第3話 【改訂工事前】凶神...初期化する


◆アルグリア大陸暦1538年1月1日 冥府アンダーワールド




『兄ちゃん! 生きて!』






 俺の妹、俺が守れなかった妹。




 妹の声が、俺の意識を繋ぎ止める......。




 此処は何処だ? 




 俺は天空神ライブラに依って、BANされたはず。




 BANとは仮想現実世界では、アカウント凍結。




 つまり仮想現実世界で活動出来なくなる、仮想現実世界での死を意味する。






『久しぶりだな、ジェミニよ。お前が冥府に落ちるとは? いや、お前はプレイヤー異世界人か?』




「そうだ。俺はプレイヤー異世界人だ。ところで、此処は何処で、あんたは誰だ?」




『なるほど、プレイヤー異世界人以前アルグリアの記憶がないのは事実のようだ。此所は冥府アンダーワールド、我は冥府と輪廻転生を司る闇神キャンサーだ』




 この漆黒の闇の世界が冥府アンダーワールドか、確かそう言うアルグリア戦記の設定だったな。




 じゃあ俺は、死んだのか? 




 いや、ゲーム世界なら結果リザルト画面に移行し、英雄ポイントが加算される。




 そして、子供が居れば魂と才能を1つ現在の習熟度レベルで継承が出来る。




 継続プレイをしない場合は、新しいキャラアバター選択画面か、ゲーム終了のどちらかを選択する。




 ゲーム世界では闇神キャンサーはあくまでも設定の1つだった。




 闇系統の魔法・魔術の属性神で、モンスターアバターでプレイした場合は不死アンデッド系統のモンスターの守護神オーバーガーディアンと言うのが俺の認識だ。




 現にゲーム世界で、俺は一回も遭遇した事はなかった。




 つまり、この世界は現実化していて、このアルグリア世界に転生した俺だから出会えたって事か。




 ふむ、興味深い。






「俺は何処の誰で、死んでいるのか? それと神を殺す事は可能なのか? 教えてくれないか、キャンサー?」




プレイヤー異世界人よ。お前のこの世界での存在はアルグリア13柱神の1柱、運命と宿命を司る才能神ジェミニの片割れだ。今は何故か、神ではなくなっているがな。そして、我の死の概念なら、お前はまだ死んではいない。実体は消滅しているが、魂は消滅せずに我が冥府に送られたにも関わらず、輪廻転生の輪に繋がる事を拒絶する稀有な存在、それがお前だ。あと神を殺せるかだが、殺すの概念次第だな。おっとこれ以上は禁戒きんかいに抵触する故に答える事は出来ない』




 くっくくくくく。




 いや、お前は俺の聞きたかった事を教えてくれたよ。




 アルグリア13柱神か、創造神カリダドが創りし12柱の神々。




 その1柱、ジェミニの片割れか。




 つまり、ジェミニは二人で1柱と言う事か。




 それと殺すの概念次第、そして禁戒きんかいか。




 良い奴だなキャンサー、充分だ。






「キャンサー、俺に今一度肉体を与え、アルグリアの地へ送る事は可能か?」




『それは可能だが、人種種族はそのままでの存在の再構築初期化の為、個体の存在値(個体レベル)は最低値からになるぞ?』




 おう、鬼畜仕様の創造神の試練に比べたら余裕だ。




「それで頼む。あと再構築場所の指定は可能なのか?」




『何処が良い? 時間軸は肉体消滅時が良いのか、それともずらすか?』




 くっくくくくく、ジャジャス・カツンパラデス! 




 お前達の運命はもう決まってる全殺しカツンパラデス王国全住民の殲滅だ! 




 俺は、殺られたら殺り返す!




 拘りの在る男だ。






「カツンパラデス王国で、俺が消滅した同じ場所と同じ時間軸で頼むよ!」




『承った。ジェミニよ、良い旅を!』






◆アルグリア大陸暦1538年1月1日 カツンパラデス王国~地下王墓




 俺はキャンサーの言葉と同時に、消滅した瞬間の時間軸に再構築される。




 そして、時間を逆回しで肉体が再構築していく。




 驚愕の表情のカツンパラデス王国の諸君。




 準備は良いか? 




 さあ! 




 殺り合おう!




「ジャジャス・カツンパラデス! 貧乏くじを引いたな!」






 このアルグリア戦記の世界は、レベル制なのか? 




 スキル制なのか? 




