第4話 マリー・ウィンゲート公爵令嬢の後悔

 やってしまった。本当にどうしよう。


「マクファーレン様、もう怒りを通り越して私を見る事も無く、いなくなってしまわれたわ」

 王宮のゲストルームのベッドの上に転がって、突っ伏してしまっていた。

「まぁ、マリーお嬢様のなさることですから。さっ、着替えましょう。そのまま寝たらせっかくのドレスが皺になってしまいますよ」

 ケイシーは今更でしょう? って、言ってくるけど。

「だって、このまま、婚約しちゃうのよ。せっかくマクファーレン様は、選べる立場になっていたのに……」


 もう、涙が出そう。ただでさえ『王妃候補のなり損ない、田舎に捨て置かれたご令嬢』なんて異名を持つ娘なのに。

 ダンス中に粗相をしたあげく、大声で逆プロポーズするバカ娘をめとらなきゃならないなんて、今頃、心の中は大荒れに荒れてるに違いないわ。


「私……嫌われて、またマクファーレン様のお屋敷の中で、捨て置かれるのかしら……」

 私は、ベッドの縁に座ってしょぼんとしてしまった。

「それこそ、今更です。良いではないですか。どうせ、私も一緒です。また、二人で領地を探索しましょう」

 ケイシーは、要領良く私を立たせ、着替えさせてくれる。

「だって、良いなって思ったの。怖いお顔なのに、周りに纏う空気は優しくて、話し方だって怖がらせないように……」


 ポタポタ涙が落ちてきた。そうか私、あの方に嫌われるのが怖いんだ。

 嫌われたかもと思うだけで、こんなにショックで……。

 ケイシーは、黙って抱きしめてくれる。

 公爵家の令嬢を、侍女が抱きしめるなんて普通はない。

 でも、私の所は普通じゃないの。誰からも、顧みられることのない、生まれたときから、失敗作の公爵令嬢。

 ケイシーとリンド夫人だけが、私の味方と言わんばかりにいつも側にいてくれた。侍女のケイシーはともかく、嫁ぎ先に家庭教師のリンド夫人は付いて来られないだろうけど。


 私は、ケイシーの腕の中で、下を向いたまま笑顔を作る。そして、自分の腕を突っぱねて、ケイシーを見て笑って言う。

「大丈夫。大丈夫よ。今まで通り、ケイシーがいてくれたら私は大丈夫だわ。せっかく、王都に来て、公爵家のお屋敷で無く、特別に王宮に泊る事を許されたのだもの。そう、終わったことをくよくよしても仕方無いもの。楽しみましょう」


「そうですねぇ。私も、初めてです。まぁ、私は控え室ですけど」

「ええ~。一緒にここで寝ましょうよ」

「それは、ダメです。私が処罰されちゃいます。これこそ、ここはウィンゲート公爵家の領地じゃ無いんですから」


 ケイシーは、要領良くドレスをクローゼットにしまって、寝間着を着せてくれる。

「さっ。明日の楽しいことを考えてお休みなさいませ」

 そう言って、ケイシーは私をベッドに入れたら、礼を執って隣の続き間になっている、使用人控え室に下がっていった。


 私は、ベッドの中で考える。

 明日は、どんな楽しいことがあるかしら……。

 いつも、そう思って自分を奮い立たせてきた。だけど…………。

「どうして、私ってこうなのだろう……」

 大事なときに限って、失敗する。生まれたときから、そう。

 あの候補のご令嬢達の中には、何も文句を言っていない方もいたのだもの。


 マクファーレン様には、もう一度私で無い誰かを、選び直して頂こう。

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