第33話 マリー・ウィンゲートのデビュタント
「さぁ、マリー様。出来ましたわ」
王宮侍女エイダ・アルグリットが満足そうに言う。横にいるケイシーも満足そうだ。
そして鏡の中には、デビュタントの為に着飾ったわたくし事、マリー・ウィンゲートがいた。
デビュタント用の、ドレスの色は白と決まっている。形は色々だけど、美しく清楚なご令嬢に見えるように、工夫を凝らしていた。
『良いですか、マリーお嬢様。優雅な笑顔、仕草、会話の選び方、全てが社交界では武器になります。そして、美しい装いは盾でございます。わたくしの持てる全てをマリーお嬢様にお教え致しました。さぁ、
とは、リンド夫人の言葉。
まさか、デビュタント後の夜会から不穏なことになるなんて思わなかったわ。
玄関のところまで出ると、兄達が待っていた。エイベルお兄様とクレイグお兄様。
デビュタントの謁見の間に控えるために、父は先に王宮に行っている。
誰の思惑なのか、どういう経緯でこうなってしまったのか、私には分からないのだけれども異例すぎる。エスコート役が二人だなんて。
正式書面にしていて良かった……、あの書類はもう王宮侍女エイダ・アルグリットの手によって、王室に渡っているはず。
「今日は、よろしくお願いしますわ。お兄様方」
私は持っていた扇子を広げ口元を隠し、にこやかに笑った。
それにしても、クレイグお兄様は母親のジャネット様にそっくりだわ。
エイベルお兄様よりも線が細く、色白だ。
ジャネット様は、クレイグお兄様の下にもう一人男の子を産んだけど、その子どもは成人と共に男爵位をもらい、遠方の領地を治めている。
その子に比べ、クレイグお兄様は今まで社交界にも出してもらえず、爵位も領地も継承していない。気の毒と言えば、気の毒な立場だとは思う。
会場に着くと私は、二人のエスコートで馬車を降りた。
貴族の中には、ご家族でこの夜会に参加されているご令嬢もいらっしゃるので、兄が二人付いて来ていても、黙っていれば目立たない。
会場の端の方にエド様がいるのが見えた。まだ、国王陛下に謁見をしていないので、そばには行けないけど……。
いけない、エド様を見たら、つい気が緩んでしまったわ。
謁見の間の控え室まで、エスコートしてもらって取りあえず、兄達の役目は終り。
後は夜会でエド様も加えての挨拶回りがあるけれど、それはお互いデビュタントしたての
「まぁ、な。何かやらかしてもこれ以上お前の評判は落ちんだろう。がんばれ」
そう言って、エイベルお兄様は私の背中をポンッと押して送り出してくれた。
兄なりの励ましだろうか……。おかげで、緊張も収まったけれども。
所詮、大量にいる令嬢達の内の一人だ。謁見はあっという間に終った。
出口でエド様が、待っていてくれた。
エド様のやさしい雰囲気に包まれる。すごくホッとして、涙が出そうになった。
「マリー?」
エド様が、私の顔を見て怪訝そうな顔をした。
何かあったのか? と、言いたげだ。社交場なので何も言わず、私を引き寄せて歩き出したのだけど……。
会場に着いたら、兄達が待っていた。お互い挨拶をしている。
エスコート役が二人もいるのにエド様は何食わぬ顔で挨拶をしているが、内心この所為かとでも思っているのかも知れない。半分、当たっているけれども。
結局、4人で挨拶回りをしていたのだけれども、みんなクレイグお兄様の方には話しかけない。
どういう立ち位置か分からない内は、親しくなりたく無いのだろう。
父の差し金では、無かったのだろうか。明らかに、父の派閥の方々までクレイグお兄様の存在に、戸惑っていらっしゃる。
親しくしておかないといけない方々に、挨拶をし終えてホッと一息ついた。
エド様までが、クレイグお兄様から私を離すようにずっと自分の方に引き寄せていた。
いや、エド様はエイベルお兄様からも、私を引き離している。
その様子は、まるで私を敵から守ろうとしているようだった。
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