第10話 食事前・中の閲覧はお控えください。

上歴2020年6月27日

ルベチア公領 前線まで十五里。


 この一カ月程で前線までかなり距離を縮めた我ら一行。

順調な旅程の継続は、ロードウェル公爵の支援を得た事に大いに与する。

現在地は公領市街、ジグリ銀行ルベチア支店。


 俺の口座を確認した行員は、通帳記入時に幾らの振り込みがあったかを伝える。

振り込み主は、もちろん公爵。

その額の内、半月の旅程で必要になる分を引き出し請求した。

「それではこちらが引き出し分と、お預かりしていた郵便文書になります」

「ほう、文書を」

 中つ国の多くの銀行は、私的な郵便請負も兼ねている。


『運がいいな』


 なにがラッキーだったって、郵便物をその場で受け取れた事だ。

我々のように旅路に在るものは、銀行や郵便物の受け取りに制限がある。


 例を挙げよう。

Aという街で銀行口座を作り、その後Bの街で預金の取引をしようとしたが

口座が確認できなかった。

仕方なくCという街に移動し、その地の銀行へ向かう。

するとAで作った口座が伝わっていた為、金の取引ができた。

しかし、知人から郵便物が配送されており、それはDという街の銀行に預けられていた。

D街は現在のC街から遠い為、次の旅先であるEの銀行に郵便物を運んでもらうよう頼んだ。

そしてEの銀行で郵便を受け取り、ようやくすべての取引が終わる。

制限とはこういった銀行間における伝達の遅さからくるものだ。


 銀行間の通信網はワイバーンという飛竜や早馬、或いは伝書鳩に頼っている。

日夜、本店や各地の支店へ取引額が伝達され、郵便物も配送される。

一つの場所に根付く者であれば、先ほどの例のような面倒は無い。

口座はその地で作ったのだから、そもそも確認を取らなくてよい。

送金された金や郵便物はその地の銀行に届くのだから。


 口座と最近の振り込み額が、ここルベチア支店で確認できた事に一先ず安心。

そして郵便物も良いタイミングでこの支店へ届き、

即受け取りができた事がラッキーという訳である。

ただ文書の送り主を見て俺の表情が曇る。

待合席でくつろぐ仲間の元に戻ってから、文書の封を開いた。

「郵便ですか。誰からです?」

「誰からッつうか、テメーの国からだよ」


 北セントレア王国

人間勢力『同盟軍』大本営からの文だった。


ただ内容自体は嫌味ったらしい序文を除けば悪くは無かった。


「――二人とも、吉報だよ」


「何だい」


「従者が増えるそうだ」


 一方は何だそんなことかとガッカリそうに。

もう一方の女は目を輝かせて鼻息荒く俺に問う。


「おお、勇者様のご活躍に大本営も考えを変えましたか!

して、従者の数は⁉」


「一人」


 あー、お前まで残念そうな顔するな!


