第12話 いろいろあって初陣です
上歴2020年7月14日
中つ国にも夏がやってきた。
だが俺たちに夏を楽しむなんて余暇は無い。
ひたすら西へと車を走らせ、ついに我ら一行は前線領域へと入った。
だが前線と言っても末尾である。
当地はフィンツという中規模都市で、地元の兵団が鎮守している。
先頃に後退に追いやられた前線を奪回すべく、同盟軍は攻勢に出た。
故にこの地は同盟軍の兵達もたむろせず、いささか戦闘地帯という緊張感に欠ける。
ここの兵団長に会うまではそう感じていた。
疲れた顔の彼が言うに、正規軍が出っ張らったのを図って山賊の一団が徘徊するようになったと言う。
戦線後退時に離脱した傭兵団か。規模は三十から五十人程度。
我々は、その討伐を依頼された。
正直、フィンツの兵団で処理しろと言いたい所だが
勇者一行のお手並み拝見などと
適当な理由をつけて送り出されたのが昨日の事。
賊が居座る放棄された砦から少し離れた地点で事前準備中である。
賊共は哨戒はしないようで、砦の周りに見張りを置いているだけ。
兵団からの情報は正しかった。
俺は小銃のフィールドストリッピング。
要はメンテナンスを行っていた。
それを興味深そうに横から魔弓士ちゃんが覗き込んでいる。
いい機会だ。
我が愛銃LWRC M6について少し語ろう。
本銃は14.5インチのバレルに、光学照準器やフラッシュライトなど、
アクセサリーを搭載できるレイルシステムを採用している。
米軍でいうM4SOPMODに相当する型であるが、
幾つかそれとは異なる点がある。
外観的にはハンドガードが延長され、銃床が換装されている。
内部的には弾丸の自動装填機構であるガス動作システムを
DI方式からガスピストン方式に変更している。
通常、M4のハンドガードは短く、14.5インチの銃身がかなり露出している。
俺のM6はそのハンドガードを銃口近くまで覆うフル・レングスタイプだ。
レイルが伸びたことでアクセサリーの装着自由度が向上している。
照準は中距離照準用にACOGをメインサイトとして、近接射撃用のキャンテッドサイトを斜めに装着している。
そして肩に当てる銃床は、逆さ二等辺三角形を肉抜きした形状の、
マグプル社製CTLストックを採用した。
弾倉にも同社製のPマグを使用している。
以上が外観的差異だ。
次は内部機構の話をしよう。
M4のガス動作機構は、DI方式という発射ガスを内部機構に直接噴きつけ、
遊底と呼ばれる自動装填・発射機構を動かす仕組みを採用している。
この方式は反動を抑えられる反面、ガスによって機関部が汚れやすい。
一方、俺のM6は、発射ガスと機関部の間にピストンロッドが介される方式が
採用されている。
このガスピストン式は、発射ガスが機関部に触れないため、メンテナンスが楽である。反面、ピストンロッドによって反動が強くなる。
が、言うほどその反動を感じないのは比較的恵まれた俺の体格と、体捌き故か
或いは、反動吸収効果をうたう銃床に取り付けたラバーパッドのおかげか。
恐らく前者であろうが。
まあ結論としては、より現代的なデザインと機構を持つAR-15に仕上がっている。
と、いうような事を、長々と魔弓士ちゃん相手に語っていた。
当の彼女は「流石神器だけあって複雑なんですねぇ」とニッコリ。
まあ分かんないよね。
「ったく、何が五十だぃ」
呆れと怒りが混じる声が背後から聞こえる。
斥候に行った戦士ちゃんが戻ってきたようだ。
「ありゃ五十以上だ。百人はいるよ」
マジかよ。
「やっぱり、地元の兵団に押し付けねぇか?」
「策は立てただろ。それにそんだけ準備してりゃね」
M6に光学照準器とハンドストップ、銃口にサウンド・サプレッサーを装着。
プレートキャリアと腰のウェポンパックにはありったけの弾倉と手榴弾。
そして軽量なM72携帯型ロケットランチャーを一本用意した俺。
「それにこのアタシが付いてるんだ。面倒だけど殺れるよ」
「あら、この私も忘れていません?」
手にした弓に紫のオーラを纏わせながら魔弓士ちゃんが応じる。
あぁこの人ら、マジで百人殺るつもりだ。
二人が発する殺気が、ビリビリと眼前の俺に伝わる。
「仕掛け、終わりました」
ギリーネットの上を、草木で覆った車から僧侶が降りてくる。
「もう動いてるの?」
僧侶は、俺の問いに頷くと、ですから直ぐ出立しましょうと拳銃を手にする。
彼女にとってはこれが初めての対人射撃戦になる。
魔弓士ちゃんはこのパーティにおける初陣。
そして一行にとっては、最大規模の戦闘だ。
四対百。ただの冒険者パーティでは話にならない。
だが、俺たちはそうじゃない。
我らは勇者一行なのだから。
「よし行こう。足元、気を付けてね」
