第7話 王都での夜会 エドマンドとマリーの婚約発表

 もうその日から、王室付きの侍女達によって毎日つるぴかに磨かれ、マリー・ウィンゲートの酢漬けを作るのか、ってくらいビネガーを毎日飲まされた。

 ビネガーは肌を白くするって噂だけど、胃が溶けるって……。

 そうして、時々王妃様が様子を見に来る。

 私の身体の上で、手をかざしているようだけど、何かのおまじないかしら?


「すごい。見違えるようだわ。さすが王宮の侍女だわ」

 真っ白モチモチ、さわると指が吸い付くようなしっとりお肌。

 私が感心して鏡を見ていると、エイダが満足そうに言ってきた。

「ありがとうございます。間に合いそうでなによりです」

 お肌もそうだけど、マナーも付け焼き刃だけど学び直して、町にも出て短い期間にてんこ盛りって感じで、王都生活を満喫したわ。


 エドマンド・マクファーレン様は、相変わらず怖いお顔だけど婚約発表の夜会の前に「エド」って呼んでくれと、おっしゃってくれたの。

 私の事も「マリー」って呼ぶって。

 何と言うことでしょう、私15歳も年上の男性かたを愛称で呼ぶことになるのかしら?


 夫婦になるってこういう事? まだ、婚約の段階だけど……。

 想像しただけでも、顔が熱くなってしまうわ。



 王都の最後の夜会の時に、なんと直々に王妃様が私たちの婚約を発表して下さったの。

 エド様の方はともかく、私の方はかなり緊張して習ったばかりのマナーで挨拶をしたわ。

 王妃様とエド様が、今にも緊張で倒れそうになっていた私の背中を支えて下さっていたのは、内緒のことなのだけど。


 ドレスのおかげ? それとも初めて夜会用に上げた髪の毛のおかげ?

 王宮のゲストルームの鏡に映った、大人っぽい私を思い出して大人の振るまいが出来たと思うの。

 だって、夜会に出席している方々の、私に対する態度が違うわ。

 皆、大人の女性を扱う態度になっていってる。

 気が付いたら、王妃様が私の横に来ていた。私は慌てて、礼を執る。


「ごめんなさいね、マリー。変な異名を背負わせてしまって、貴女の所為では無いのにね。エドマンド・マクファーレンは、不器用だけど、誠実で良い夫になるわ。どうか幸せになってちょうだいね」

 穏やかな笑顔で、王妃様は私に言った。

「勿体ない。お言葉でございます」

 私も作法通りに挨拶をする。その様子を、王妃様は穏やかな顔で見てくれていた。

「それと、マリー。これを飲み込んでちょうだい」

 何かの、宝石? ガラス? 小さな玉を王妃様から渡された。

 私は、疑うことも無く飲み込んだけど、透明な石だと思ったそれは、スーと身体の中に溶けていった。


「一度だけ……ね。貴女の願いを叶えて上げる。貴女がとても強く、呪いのように強く願ったものなら、どんなことでも一度だけ、叶うわ」

 にこやかにそう言って、王妃様は、王様の横の席に戻っていった。

 私はもう一度礼を執り、その後ろ姿を見送った。

 王妃様とは、私の身分上、お茶会や夜会でお会いする事もあるだろう。

 だけど、もう、二度と王妃様と、今回のように気安くしゃべる機会は無い。

 だって、次にお会いする時は、デビュタント後、マクファーレン辺境伯夫人としてだもの。


 そうして、私たちは、王都を後にする。

 社交シーズンが残っていても、デビュタント前の私には関係無い。

 馬車に揺られて、皆で行くのエドマンド・マクファーレン様。

 エド様の領地へ。

 さぁ、どんな楽しいことが待っているのかしら……。

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