つーか車の乗車人数や物品の積載量考えろ。

そんな大層な人数は連れられんだろ。

「攻性魔術にひぃでた――魔法使いかな。お、ここの領地の兵から来るらしいぞ」

 またしてもラッキー。合流はこの先の砦でだそうで。

「攻性魔術ですか。ううん。私、そちらの方面は全く門外漢でして。

連術が出来ません」

 僧侶曰く、攻性魔術――所謂、攻撃魔法は複数の連術でこそ威力を発揮するのだそうだ。

最もこれは人間族に限った話である。

マナとの親和性が高いエルフやノームといった種族であれば、

単体でそれなりの術式を操れるのだとか。

ただ、従者として参加する者は、文書を見る限り人間族だ。


 二刻後。食事を済ませた我々一行は、文書にしるされた砦に入った。

待機していた文官に文書を見せると、その者は砦外の第二練兵所にいると言う。

従者の儀式はと問えば、練兵所は現在使用されていないと。

だから、その場で済ませろとそっけない答えが返った。

一体どんな奴なのか、砦の連中はこの文官を含め気だるげで英気を感じない。

何か面倒な奴を押し付けられるのではないかと憂鬱になりながら件の練兵所へ向かう。


 ――第二練兵場


紫色の髪が、傾く午後三時の日差しにハッキリと映える。


「貴方が勇者さんかしら」


 俺に問いかけた女の金眼が、俺の胸中を射抜く。

白いブラウスの襟元で蝶結びされた紐ネクタイ。

この世界ではビキニアーマーの次に派手なフリルスカート。


 い~い女じゃねぇか。


「いかにも、私が勇者だ。君が件の従者候補で相違ないね?」

 ええと頷いた彼女は、俺や他のメンツの顔をひとしきり眺めると

二コリとして挨拶する。

「私は魔弓士まきゅうしと申します。名誉ある旅に加わる事、光栄に思います」


魔弓士まきゅうし!」


 名乗りを聞いた僧侶が、驚きの声を上げる。

戦士ちゃんも、「ほぅ」と喜ばしそうに小さく言を発する。


「え、すごいの?」


「あら、勇者さん。魔弓士をご存じない?」

 聞いた事も無いね。と、俺は肩をすくめて見せる。


「簡単に言うとね、矢に自分のマナを込めて射れるのよ」


「それで?」


「う~ん。見せたほうが早いかしら?」

 彼女は矢筒から矢を引き抜き、弓へつがえる。

三十メートルほど先に設置された木人を狙うようだ。

だが俺が鏃の狙う先を確認したのを見ると、上体を左に逸らして放った。


 狙いをわざと外した。もしかして曲がるのか?


直感通り、矢は曲がった。尾を引かぬミサイルの如く。


矢は見事に木人に命中し、バッと火の粉を発した。

「すげー」

「今の様に、射た矢の軌道をある程度操る事が出来るわ。

加えて火や雷といったマナ元素の力も込められるの。これが私達、魔弓士よ」


 彼女の弓技に素直に拍手を送る。


「弓の才能と魔術の才能。両方を兼ね備えた、ある意味特別な連中しかなれないんだよ。魔弓士ってのは」

 戦士ちゃんが珍しく目を細めながら魔弓士殿の技を褒め称える。

「魔弓士の扱う弓はエンチャントで魔力を増幅させていると聞きます。

放たれる魔法矢の威力は少なくとも三連術級……」

これ以上にない戦力だと僧侶も言葉を続ける。

「まあ、戦ではこっそり指揮官を狙撃したり、敗走する残兵狩りが主任務なんだけどねっ」

褒めちぎる二人にペロッと舌を出して魔弓士まきゅうしちゃんは答える。


謙虚というレベルを超えて自嘲だろそれは。

せっかく称賛を受けたのに。マゾかな、この娘?


