2 新学期
桜がそろそろ満開を迎えようとする頃、新学期を迎えた。
新しい
「わあっ、まゆちゃんと同じ学級だわ」
掲示板を指さし、はしゃぐ梨恵子に繭子はこっそりと苦笑する。
「あとね。
「ふようさま?」
「ほら、お母さまが元華族で、おうちは由緒あるお寺の」
「ああ」
美しく、どこか中性的な雰囲気を持つ三和は、入学した頃から同級生だけではなく、上級生からも憧れの眼差しを向けられていた。
同じ学級になったことがなかった上、特に接点もなかったけれど、学校集会や学校行事の他に、何等かで表彰されたりしていたから彼女のことは知っていた。
だが最終学年になって、どうして良家組に自分が加わることになったのだろう。
廊下の掲示板に張り出された学級分けを見上げ、繭子は首を傾げる。
この学校はお嬢様学校ではあるけれど、繭子のような一般家庭の少女も数は少ないが通っている。
梨恵子や芙蓉様のようなお嬢様とは学級が一緒になることがなかったのは、良家の子女と一般家庭の子女が分けられていたからだ。
「三年生は修学旅行もあるから、絶対にまゆちゃんと一緒になりたかったの」
無邪気にほほ笑む梨恵子を見て、「まさか」という考えがよぎる。
いや、可能性は十分にある。梨恵子の家はずいぶん学校に寄付もしていると聞いたことがある。
……うん。気が付かなかったことにしよう。
「修学旅行、楽しみね!」
「……うん、楽しみね」
気心が知れた梨恵子と一緒なのは、確かに嬉しいことでもある。細かいことは考えるのをやめて、繭子は頷いた。
とはいえ、他のお嬢様たちが皆梨恵子のように、分け隔てなく接するような相手とは限らない。
最後の一年を共にする級友の名前を見れば見るほど、みぞおち辺りが重たくなるのを感じずにはいられない。
高校生活最後の一年、平穏無事に過ごせますように……。
制服のポケットに忍ばせた桜色の御守りに、祈らずにはいられなかった。
* * *
三年桜組の教室に入ると、これまでとなんだか雰囲気が違う。お嬢様学級だとわかっているせいかもしれないが、どこか上品さと余裕のようなものを感じる。同じ制服を着ていて、同じ年の少女たちだというのに何が違うというのだろう。
「まゆちゃん、どうしたの?」
やはり、これまで同じ学級だった友人の姿はない。貼り出された学級分けを見てわかってはいたが、改めて場違いだと感じる。
まあ、気にしても仕方ないか。わたしだって、一応この学校の生徒には違いないのだから。
「ううん、何でもない」
繭子はにこりと笑ってみせる。
笑顔で乗り切るしかない、と腹を括る。
「それより、あれ席順かしら」
黒板には白いチョークで書かれた四角形がずらりと並んでいた。縦に五つ、横に六列。計三十個の四角形。恐らく机なのだろう。その机らしき四角形の中には数字と生徒の名前が書かれている。
「ええと、梨恵子は十五番、まゆちゃんは二番だね。あーん。まゆちゃんと離れちゃう」
梨恵子がぼやいていると、突然背後から涼やかな声が掛かった。
「あなた、糸川さんね」
「あ、はい」
反射的に振り返った繭子は、一瞬惚けてしまった。
うわ、綺麗……。
噂の張本人、遠山三和が淡い笑みを浮かべていた。
濡れたように艶やかな髪は腰まで長く、きりりとひとつに結んでいた。背は繭子より高く、すっきりとした立ち姿は見惚れてしまうほど美しかった。
「ご機嫌よう。あなた、銀杏神社のお嫁さんでしょう?」
「え」
思いもかけない言葉に、繭子は絶句する。
隣にいた梨恵子は、すかさず黄色い声を上げた。
「ええっ、まゆちゃん神社のお兄さんと婚約したの?!」
「え! 違っ……」
「やっぱり」
学校の椅子に優雅に腰を掛けると、遠山美和は意味ありげに微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます