第34話 デビュタント後の夜会

 エド様は、兄達から引き離しながらも、私に話しかけてくれているので、端から見ると、二人の時間を欲しがっている恋人同士に見える? 

 いや、不埒な男性から、子どもを保護する父親……に見えるかも知れない。


 そんな変な空気の中、王太子殿下とそのご婚約者ジョゼフィン・レンフィールド様……次期宰相様候補ダライアス・レンフィールド様がいらっしゃった。

 そうか、王太子殿下のご婚約者ジョゼフィン・レンフィールド様は私と同じの16歳、今回デビュタントなのだわ。

 兄達もエド様も私が呆然と考えている間に、サッと礼を執っていた。

 私も慌てて、礼を執る。

 エイベルお兄様とエド様が、王太子殿下とご婚約者様にご挨拶とお祝いの口上を述べている。

 クレイグお兄様も、口を開こうとすると王太子殿下が厳しい目を向けた。

「そなたに発言の許可は与えてない。控えろ」

 クレイグお兄様は、王太子殿下のその厳しいご様子にビクッとなった。

 お叱りを受けて、礼を執ってお辞儀したままでいる。


 クレイグお兄様をいないものとして、王太子殿下は私の方を向いた。

「マリー・ウィンゲート嬢。デビュタントおめでとう」

「ありがとう存じます」

 王太子殿下は、厳しいお方なのだと、身を引き締める。


 だけど、もし私が賢者様に選ばれていたら、この方の横に私がいたのかも知れないと思うと、ちょっと複雑な気分だわ。こんな厳しいお方の伴侶なんて私には務まらない。


「ああ。私の婚約者ジョゼフィン・レンフィールドも今日がデビュタントなんだ」

 王太子殿下が話をふってきた。だけど、同じ立場の私がおめでとうと言うのも何か違う感じがする。どうしようと思っていると、王太子殿下がさらに続けて言う。

「立場の所為か、それとも本人の所為なのか、あまり友達がいないようでね。あなたなら、身分もそう変わらないし、何と言っても王妃ははのお気に入りだろう? 仲良くしてやってくれると、有り難い」

「わ……わたくしなど、滅相もございません。公爵令嬢とは名ばかりの田舎娘にございます」

 パタパタ手を振りながら言ってしまった。まずい、王太子殿下の前でこんな態度、不敬だ……。

 厳しい方とかそういう問題じゃない。

 横にいるエイベルお兄様が真っ青になっている。周りの空気も固まった。

 エド様、何でそんなに平然としてるの?


 プハッ、王太子殿下が吹き出してしまっていた。え? その横で、ジョゼフィン・レンフィールド様が「失礼ですよ。殿下」と小声で言っている。

 王太子殿下がひとしきり笑った後

「いや、失礼。聞いてた通りだ」

 そう言って、また笑い出してるけど……。って言うか、大概注目を集めているのですが。

「そういうあなただから、ジョゼフィンの友達にと思ったんだ」

 ご学友では無く。友達……。目が合うとジョゼフィン様はニッコリ笑ってくれた。

 雰囲気は今の王妃様に似ている。だけど……。

「でも、わたくし、普段は王都におりません」

「かまわない。あなたが王都に来たときだけで良い」

「かしこまりました。ジョゼフィン・レンフィールド様、これからよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。ジョゼと呼んで下さる? わたくしもマリーと呼ぶわ」

「かしこまりました。ジョゼ様」


 私は、線引きをした。今は同じ公爵令嬢かも知れないが、勘違いしてはいけない。相手は、次期王妃様だ。候補ですらなく、確定事項として。

 いずれ近いうちに、王族と臣下の妻の立場に別れてしまう。

 どんな思惑があるのか分からないうちは、あまり近付きたくない。

 ただでさえ、うちの問題もあるのに。


「さぁ、ダンスの曲が流れてきた。ジョゼ、踊ろうか」

「喜んで、殿下」

 じゃ、また……と言って、王太子殿下達はダンスの輪に入っていった。

「では、私たちも踊ろうか。マリー」

 公の場なので、エド様の一人称が私になっている。久しぶりだわ。

「喜んで、エドマンド様」

 そう言って私たちも、ダンスを始めた。

 横目でチラッと見ると、エイベルお兄様はジョゼフィン様のお兄様と談笑をしている。

 クレイグお兄様は、ぽつんと一人たたずんでいた。

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