「では、勇者様。叙勲の儀を」

「そうそう、勇者さん。お願いしますわ」

 あー、はいはい。

「それじゃあ、魔弓士、ちゃん。

この黒くて長い……いや、この武器に触れて。」

M6の弾倉側を彼女に向けて差し出す。

「これが『神器じんぎ』って物なのかしら。触れると生気が抜けると聞くけれど」

「あ、ダイジョブダイジョブ。勇者が従者と認める者は触れられるヨ」

 ユウシャ、ウソツカナイと彼女の警戒を解く。

見慣れぬ武器に不思議そうな顔をしながら彼女は突起部分、弾倉に触れる。

そして触れた瞬間、カッと目を見開いた。


「あら、ほんとに何ともないわ」


「でしょ。はい、儀式終わりね~」

 俺はそそくさと銃のスリングを肩にかける。


「よろしくー」「よろしくでーす」

 と、2人の古従者達が新たな従者を迎える。

そのあっけなさというか、俺達の適当さに可笑しくなったのだろう。

魔弓士ちゃんは金の瞳を細め、クスクスと可愛らしく笑った。


 その日の夕方。

籍をおく部隊へ除隊申請に向かう魔弓士ちゃんと一旦分かれ

俺たちは今宵を過ごす寝床を探していた。

だが、生憎この町に5つある宿の3つは満室であった。

残されていたのはバカ高い貴族向け宿と、

そこの宿泊費の三分の一もしないボロ宿だった。


 金を引き出したばかりなので、前者はいささか気が引けた。

故に、気のよさそうな老婆が経営する後者――この安宿に泊まることにした。

三人パーティも今日で最後。せっかくだし、皆で一部屋といこう。

戦士ちゃんは酒を調達しに行ったので、俺と僧侶は先に部屋で休むことにした。

二階にある部屋へ向けて、軋む木製階段を上る。

目的の部屋は上って二つ目だったか。妙に固い鍵を解錠し、扉を開いた。


「ようやく休めんな―ぅオェッ、くっせぇ!ンだこの部屋!ッェア!」

「あー、前の客の糞便。捨ててないですね。この部屋」


 あ⁉ 糞便ってなんだよ。


 僧侶は鼻と口を覆いながら暗い部屋をズイズイと進む。

最奥に着くと、木扉で閉じられた窓を開く。

部屋を浄化するように、夕日が室内へ流れ込んだ。

同時に、汚らわしい部屋の空気が照らし出された塵と共に、

祓われるように外へと吸い出されていく。

とは言え、窓開けただけで臭いがすぐ消える訳ねェ。


「マジなんなの…」


 壁にもたれ、警戒しつつジリジリと部屋に入る事にした。

扉は部屋の左壁、いま俺がもたれ掛っている側に取り付けられている。

踏み入れると、当然だが右方向に空間が開けてくる。

壁に沿って棚、テーブル。その上に客を迎えるサービスのリンゴが一つ。


腐ってるだろコレ。


 いや腐ってなくても、この臭気を吸った……ぜぇってえ食わねえ。

苦々しい顔でそのリンゴから視線を外す。

テーブルの隣には大人二人が寝れるサイズのベッド。

見てくれは上等で、この粗悪な部屋に似つかわしくない一品ではある。


「このベッドも臭いついてるだろうし……

シーツだけでも替えてもらった方がいいな」


 にしても臭いの発生源はどこだ?


