第14話 決断
「なあ、友香」
俺は帰りがけに、友香に話しかけた。
「なあに、マサくん?」
「あのさ……高嶺さんって、前テニス部だったよな?」
「……マサくん? 何言ってるの? あの子は帰宅部だったでしょ?」
「……!!」
……これは……。
友香はどう見ても嘘をついているようには見えない。それに、そんな嘘をつくメリットがあるとも思えない。ということはつまり、高嶺さんの言っていることは正しかったということになる。
マジか……。
俺は冷や汗が背中を伝うのを感じた。
不審がる友香に対し、俺はとりあえず適当にごまかして、さっさと家路についた。
……困ったことになった。
ともかく、これでなぜ俺が魔王から選ばれたのかははっきりしたことになる。伊藤さんには聞いていないが、そっちも同じような理由だろう。
なんで俺がそんな体質の持ち主なのかは分からんが、今そんなことはどうでもいい。まずは伊藤さんに連絡を取ろう。
気が進まなかったが、まあこの際仕方がない。俺はおもむろにスマホを手に取り、RINEを立ち上げた。
……言ってなかったが、俺は高嶺さんとも伊藤さんともRINEを交換している。彼女たちは人間じゃないんだから、なんか特殊な通信手段とか持ってんじゃないかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。俺との連絡手段としては使わないだけかもしれないけど。
『こんばんは。今時間ありますか?』
俺は伊藤さんの個人チャットにメッセージを送った。すると即既読がついた。……え? 今見てたの? というかもしかして常に見てんの? 怖っ!!
次の瞬間、聞きなれない着信音が鳴り響いた。RINE電話だった。普段俺に電話してくる奴なんていないから、俺は戸惑いながらも電話に出た。
「……もしもし?」
『もしもし、只野くん? 私よ。伊藤沙綺。
「いや、えっと、……一つ確認なんですけど、俺が選ばれた理由って、もしかして催眠術とか洗脳が効かないから、とかですか?」
『……』
沈黙が訪れた。俺は固唾を飲んで伊藤さんの言葉を待った。
『……その通りよ。あなた、もしかしてあの女に何か吹き込まれた?』
「いや、どうして俺が選ばれたのかって聞いたんですよ」
『そう……。思ったより素直にゲロったのね」
いや、「ゲロった」って。せめて吐いたとか言えよ。
『私としても、いつか話すつもりではあったのよ。伝えるのが遅れてごめんなさいね。確かに、何も教えられないまま協力しろって言われても無理な話だったかもしれないわね』
急にどうしたんだ? そんな謝るなんて。キャラ変でもしたのか? なんかネタが思いつかなくて、長い間筆が進まなかったらしいからな。あ、それは流石にメタいか。
『それでね、只野くん。あなたに報告があるの』
「報告?」
俺は眉をひそめて、スマホを耳に近づけた。
『そう、とっても大事な報告』
……今度は一体何を言い出すつもりなんだ?
『あのね……只野くん』
そう言うと、伊藤さんは一つため息をついた。……もったいぶってないで早く教えてくれよ。
『実は……あなた、死ななくても済むかもしれないのよ』
俺はしばし呆然とした。
え、マジ? 俺、助かるってこと? というかそもそも俺、そんな生きるか死ぬかの瀬戸際みたいな状況に置かれてたんだっけ……? あ、そういや、天使側につけば天に召されて高位に登れるみたいな話があったな。忘れかけてた……。自分の命がかかってるってのに、俺ときたらなんとまあお気楽なもんだ。
「え、なんでですか?」
『私から大天使に掛け合ったのよ。いくら人類救済のためとはいえ、いきなり命を捨てろというのは流石に無理難題が過ぎると思ってね。そうしたら、大天使は要求をお飲みになったわ。やっぱり慈悲深いお方ね』
「……は、はあ……」
なんか分かったような分かんないような。というかそもそも、慈悲深いんだったら、最初から命賭けろとか言わないはずなんだよな……。
『その代わり、一つ条件をお出しになったわ』
「じ、条件……!?」
なんだろう、とてつもなく嫌な予感がする。ああ、どうなっちまうんだ俺。
『あなたに今後一切の悪事を禁じる、とのことだったわ』
……あまりに抽象的な要求に、俺は困惑せざるを得なかった。
「悪事……? それって具体的にはどんなことですか?」
とりあえず聞いてみた。
『そうね……基本的には、人間界の法で禁じられていることはしてはいけないということよ。例えば犯罪の類ね。あとは、道徳的に許されないこと……不倫とかも駄目よ』
なんだ、それだけか。それなら普通に守れそうな気がするな。
『でも気をつけてね、只野くん。人間なんて弱い生き物だから、いつどんなことがきっかけで悪事に手を染めるか分からないわ。長年人間の営みを見てきた私だから分かるんだけどね。もしそうなったら、あなたは間違いなく地獄行きよ』
伊藤さんは低い声で警告してきた。……な、なんか怖いんだけど! 天使とか悪魔とかが実在すると分かった以上、地獄とかも普通にあるんだろうな……。というか、長年って実際にはどれぐらいの年月なんだろう? まさか数百年とか……?
「……わ、分かりました」
俺は震える声で返事した。
『そう、分かってくれたのね。じゃあ、協力……してくれる?』
「……」
俺は黙ってしまった。ここで「はい」と言えば、もう後戻りはできないだろう。生命の安全が確保されたからとはいえ、人類の命運を背負って立つ覚悟が、ヘタレな俺にはまだきちんとできていなかった。
『どうなの? 只野くん。……あなた、人類を救った英雄になれるのよ。妹さんからも見直してもらえるかもね』
「な、なんで今妹の話が出てくるんですか! というか俺とあいつの関係知ってるんですか!?」
『あら、当たり前じゃない。私たちはあなたの家族構成や生い立ちも全て把握しているのよ。私たちを誰だと思ってるの』
……。
俺は深呼吸をしてから、口を開いた。
「……分かりました。でも、まず、そもそもなんで人類が滅亡の危機に瀕することになったのか、その経緯を聞かせてもらえませんか?」
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