第3話 マクファーレン辺境伯への求婚
「あの……」
私は、王妃様になんと言われたのか、少し不安になってマクファーレン様に声をかけた。
「丁度曲の変わり目だ。マリー嬢。私と踊って頂けますか?」
ニコリともせずに、マクファーレン様は私をダンスに誘った。
本当に大きい。私は腕や身体をジッと見つめている。
さっきは王妃様から、なんて言われたのだろう。あんなに怖いお顔をしてしまわれるなんて……。
ただでさえ苦手なダンス。つい他に気がいってしまって、思いっきりマクファーレン様の足を踏んでしまった挙げ句、倒れ掛かってしまった。
「し……失礼しました」
どうしよう。ただでさえ、私のお守りを押しつけられて機嫌が悪い感じなのに、足まで踏んでしまって……。
さすがに、怖くて震えてしまった私の背中を、マクファーレン様は優しく支えてくれる。
「マリー嬢、大丈夫です。ドレスで隠れていて分かりませんよ。私の足に乗っている
「でも、それじゃ……」
今でも踏んでしまっているのに、更に足を踏みつける事になってしまう。
「曲に合わせましょう。はい」
私がするまでも無く、引き寄せられた後自然と足が後ろに下がるように誘導された。お顔は、やっぱり怖いのだけど、その後は私に合わせるようにリードしてくれた。
「王妃様には、私の方からお断りしますので、安心なさって下さい」
突然、脈略の無い事を言われて、何のことか分からず。キョトンとしてしまう。
「あの……、何をお断りするのですか?」
「王妃様は、私とマリー嬢の婚約の段取りを着ける為に、ウィンゲート公爵閣下の所に行きました」
「王妃様が?」
「今日のダンスパーティーは、戦場で生きてきて、令嬢との出会いが無かった私どもが、婚姻相手を探すためのもの。貴女に、拒否権は無いでしょうから、私の方から」
「わたくしのこと、お気に召さなかったのでしょうか?」
とっさに言ってしまった。だって、お顔は怖いけど、手も大きくて私の手など握り潰されてしまいそうなのに、そっと優しく握ってくれる。
足を踏んでしまっても、私の事を気遣って……。
「わたくしは、貴方が良いです。どうせ誰かと結婚しなければならないのですもの。それならば、お相手は貴方が良いです」
そう言った後、しまった……と思ってしまう。
だって、周り中に聞えてしまっている。
ダンス中の会話は、声を落としてしゃべるから、ダンス曲に紛れて内緒話も出来るというもの。女性の
リンド夫人の言いぐさじゃないけれど、ここはウィンゲート公爵領じゃないんだ。
型破りどころの騒ぎでは無い。はしたなさ過ぎる、初対面の男性に女性から求婚してしまうなんて。
恐る恐るマクファーレン様を見る。
さすがに呆れていると思った……ら。
いや……怖いし。お顔……怖い。
でも、優しく私を気遣うような暖かさに包まれているのを感じる。どうしてかしら。
ダンスが終わって、挨拶をしたら、ヒソヒソと陰口が聞えてくる。
はしたないだの、みっともないだの。そんなの私が一番思っているよ。
ただ、お父様も来ているので、私の変な異名を言う人はいない。
マクファーレン様は、私を連れてまっすぐに王妃様とお父様が話している場所に歩いて行った。
王妃様に礼を執った後すぐに、私のお父様に挨拶をする。
「ウィンゲート公爵閣下。ご機嫌麗しく存じ上げます」
「マクファーレン辺境伯。この度は昇進おめでとう。すまないね、躾の成っていない娘で……。これからは、マクファーレン殿の好みに合うように、存分に躾けてやって下さい」
お父様は、ダンスの様子や先程の遣り取りを見てたのだろう。
しれっと、娘を嫁ぎ先に送り出すときの定番のセリフを言っている。
「それでね。この一連の行事が済んだら、二人とも田舎の領地に帰ってしまうのでしょう? それだったら、もう行事の最後の夜会に合わせて、婚約発表をしてしまった方が良いと思って、いかがかしら?」
いかがかしら? ……も、何も、王妃様の口から出てる言葉は、決定事項なのでは? って思う。
「それは……その後、このご令嬢をそのまま自分の領地に連れて帰れ、と言う事でしょうか」
マクファーレン様は、確認するように王妃様に訊いた。
王妃様は、良く出来ましたとばかりに、にこやかに笑う。
そうして、マクファーレン様は礼を執り会場から出て行ってしまった。
もう、私の方を見ることも無く。
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