第11話 木の上のマリー・ウィンゲート 

 私は、ウィンゲート領で普段着にしていた服を何着か持ち出してきていた。

 王都で、下町に行くときに着ようと思って荷物に忍ばせていたものだ。

 王妃様の命令で、直接マクファーレン領に来てしまったので、私物は後から送って貰ったのだが、やはりと言うか何と言うか、ウィンゲート領に置いてきた普段着は入ってなかった。

「良かったわ、持ち出していて。四六時中ドレスなんて冗談じゃ無いわ」

 今の私の格好は、足首までの緑のシンプルなワンピースにショートブーツ。

 これだったら、王都の町の露店で買って貰ったネックレスをしていたって可笑しくないわ。



 私は今どこに居るかというと、この領地に入るときに見かけた草原の木の上。

 草地に転がるのも良いものだけど、このいかにも登って下さいと言わんばかりの枝ぶりの木を見たら、つい。

「うわ~。見事に何も無いから本当に遠くまで見渡せるわねぇ」

 あれは、今度頂いた領地かしら、ここからだったら海まで見渡せそう。

 本当に、港町なのねぇ。

 エド様があちらを視察して落ち着いたら、連れて行って頂こうかしら。魚介類もきっと美味しいでしょうね。


「あ~。良い風。本当にうちの国はいつもほどよく暖かい風が吹いてるのねぇ。賢者様に感謝しなくっちゃ」

 そう言いながら、エド様から買って貰ったネックレスを見る。

 王都は、楽しかったなぁ。王妃様も優しかったし。

 絶対行けないと思っていた下町にも、エド様同伴で行けたもの。




 そう、あの時のエド様の焦り様ったら……笑ってしまうわ。

「なぁ……マリー。本当に何も買わなくても良いのだろうか」

「だって、高級すぎてわたくしには勿体ないですわ」

「しかし……」

「わたくしの父に、何か言われました? それとも王妃様に?」

 そう、私が言ったら決まり悪そうなお顔になってましたもの。

「私……いや、俺が何か買ってあげたいんだ」

 あら? 俺っておっしゃるのね、公の場でなければ。

 それに、誰に言われたのでも無く……なのね。

「でしたら、わたくし下町に行きたいですわ。露店を見てみたかったの」


 私は、木の上でついクスクス笑ってしまった。

 思い出し笑いなんて、はしたないわ。リンド夫人がここにいなくて良かった。

 だって、そう言った時のエド様の顔ったら……。

 それでも、ちゃんと連れて行ってくれて、露店の焼き栗や蒸かし饅頭を買ってくださったもの。

 そして、このネックレス。王妃様は、呆れたお顔でエド様を見ていたけど。

 私には、宝物だわ。お値段が安くても、金メッキでまがい物の宝石でも良いの。

 確かにね、高級店の贅を尽くした装飾品も良い物かも知れないけど……ねぇ。

 こんな田舎の領地で、高級店で買ったアクセサリーなんて身に着けられないもの。

 夜会用ならまだしも、普段身に着けられないのでは、本当に意味が無いわ。


「マリー?」

 そんなことをボ~っと考えてたら、下から男の人の声で呼ばれてしまった。

 あれは、騎士の方と執事のジュード・ウォリナーと

「エド様。今、お帰りですか?」

 私は、木の上からブンブンとエド様に向かって手を振った。

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