第2話 【改訂工事前】凶神...BANされる

◆アルグリア大陸暦1538年1月1日 カツンパラデス王国~地下王墓




「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ~!」




 俺は、絶叫を揚げながら爆走する。




 ああ、失敬。




 この絶叫は、俺流の挨拶だ。




 既に習慣となっている。




 前世の仮想現実世界で、仲間から言われたんだ。




 お前はお前だと周りに、アピールしてくれと。




 何故ならお前と知らずに、絡みたくないって言われた。




 通訳すると“お前は、誰が見てもお前だと解るようにしておけ!”だ。




 ふむ、まあ仕方ないわな。




 俺だって、俺みたいな奴と絡むの嫌だもの。




 チーン。






 脳内に浮かぶ周辺地図に沿って進む。




 それにしても、こんな場所があるとは、アルグリア大陸ってエロいな。




 さて、カツンパラデス王国か~。




 正直、面倒臭い国だ。




 世界樹の森の中にある猫精霊人ケットシーの国なんだけど、は~。




 この国は、鎖国してるんだよね。




 御負けに猫精霊人ケットシーは魔法特化人種で、強力な魔法の結界で王国の存在事態を歪ませて、他の生物に認識させないようにしている。




 つまり、国に余所者は絶対入れない状態で侵入者が見付かる。




 お前何処から入った? え、地下王墓の下にずっと居ましたけど? 




 テヘペロで、許してくれないって事だ。






「「「「「コツコツコツコツ! コツコツコツ~!」」」」」




 俺は己の思考世界に浸りながら、現実世界でモンスターを倒していく。




 個体レベルは、転職しても変わらない。




 だが、職業レベルは1からの再スタートだからな。




 コツコツ上げていくのがほねだが、コツだ。




 シーン。






 結構、《カツンパラデス地下王墓》のモンスターの個体レベルが高い。




 まあ、モンスターって言ってるけどコイツらは骨精霊人スケルトンって言う人種で、種族は不死アンデッド族だ。




 ちなみに俺の種族は珍獣レアビースト族の人種は、宝玉精霊人カーバンクルだ。




 魔物モンスターって一括りに人類は言うけど、この世界を創造した神に人類と魔物との区別はない。




 区別するとすれば、アルグリア大陸語を話せるかどうかだ。




 才能に《念話》って言うスキルがあれば、他種族で在っても意思疏通が可能だ。




 因みにコイツらは、こう言ってる。




『俺達が何をした? 暴力反対~!』




『きゃあああああ! あなた~誰か助けて~!』




『ケットシーめ! 奴ら俺達との不戦協定を破る気か!』




『グッ、ガッハァ! 俺、明日結婚を申し込もうと......』




『グッ、ガッハァ! 私、明日結婚を申し込まれ......』




 ふむ、骨精霊人スケルトンよ! 俺の経験値に為ってくれ! 




 チーン。




 俺は脳内に浮かぶ地図で、赤色アクティブ黄色パッシブを確認しながら、カツンパラデス地下王墓のモンスターを一掃した。






 俺は、まだ地下王墓に居る。




 確かめなければいけない事があるからだ。




 ほう、30分か。




 ここ地下王墓の下位系モンスターは30分で、再配置リポップするようだ。




 ほう、中位系モンスターは1時間か。




 ほう、上位系モンスターは6時間か。




 ほう、特殊系モンスターは24時間か。






 VRSLG『アルグリア戦記』のモンスターは、大きく2種類に分別される。




 迷宮のモンスターか、それ以外のモンスターかである。




 『アルグリア戦記』でプレイした者なら、この迷宮のモンスター達に再配置リポップ以前の記憶はある時点までの記憶しかない事が解る。




 再配置リポップ時の個体レベルも記憶も、状態に戻る為だ。




 但し、迷宮のモンスターでも一部の特異エクストラ個体は例外で、記憶継承される個体もある。




 迷宮のモンスター以外のモンスターは、再配置リポップされない。






 やっぱり、ここ地下王墓は迷宮だと言う事だ。




 ふむ、FP値(満腹度)が危険数値を示していなければ、ここで周回するんだが。




 仕方ない上を目指そう。




 俺は収納ボックスの中身を確認して、食べ物を持っていない現状での周回プレイは諦めた。




 ああ、地下王墓のは、勿論全て頂いた。




 当然だ、俺は遠慮はしない主義だ。






 問題は地下王墓から上がる階段付近に居る、カツンパラデス王国の正規兵だ。




 コイツらの目を掻い潜り、地上に出るのは厳しいだろう。




 さて、どうするかだ。




 俺は他人のルールは破るが、己のルールを破らない。




 俺は、こだわりの解る男だ。






 俺のルールは、だ。






 俺を殺るって事は、俺に殺られても良いって事だ。




 殺られる覚悟もない奴が、俺を殺ろうってか? 