ベッドから視線を外すと、その向こう側に立つ僧侶と目が合った。

窓からの逆光の中、薄明りに照らし出された彼女の眼は、暗がりの中で深い青を湛えている。

また髪や白いうなじ、装束のアウトラインが、背に受けた光を反射して神々しい金色を発していた。

鬱屈とした世界に希望をもたらす天使の如く。


美しい、なんて綺麗なんだ。


感嘆の声をもらそうとした。


だが彼女はそれを遮るかの如く、視線をフイと自身の左手へ外す。

傍に立てられた薄い布製の間仕切り。

それを引き戸の様に自分の方へと引っ張り、その裏へと姿を消した。

と、次の一瞬後には引っ張り終えた間仕切りの右側面からヒョイと顔を出す。

そして顎をしゃくって、俺の視線を奥へと促した。

射し込む光が間仕切りによって反射し、部屋の最奥右角の、

窓から死角となる部分を照らし出す。


「あ、臭いの正体これか……」


 細長い、女性の体のような曲線を描いた壺がポツンと置かれていた。


「用足し用ですね。」

「ッチ。中身捨てとけよなぁ~」

 コレの処理も含めてあの値段なのでしょうと

淡々とした調子で、彼女は壺の傍を通って部屋のすみの支柱へ近づく。

支柱は金属製で、僧侶の上半身程度はあるスライド式の曲面扉が備わっていた。

中は空洞の管状なのだろう。

ダストシュートの如く、ここから糞尿を流して処理するわけか。

こんなもん作るぐらいなら厠を別室に作ったらどうかね。

え、その分の部屋数がもったいない?そうですか。

呆れるオレを置いて、僧侶はすべりの悪い錆びたスライドドアを開き……

開かないので取っ手をガンガンと押し叩く。

ようやく扉が開くと、顔を臭そうに顰め、壺の両側に付いた取っ手を握る。

「流しまーす!」

 管の中へそう叫ぶと、一気に糞尿をぶち込んだ。

中身を流し終えると、壺を置き直してフウと息をつく。

そして支柱のスライド・ドアを締め直しにかかった。


「これでッ臭いはマシになるでしょ。

……も~、いつまで子供みたいに縮こまってるんですか!」

男らしくしてくださいと歩み寄り、俺の肩を叩こうとした――

その手を全力で回避する。

「僧侶よ、まず手を洗ってきなさい」

「……あぁ~。ッハ! 大丈夫ですよ。なんにもかかってないですかッらッ!」


 突き出された両手を再び回避ぃ!


「いやッ!他の宿泊客がッ持ち手にこぼしてた可能性ッ、無きにしも非ず!」

「無いですってホラァ!」

 いかん!こいつ悪戯モードに入ってる。

非常にレアな状況だが、邪気あふるるニヤついた顔がコエェッ!

