第2話 指揮官達への報奨品

 ハーボルト王国は、豊かな自然に恵まれた国だ。

 前方には豊かな海、後方には要塞のような山脈に囲まれ、他国が攻めにくい地形をしている。


 最近は、戦争があちらこちらの国で起こってはいるが、優秀な我が国の軍隊と参謀役の王妃様の活躍によって、この国に他国が攻め込んでくると言う事は無かった。

 今回の国を挙げての行事は、その戦争の勝利の凱旋だ。

 なによりあの軍事大国グルタニカ王国を相手に、我がハーボルト王国を戦場にしなかった功績は大きい。



「なんだかんだ言って、私たちはその功績を挙げた指揮官達への報奨品なのよね」

 凱旋パレードの後のパーティー会場の片隅で、数人の令嬢達が固まってブツブツ言っている。

 まだ、デビュタントもしていない子どもも混じっているので、夜会という形では無く。王宮で昼間からダンスパーティーがあっているのである。


 今回、功労者は王妃様を除くと3名。その3名から、選ばれたら令嬢の方に拒否権は無い。

 もっとも、ハーボルト王国は上位貴族や王族に自由恋愛を認めていないので、結婚相手を選べる立場になった指揮官達の方が特別待遇なのだが。

 それでも、令嬢達にも言い分はあるようで、少しでも優しそうな、見栄えが良さそうな男性が良いと言っている。


「ピーター・ブラッドロー様がいいわ。ずっと戦場で暮らしてたとは思えない涼しげなお顔」

「わたくしは、断然ジョール・フォーブズ様。あのお優しそうな顔。物腰も優雅だわ」


「あの怖そうな方は、イヤだわ。エドマンド・マクファーレン様。剣一振りで、4~5人を斬り殺したのでしょう?」

 こわ~いって感じで、囁いている。

「辺境伯に任命されたって。領地も今までの領地に隣接する田舎を希望されたのですって」

「田舎に籠もるのもイヤだわ。でも、やっぱり怖そうなのが一番イヤ」

 なんだか、令嬢達は失礼な事を言って震えている。


「あなた達。失礼だわ。あの方々のおかげで、わたくし達は平和に暮らせているのに。命を懸けて、わたくし達を守って下さった方になんという……」

 私は、つい失礼な令嬢達に反論をしてしまったのだけど。

「そなた、名前は?」

 後ろから声が掛かる。振り向いたらなんと王妃様だった。

 慌てて、皆礼を執る。文句を言っていた令嬢達は真っ青になって震えていた。


「アーロン・ウィンゲート公爵が娘、マリー・ウィンゲートで、ございます。王妃様におかれましてはこの度のご活躍、国土をお守り頂けたこと感謝してもしたりないくらいでございます」

 目上の方に対する挨拶としては……どうひいき目に見ても、最悪だ。

 どこの世界に、王族……しかも、王妃様にねぎらいの言葉をかける貴族令嬢がいるのか。

 そんな無礼打ちされても仕方無い挨拶をしたのに、王妃様は優しい目で私を見ていた。


「そう。ウィンゲートの」

 そう言って、近くの使用人に耳打ちをしている。

「マリーは、いくつになったのかしら? まだ、デビュタントはしてないわよねぇ」

「15にございます。来年のデビュタントに向けて、礼儀作法を学んでいるところでございます。ご無礼お許し下さい」

 そういうマリーに、王妃様はクスクス笑う。

「良いのよ。確かに礼儀は大切だけど、それよりも大切なことを心得ているようですわね」


「王妃ミラベル様。お呼びだと伺い参上つかまつりました」

 先程、令嬢達の話題に上がっていたエドマンド・マクファーレン様が現れた。

 ごつい身体で、それでも綺麗な礼を執っている。さすがに、社交慣れしているようだった。

「ああ。マクファーレン。彼女はマリー。アーロン・ウィンゲート公爵の娘よ。マリー、彼は今回の功労者の一人、エドマンド・マクファーレン辺境伯」


 マリーは、王妃様直々に紹介され、恐縮して挨拶をする。

「マリー・ウィンゲートでございます。よろしくお願い致します」

「エドマンド・マクファーレンです」

 お互い、挨拶をしてからエドマンドの方は、それでどうしろと? という風に、王妃を見た。王妃とその臣下というよりは、同じ戦場で戦った、戦友という感じがする。


  王妃は、エドマンドのそばに行きすれ違いざまにという感じで言う。

「マクファーレン。彼女をダンスに誘ってあげてちょうだい。デビュタント前だから、ちゃんとエスコートしてあげて。わたくしは、彼女の保護者とお話をしてきますから」

 そのまま、王妃は会場の中央に行ってしまう。

 横にいるエドマンド・マクファーレン様を見ると、すごく怖い顔になっていた。

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