出陣から数分後。
ピィーッっと甲高いホーンの音が三十秒ほど山中に鳴り響く。
「何だッ⁉」
「同盟の補給部隊だろ!小休止のホルンだ。無警戒な奴らだぜ」
地響きと共に砦から飛び出す賊たちの声。
「半数以上は出てったわね」
普段はにこやかな魔弓士ちゃんの目は、今や獲物を狙う狩人のそれだ。
「出ていく奴は出て行ったんだ。もう突っ込んでいいだろ? 勇者」
さっさと殺っちまおう。
得物の両手斧を肩に、血に飢えた戦士ちゃんが問う。
「ちょっと待て」
俺は砦の壁上、見張り塔に残った連中の位置を把握する。
三十~四十m程か、最も手近の一人に照準を合わせ、短くトリガーを引く。
いつものやかましい轟音に替わって、パシィンと鞭でひっぱたくような
一発の鋭い音が鳴る。
銃口に着けたサウンド・サプレッサー。
所謂サイレンサーによって、発砲音がある程度だが減音されている。
恐らく、見張り台のより遠い連中には、ハッキリと銃声は聞こえていない。
そして、仲間の死に気づかぬ次の見張りを狙う。
二人目、三人目――。
「うし、全員殺った!行け行け行け!」
仲間に突入の合図を送り、俺たちは一気に砦内へ突入した。
ホーンの音が鳴った地点から、クレイモア対人地雷の炸裂音が響いた後。
円環状の石壁に包まれた砦外縁部は制圧。
砦から飛び出した連中が逃げ帰って来た今、俺たちは迎撃態勢を整えていた。
円環奥に、俺と魔弓士ちゃんが。そして白兵戦のピットとなる砦内広場。
その入口近くに戦士ちゃんが陣取り、円環左手の昇降階段に僧侶が陣取る。
初動で砦外縁部を制圧できたのは幸運であった。
突入後すぐ、砦内の居住区に残っていた連中が顔を出した。
奴らが扉から湧き出す寸前、出入口に固まった所をM6で纏め撃ちできたのである。
そして、ホーン音。
呪符でクラクションを鳴らした自動車へ襲い掛かった強襲組の賊共。
連中は、車周辺に仕掛けたクレイモアによって、その多くが死傷した様だった。
とはいえ、それでも数十人は残っている。
砦内という閉所で多人数を相手に闘う。
それはいかに無双の強さを誇る戦士ちゃんでも
手を焼く……かもしれない。
しかし、砦内の地形やスペース。それらを把握して一度に相手する人数を、
自分が優勢を保てる範囲でコントロールして立ち回っている。
その判断力と感は流石である。
俺と魔弓士ちゃんは、戦士ちゃんへの援護射撃を開始する。
魔弓士ちゃんが加わって一行は4人編成となり、それぞれの役割がハッキリし始めた。
RPG風に表現するなら、このパーティのオフェンスは戦士ちゃん。
回復魔法とCQB戦術を扱うアタッカー兼ヒーラーの僧侶。
そしてディフェンスは魔弓士ちゃんと俺だ。
俺がディフェンス?
アサルトライフルなんつう、紛う事なきチート兵器をぶっ放してる
俺がディフェンス?。
うぇい、違うんだな。
アサルトライフルの利点は、近・中距離からの高速かつ連続的な射撃だ。
これにはいくら魔弓士ちゃんの弓術が優れていようが敵いっこない。
この長所を生かした俺の役割は、近接特化の戦士ちゃんに対し脅威度の高い敵。
射程のある攻撃を扱う、弓や魔法の使い手を優先的に排除していく事だ。
その間に、戦士ちゃんに向かって接近する敵の近接戦闘群を
魔弓士ちゃんが魔術矢で足止め。
そして僧侶が撹乱する。
攻撃的ディフェンスと言うべきか。
最後に、てんやわんやとなった敵の群を戦士ちゃんが削っていく。
文字通り、削っていく。
「アーッハッハッ‼」
ダンダンと大地を踏み鳴らし、恐ろしい勢いで斧を振り回すその圧倒的な姿。
某スリーダイナスティーに出てくる触覚野郎か、
はたまたヒンドゥー教の戦女神か。
吹き飛ぶ吹き飛ぶ生首臓物。
「ホント、魔王って彼女のことじゃないかしら」
「いや呂布だよ呂布。エーコー製の」
「リョフ? エーコ?」
「あ、いや。こっちの話」
とにかくだ。
戦士ちゃんに矢や魔法が飛ぶのを未然に防ぎ、負傷の可能性を極限まで削る。
彼女がその戦斧を存分に振り回し、暴れ回る環境を作るのが俺らの仕事だ。
魔弓士ちゃんとくだらない会話を交わしたすぐ後。
俺達から対角線上に位置する砦の別棟屋上から、
わらわらと魔術師風の男たちが現れる。
恐らく賊の中でも別のグループの連中だろう、隠れてやがったか。
「魔弓士ちゃんさあ!」
「なんですか!」
「この戦い、生き残れたらさあ――ヤらせてよ!」
一瞬、キョトンとした顔で間をおいて、カラカラと魔弓士ちゃんが笑う。
「約束ですよ!」
おぉしゃあああああああああああああ
俺は歓喜の雄たけびを上げて手榴弾を賊魔術師共にブン投げた。
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