケットシーが、それである特異エクストラ個体であった。




 此処カツンパラデス王国は、それ自体が迷宮なのである。




 カツンパラデス王国の王、ジャジャス・カツンパラデス以外の住民は、再配置リスポーンされると同時に、記憶・能力が初期状態に戻される。




 しかし、ジャジャス・カツンパラデスだけは違う。




 継承した記憶が、玉座で己を睥睨する俺を拒否し、拒絶し、撥無する。




 その度に、己を含む全てカツンパラデス王国全住民が俺に殺される。




 ジャジャス・カツンパラデスは、己が最凶の不運貧乏くじを引いた事に悲観し、失望し、絶望する。




 土下座する魔法王は、謝罪も、辯解ばんかいも、命乞いも俺には響かないと悟ると銷魂しょうこんする。




 まあ、あれから毎日殺ったから、合計で270回か。




 ジャジャスの心も、あと一息で壊れる。




 俺は観察者であり、観測者でもある。




 心の機微は知り尽くしている。




 ふむ、この世界アルグリアも心の有り様は、前世と余り変わらないようだ。




 くっくくくくく。




 さあ、どう壊そうかな?

 



 え、酷いって? いいか? 酷いのはコイツだ!




 優しく忠告した俺を殺したんだぜ。




 俺を殺したコイツを、俺が殺すだけだ。




 何か問題でもあるのか? え、もう気が済んだろうって?




 おいおい、勘違いするなよ?




 俺は別にコイツが、憎い訳でも何でもないぜ。




 只、




 只、コイツが殺られない亡くならないから、殺る亡くなるまで殺るだけだ。




 それが俺の生き方だ。




 異論は、他所で言ってくれ!




 もう少しで、コイツの心が殺れ亡くなりそうだ。






『兄ちゃん! もう止めて! もう許してあげて!』






 懐かしい妹の声が、聞こえる。




 妹の声が、俺のルールに触れる。




 妹の意志が、俺のルール調停ちょうていし、互譲ごじょうし、懐柔かいじゅうする。




 ふむ、...特例と言うことで、妹の意志幻聴との折り合いは付いた。




 え、そんなに簡単に自分のルールを破るのかって?




 当然だ、妹と俺のルールなら迷わず、妹に決まっているだろ!




 亡くなった妹とは、もう会話は出来ない。




 そんな妹の声が、例え幻聴でも聞こえた気がした。




 それだけで、理由にはお釣がくるぜ。




 俺は、妹に甘い男シスコンだ。






「ジャジャス! 聞こえるか? お前に機会チャンスを遣ろう。俺の配下に為るなら、今回だけは特例として許してやっても良い。さあ、どうする?」






 VRSLG『アルグリア戦記』には、情報表示に現れない隠された情報マスクデータがある。




 例えば、能力表示に知力はあるが、それは賢さと同義イコールではない。




 知力は飽く迄も個体の知力数値であり、魔法の威力などに影響を及ぼす数字に過ぎない。




 発想とか、応用とかの賢さとは別物だと言う事だ。




 そして、この賢さこそ隠された情報マスクデータである。




 この世界アルグリアを攻略するには、この隠された情報マスクデータを理解する事が重要だ。




 ああ後、運とかカルマも同様に隠された情報マスクデータである。





 因みに、俺は転生仕立てんせいしたてだが、このジャジャスを含め約8,000個体を毎日殺っている。




 それに、猫精霊人ケットシーは九個の命を持っているしぶとい種族だ。




 俺はある意味毎日、約72,000人を殺っているんだ。




 つまり、30日間の合計で約2,160,000人を殺ってるって事だ。




 そんな俺のカルマ値が善に振れてるか、悪に振れてるかは見えなくても俺にも解る計算だ。




 そして、カルマ値が悪に振れると、カルマ値が善のキャラアバターとの相性は当然悪くなる。




 勿論、振り幅の大きさが大きければ、大きい程相性は悪くなる。




 このカツンパラデス王国は鎖国していて、現状では多少は誤差はあるにせよ、殆どのキャラアバターは中立ニュートラルだろう。




 さあ、ジャジャスよ。




 俺を楽しませてくれ! くっくくくくく。




 2,160,000人を殺した俺のカルマ値をうなれ! とどろけ! 舞い上がれ!






「ほ、本当ですか? ありがとう御座います、どうぞ宜しくお願いします!」




 魔法王ジャジャス・カツンパラデスが、満面の笑みを浮かべ頭を垂れる。




 え、嘘......俺のカルマ値は、何処った? 




「早速、国中に触れを出します! 誰か、誰か居らんか!」






 VRSLG『アルグリア戦記』は、一人用やり込み型戦争ゲームである。




 戦争ゲームのマスクデータ隠された情報である個体のカルマ値の判断基準は、大義名分正当性の有無である。




 VRSLG『アルグリア戦記』のゲームクリアとは、アルグリア大陸制覇である。




 そして、そのクリアルートに依り、ゲーム結果リザルトは6種類に分けられる。




 1つ目は、所属する勢力の覇者として大陸制覇する通常制覇である。




 2つ目は、ある条件を満たして、所属する勢力の覇者として大陸制覇する完全制覇である。




 3つ目は、所属する勢力の一員として、大陸制覇する所属制覇である。




 4つ目は、ある条件を満たして、所属する勢力の一員として、大陸制覇する完全所属制覇である。




 5つ目は、単独ソロで自分以外の勢力を殲滅する殲滅制覇である。




 6つ目は、ある条件を満たして、単独ソロで自分以外の勢力を殲滅する完全殲滅制覇である。




 以上の制覇の中のある条件とは、アルグリア大陸に存在する特異エクストラ個体である10個体全てを討伐して大陸制覇する事である。




 その10個体は、不可避の神罰『十の災厄アンタッチャブル』と呼ばれる特異エクストラ個体である。





 

 カルマ値の情報は、弟子からの情報だった。




 それは、正しく明確な情報である。




 何故なら、弟子の情報に今まで誤りは一切無かった。




 では何故、ジャジャスはあっさりと俺の配下に為ったのか?




 そして、何故俺は王城のバルコニーに居るのか?




 何故、カツンパラデス王国の住民に手を振ってるのか?




 何故、熱烈な歓声を受けているのか?






「「「「「カツンパラデス国王、フェート陛下! 万歳~! 万歳~!」」」」」




 え、バグ不具合かな? せぬ? 




 ちっ! ヤっちまったか?






 彼は、知らなかった。




 この世界アルグリアでは、やられたらやり返す事は、正当性大義名分が有る行為であった。




 つまり彼のルールは、この世界アルグリアの常識だった。




 では何故、今まで気付かなかったのか?




 それは、彼が完全制覇したキャラアバターはカルマのみで、完全制覇を目指しカルマ値を中立ニュートラルに意識して調整していたからだった。




 それ以外のキャラアバターではカルマ値などそもそも、気にもしない。






 何故なら、彼は完全殲滅制覇しかしない、単独ソロ完全殲滅プレイヤーだからだった。






 この新しい国王は前世の仮想現実世界では、触らぬDQNに祟り無しと言われ、その残虐性と嗜虐性と殺られたら殺り返すプレイスタイルから、凶神オーバーヒールと呼ばれ忌み嫌われていた非道者アウトローだった。

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