 巫山戯ふざけるな! ブチ殺すぞ! 




 ああ? 無茶苦茶だって? 知るか! 異論はあの世で言ってくれ! 




 問題はじゃない。




 殺るかって事だ。




 脳内に浮かぶ地図のコイツらの情報詳細では、と表記されている。




 つまり、全てカツンパラデス王国全住民か、コイツらカツンパラデス正規兵だけかだ。




 まあ、いつも通り流れに身を任そう。




 俺は、物事を気楽に考える男だ。






「おい、止まれ! 貴様、どうやって此処に入った?」




 おう、思った通りの展開だ。




 ずっと此処に居ましたけど何か? って言ったら、怪しさ満載だぜ。




 俺も自分の家の中に、急に他人が現れてそんな戯言を言われたら、ブチ殺す以外の選択肢はない。




 まあ、言う事は既に決まっている。




 俺が、こう言う場面で言う言葉は此だけだ。




「俺と敵対したら、ごめんなさい。許して下さい。助けて下さいは通用しない。それでも良いなら掛かって来い!」




「何を言ってるんだ? 宝玉精霊人カーバンクルか? 怪しい奴だ! そこを動くな!」




 だよね。




 うん、俺もそう言うと思ったよ。




 でもね、俺がお前の言う事聞く義理はねえ! 




 さあ、毒饅頭喰え攻撃しろ! 




 それが殺し合いの始まりだ! 




 俺は、無防備に近付く。




 カツンパラデスの正規兵達は、無防備に近付く俺を気違いのような目で見る。




 そして、攻撃せずに後退する。




 え、いやいや。




 攻撃しろよ、この野郎。






「待て! その宝玉精霊人カーバンクルを攻撃するな! お前達は下がれ!」




 うん? ほ、ほう。




 猫精霊人ケットシーの王、ジャジャス・カツンパラデスか。




 はてさて、どうして奴がここに居るのか? 




 何故、俺を攻撃しないのか? 




 ふ~む、興味深いな。






「初めてご尊顔を拝します、フェート様。如何様いかようにして、封印を解かれたのかは存じませんが、我らに貴方様と敵対する意思はございません」




 ほう、俺を知っているのか面白い。




 プレイヤーは、プレイアバターの記憶を引き継げない。




 ゲーム開始時には、情報表示の人物詳細から関係図とプレイアバターの詳細説明を見てプレイする。




 情報の価値を知る俺は、ジャジャスの知る情報の引き揚げサルベージに掛かる。




 うん? 




 何だこれ? 




 恭しくジャジャスが、指輪を俺に捧げてくる。




 え、俺が封印を解いて地上に出る事があれば、これを渡すよう言われてる? 




 誰に? 




 ライブラって、天空神じゃねえか! 




 何々、アイテム名は“記憶の欠片”で、この指輪をすると記憶の一部を思い出すと説明文にある。




 ふ~ん、うん? チクリと嫌な予感がした俺は、その指輪を捨てようとしたが既に遅かった。




「フェート様、天空神ライブラ様からの伝言です。“プレイヤー異世界人よ、BANアカウント凍結だ!”です」




 ああん、何だと! 




 BANって、アカウント凍結って事か!? 




 つまり、俺って、お亡くなりになるの? 




 え、マジか? 




 俺は指輪の放つ魔力と、周囲に展開される立体式魔法陣に拘束される。




 くっ、糞たれが! 




 俺は、諦めない! 




 決して諦めない! 




 俺は、! 




 ライブラよ! 待っていろ! 




 お前は、! 




 俺の薄れいく意識のなか、が聞こえた。




 懐かしい声だった。




 その声は、必死に俺に告げる。






『兄ちゃん! 生きて!』






 俺は、その声に答える。




 おいおい、誰に言ってるんだ? 




 俺が死ぬ訳ないだろう? 




 兄ちゃんが、お前に嘘をいた事は、しかないだろう? 





 うっおおおおお~!






「殺られたら殺り返~す♪ 俺を止められる奴は~♪ もういない~♪」





 

 ジャジャス・カツンパラデスはいにしえの盟約に従い、囚神しゅうじんフェートに天空神からの指示通り、指輪を渡し伝言を伝えた。




 ジャジャスは伝言の内容は解らないが、意味は解った。




 いや、覚った。




 囚神が最後に何か呟きジャジャスを見る目に、ジャジャスは自分が貧乏くじ最凶の不運を引いた事を覚った。




 そして、眩い閃光と共に囚神はカツンパラデスから消えた。






 その消えた囚神は、前世の仮想現実世界では、触らぬDQNに祟り無しと言われ、その残虐性と嗜虐性と殺られたら殺り返すプレイスタイルから、凶神オーバーヒールと呼ばれ忌み嫌われた粘着野郎ストーカーだった。

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