第7話 只野政広の受難
その日の帰り道である。
「……おい、只野。何の用かは分かってんだろうな?」
突然声を掛けられて後ろを振り返ると、数人……いや、十数人の男子が徒党を組んで立っていた。全員俺と同じ制服を着ているので、うちの学校の生徒だろう。なんか目つきが悪く、ガタイのいい奴が多いので、普通に怖い。そのうちの一人に、見知った顔があった。
「……
影山は、俺のクラスメートである。とはいえ、一回も話したことはない。接点がないのだ。長い前髪と細身の体が特徴で、なんかちょっとオタクっぽい奴、という印象を、俺は彼に抱いていた。
そいつらに話しかけられる理由が思い当たらなかったので、俺はちょっとビビりながらも聞いてみた。
「……えっと……すいません、分かんないです。俺に一体何の用ですか?」
その言葉が気に入らなかったのか、連中は急に吠え出した。なんか叫ぶというより吠えると表現した方がいいような、そんな声を出し始めたのだ。まあ、怒号というやつだろうか。
そうしたら、なんかリーダー格っぽい奴が喋り出した。
「ああ!? テメェ、っざけんじゃねーぞ! そんなモブくさい奴のくせに、あの高嶺さんと付き合ってるそうじゃねーか!」
……はあ、だからそれは大きな誤解だっつーのに。
「いや、そんなことは」
「なんでだよぉ! チクショー! なんでてめーみてーなクソダセェ奴が、あんな人に気に入られんだよぉ! 世の中不公平だろうがぁぁ!!」
なんで俺の周りには話を聞かない奴ばっか集まってくるんだ。というかなんでこの人ら、俺にそういう噂があるって知ってんの? あと、アンタら一体何者? どういう集団?
とか思っていたら、俺の心の声を読んだかのようなタイミングで彼らが口を開いた。
「俺たちはなぁ、高嶺さんファンクラブだ! こいつに、お前のこと聞いたんだよ!」
そう言った奴は、影山を指差した。あ、なるほど。そいつに聞いたんだな。確かに俺が高嶺さんに話しかけられた時、影山も教室にいた気がする。
「高嶺さんは俺たちみんなのものなんだよ! そう、あの人は……学園の天使なんだ!」
「そんな人を誰かに独占させてたまるかってんだ!」
「……いいか、よく聞け。今すぐ高嶺さんと別れろ! そうしないと……どうなるか分かってんだろなぁ?」
……ファンクラブって……。そんなものが存在したのか。すげぇな、高嶺さんって人は……。うん、いろいろ言いたいことはあるが、とりあえずこれだけは言わせてくれ。
あの人は天使なんかじゃない。マジもんの悪魔だぞ。
まあ、実際にはその言葉が俺の口から出ることはなかったのだが。そんなこと言ったらどんな目に遭うか分からないからな。もしかしたらどっかその辺に彼女が潜んでるかもしれないし。というか天使なんて言葉使うあたり、大分痛いなこの人たち。あと、天使は別の人だから。
そうして俺が反論というか、言い訳というか、まあとにかくなんか言おうとして言葉を探していると、
「……只野。僕はお前を許さないからな」
という、怒りに震えた声が聞こえた。声の主は影山だった。彼は長い前髪を払い、俺を睨みつけてきた。鋭い眼光が俺に突き刺さる。……怖えよ。でも、お前って、意外と可愛い顔してんだな……。今初めて知ったわ。影山は、なんというかこう、睫毛が長くて目がぱっちりしてて、左目尻に泣き
俺が何も言えないでいるうちに、連中は、
「俺らはいつも、お前のこと見てるからな。いいか、高嶺さんにそれ以上近づくなよ。お前みたいな奴とあの人は釣り合わねえ。妙な夢見るのはやめることだな」
とかなんとか言いつつ、早くも解散し始めた。
……何しに来たんだこの人たち。俺のこと袋叩きにするでもなく。多分ガチのヤンキーじゃないんだろうな。
「だから、俺からは近づくつもりなんてこれっぽっちもないんだっつーのに……」
一人取り残された俺は、ため息交じりにそうこぼした。……全く、よく分かんない連中に目ぇつけられちまったな……。
俺はひどい精神的疲労を感じながら、家路についた。
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