第25話 お屋敷からの脱出

『トム・エフィンジャー』

 エド様も密かに調べているようだけど、裏の世界に潜っている彼を見つけるのは不可能かも知れない。

 だって、誰も顔を知らないのだもの。

 彼の素顔を見た物は、皆殺されてしまっているって話だし……。ビリーも、直接会ったことは無いって言っていたわ。

 たまたま、長く領主がいなくなっていたから、潜伏するには丁度良かったのでしょうけど、困ってしまうわ。


 私は、自室で紅茶を飲みながら、ボ~っとしていた。

 だって、エド様ったら当面の間、侍女と一緒でもお外に出てはいけないって、おっしゃるのだもの。


 あら? 何かバルコニーの方で、影が……。

 私は、そちらに行くべきか、もしくは誰か呼ぶべきか迷った。

「お嬢」

 ビリーが身を低くして私を呼んだ。

「何してるのよ。ビックリするじゃ無い。騎士団の方々は?」

「昼間は油断してるよな。俺、大人しかったし、怯えた演技も良かったろ?」

 私は怪訝そうな顔になっていると思う。だって、どういう事なの?

「トム・エフィンジャーから、逃げてきたんじゃないの?」

「そいつから、逃げてきたよ。だけど、怖いけど残してきた仲間も心配だから……。昼間の方が、安全だしな」

「戻るのね」

「ああ。お嬢には世話になったから、挨拶くらいしていこうかなって……さ」

 さって、行こうかなっと言っているビリーの腕にしがみついた。


「おい」

 ビリーが私の腕を振り解こうとしている。

「わたくしも連れて行きなさい」

「はぁ? 無茶言うなよ。ここからだって、出られないだろう?」

 呆れたように言うビリーに、私は言う。

「あなた、あの木の枝を伝って来たのでしょう? わたくしにも出来るわ。木登り得意だもの」


「おいおい。お嬢は、旦那から外出するなって言われてんだろうが」

「ビリーだって、無断で帰るんじゃないの」

 あ~、旦那から殺されちまう……って、ビリーはぼやいてるけど。

「さぁ、見付からないうちにあの木を降りるわよ」

 そう言って、いつものお出かけバッグを持って、バルコニーの横にある木の枝に飛び移った。

「猿かよ。ったく、ここのお嬢は」

 仕方無いって感じでビリーも飛び移り、私と共に屋敷を脱出していった。


 私たちは、街道を駆け抜け領地の境に来る。

 当然、正規ルートでは出られない。ビリーも入るときこのルートは通って無いはず……と思って訊こうとしたら、道から外れて林の近くに入っていった。

「ここさ、結構大きな亀裂があるんだよ。完全に大人体型になってしまったら、入れないけど、俺たちくらいなら大丈夫だろ?」

 なるほどねぇ、領地の境の壁にこんな大きな亀裂が……。確かにエド様や、そうねぇ騎士団の方々でも難しいかも知れない。

 そう考えて亀裂を見ていると


「なぁ、ここまでにしときなよ。本当に危ないんだ。あんた、綺麗だし……悪い奴らの恰好の餌食になる」

「なぁに? 褒めても何も出ないわよ?」

 そう言ったら思いっきり溜息をつかれた。

「ちょろっと、覗いてこっから帰るんだぞ」

 そう言って、ビリーはごそごそと亀裂から領地の外、港町に戻っていった。

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