 と頓珍漢とんちんかんな事を言う情弱じょうじゃく馬鹿がいるが、この世界は模擬現実シミュレーション制だ! 




 レベルとスキルは只の数値と文言と思え!




 恩恵アシストはあるが、




 これを覚り、理解し、応用する者がこの世界の真理に至り、超越者オーバーマンと為る!






「フェート様、我らは貴方様と敵対するつもりはありません。いにしえの盟約に従ったまでの事、どうぞお許し下さい!」




 俺は平伏すジャジャス・カツンパラデスの首を、踏み折った!




 それを見て驚く、間抜けカツンパラデスの正規兵に告げる!




「言ったよな? 俺と敵対したら、ごめんなさい。許して下さい。助けて下さいは通用しないって!」




 俺に襲い掛かるカツンパラデスの正規兵間抜け達。




 此のアルグリア世界の住人達は自身では意識せずに、才能の恩恵スキルアシストけている。




 そして、それを知っているのはプレイヤーである俺だけだ。




 武器種ごとの動作モーションを知り尽くしている俺に、魔法特化種族の猫精霊人ケットシーが近接戦で勝てる訳ないだろう!




 迫る剣の剣圧が俺の右頬を撫でる。




 俺は素手の右手刀で正規兵の喉を付き、正規兵の睾丸を左膝で潰し、両手親指で目を突き、そのまま首を捻り折る。




 絶命した正規兵から奪った剣で、次の正規兵の剣を往なし、脇の下から剣を刺し込む。




 崩れ落ちる正規兵の剣を左手で奪い、右手の剣で別の正規兵の喉首を掻き切る。




 一連の動作に付いて来れる正規兵は皆無。




 体を円のように捻り回し、左手の剣で別の正規兵の右目に剣を突き立てる。




 さて、個体レベルの上昇を告げるシステムメッセージが、俺の頭の中で鳴り響く。




 だが、コイツら猫精霊人ケットシーの美味しいのは此処からだ。






「フェートさ、グッ」




 ジャジャス・カツンパラデスが息を吹き返すも、俺は躊躇ちゅうちょなく再度首を鞘付きの剣で叩き折る。




 他の正規兵達も同様に、息を吹き返すと再度息の根を止めていく。




 繰り返す事一人八回で、全員お亡くなりになった。




 彼ら猫精霊人ケットシーの厄介なのは、最大で九個の命を持っている事だ。




 一定時間で最大八回復活する種族特性を持つのが鬱陶しい。




 まあ、息の根を止める度に経験値が入るので美味しいちゃあ、美味しいがな。




 え、彼らが可哀想かわいそうだって? 




 おいおい、可哀想かわいそうなのは俺だろ? 




 行き成り殺されたんだぞ。




 天空神との盟約だって? 




 俺には関係ないな!




 敵対の意思の有無は問題じゃあない。




 敵対したかどうかだ!




 それに優しい俺は、奴らに事前忠告もした。




 その上で彼らは俺を殺した、だから俺は殺り返す。




 只、それだけだ。




 俺は聖職者でも、天使でも、してや善人でもないんだぜ。




 文句は受け付けない。




 それが俺の生き方だ!






「殺られたら殺り返~す♪ 俺を止められる奴は~♪ もういない~♪」




 俺は歌を唄いながら、地下王墓から地上へ階段を昇って行く。




 そして、カツンパラデス王国の地図を頭の中に浮かべ約8000人の猫精霊人ケットシー黄色パッシブマーク全てにターゲットマーク設定を付ける。




 これで俺からは逃げられない。




 さあ! 




 血祭りの時間ショータイムだ!






「グッ、ガッハッ!」




「何奴? グッ、き、貴様!」




「ギャアアアアア!」




「け、結界が破られたのか? 宝玉精霊人カーバンクルが何故!」




「魔法王様はどうされた? 我らでは倒せんぞ!」






 阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄絵図が、カツンパラデス王国に顕現けんげんする。




 この地獄絵図の絵師を知っている者からしたら、至極当然しごくとうぜんの行動だと言うだろう。




 この絵師は決して自分から絵を描かない。




 全て相手モデル次第だ。




 この絵師を知る者は、皆一様みないちように言う。




 “触らぬ神に祟り無し”と。






 この絵師は前世の仮想現実世界では、触らぬDQNに祟り無しと言われ、その残虐性と嗜虐性と殺られたら殺り返すプレイスタイルから、凶神オーバーヒールと呼ばれ忌み嫌われていた鬼畜野郎マッドマンだった。

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