僧侶の繰り出す掌底を避け続けるがジリジリと追いつめられる。

「ちょ、戦士ちゃん!居ないのォッて……オワッ」

 僧侶の両手首を掴み動きを封じたつもりが、予想以上の膂力に振り回され、

ベッドへと押し倒される。

「フェヘヘェ~ヘヘ!」

 ついに彼女の両手が俺の顔面を犯し始めた。

両頬を歪むほど引き伸ばされ、グニグニと揉みしだかれ…。

もう、どうとでもしてと思った矢先、その手が停まる。

一瞬の間をおいて、どうしてそうなったのか分からないが


俺達は唇を重ねていた。

というか重ねて来たね、あっちから。


ズルリと僧侶の舌が俺の口腔内へ侵入してくる。

「フッ……ン~」


 俺は上にのしかかる彼女の体をひっくり返し、その手首を握りしめていた

手で今度は彼女の顔をホールドする。

こちらからも舌を絡め始め、濃密なディープキスを楽しむ。

何分経っただろう、いや……本当は一分も経っていないかもしれない。

あまりの口福に、時間の流れがゆっくり感じられるから。

それからまた一頻り互いの粘液の触れ合いを楽しんでいたのだが、

突然僧侶から、突き飛ばすように体を引き離される。


――我に返っちゃったか。


 ベッドから立ち上がり、テーブルの方へと歩く彼女の後ろ姿を名残惜しく見ていたが。

クルリと腰を捻り、俺の方を向いたその顔は、未だイタズラっ気を帯びていた。

そして興奮で紅潮した頬に、同じ色、いやちょい暗めの丸い物体をピトリと添える。

テーブルに置かれていたあのリンゴを。


「神殿に勤務していた頃、友人から面白い遊びを聞いた事があるんです」

手に持ったリンゴを小刻みに振って見せる。

「遊び?」

「果実の両側を口で支えて、そのまま齧り合うっていう……」


勇者様のだぁ~い好きな、男と女の遊びですよ。


ポッキーゲームかよと心中でツッコむ俺をよそに、

彼女はリンゴに軽く口づけし、デロリと口から垂れ出した舌で

その表面を舐め上げる。


「オェッ!ンな不潔なリンゴに良くも!」


 俺は顔をしかめて視線を逸らすが、股間は激しく怒張していた。

臭気やらなんやらが付着してそうな、あのリンゴを舐め上げる。

それは汚らしい行為だと感じたが、舌を這わせる僧侶の横顔はあまりにも妖艶だった。


 これまで共に旅をして僧侶を可愛い、美しいと感じる事はあれど

エロいとは思わなかった。


 あ、性的な目ではもちろん見てたよ。


そんな下らない思考を巡らせている内に、再び僧侶にのしかかられる。

そして口に押しつけられたリンゴに、あろうことか歯を立ててしまった。

リンゴの向こうからフフンと『オンナ』を感じる含み笑いが聴こえ――。


ガジッ、シュルルルッ。

俺達はリンゴを齧り合い始める。


シャリ、シャリ、ヒュルッ、ヒュブッ。


顔面以外の体全体が重なり合う。

互いの両肢が、感触を確かめあうように切なく絡む。

リンゴを貪る俺達の口、頭、首の動きは次第に荒さを増した。


ジュルッ、ッブ、ハプッ――。


彼女が齧った上面から、何条ものリンゴの汁が垂れて俺の口元を濡らす。

その冷たい感覚に気付いた頃には、俺の右手は彼女の背に回り、

左手は豊満なヒップを愛撫していた。

そして僧侶の手が俺の股間をまさぐり始め――。


 もう辛抱たまらん。


「ンーガッ!」

 俺はかぶりついたリンゴを噴き捨てると、再び僧侶と舌をねぶり合う。

甘い、リンゴの蜜の味。

「僧侶……好きだ。いや、愛してる」

「私もです……でも嗚呼、神の御使いに恋し、体を重ねるだなんて……」


 善いに決まってんだろ!


「俺が、お前を、抱きたいんだよ」

今度は俺がマウントを取ろうと、体を捻ろうとした。


ガンガンと扉をノックする音。


「へいえい、お二人さん」

 聞きなれたハスキーボイス。

「逢瀬の最中に悪いがねぇ。扉、空けっぱなしだよ」

 部屋の入口に寄り掛かった戦士ちゃんがニヤニヤと此方を眺めていた。


「おぅ悪い。閉めといてッ、ブオッ!」

 強烈なパウンドが俺の顔面に突き下ろされる。

「あっ、そのっ! 誤解しないでください。勇者様が言葉巧みに私を!」

「ア゛ーッ! テベッ、フッジュアケンァ!」

 再び強烈な突き下ろし。

「いやいや、イイよ良い。若人達よ、非常に健全な行為だ。

ただ、ヤるなら二人っきりの空間を作った方がねぇ。

情緒もでるんじゃないかなーって、お姉さん助言したまでさぁ?」


 じゃ、引き続きお楽しみを。


「まって戦士さん! 違うの!」

 俺をベッドに押し付けながら僧侶は勢いよく立ち上がる。

そして扉を閉じようとする戦士の元へと駆け寄って行った。


 その夜、僧侶とペッティングしたベッドの上で。


「クッソ、まだ痛ぇ」

 僧侶の突きが入った頬が、まだジンジンと痛む。

「おもっきりドツかれてたもんねぇ、アンタ」

 俺に背を向け横たわる全裸のダークエルフは、そうケタケタと笑う。

「笑ってんじゃねえよぉ~もっと癒してくれよぉ~。」

 彼女の乳房へと手を這わせ、揉みしだきながら腰をヘコヘコ。

二度目の情交を請う。

部屋には、俺と戦士ちゃんだけ。


扉? もちろん閉めてるよ。


僧侶? 知らねえ。

勝手に一人部屋を借り、そこに閉じこもったきりだ。

内側から鍵かけて出て来やしねえ。


そ・れ・よ・り・も


「んねぇ~勇者オレ次はぁ~コッチでアソビたいな♥」

左手の人差し指を、ニュルリと彼女のアナルへ――。


え、ズブズブ入るんだけど。


中指……二本目も余裕。


うわ、開発済みっすか……。

まぁ年季違うしなぁ……。


「ン、ケツですんのぉ?」

「だぁって、コッチ来てからゴブサタだし」


 アナル〇ックスな?


「やるならそれなりの準備が……。オラ、指抜けよッ」

「準備って腸内洗浄?じゃあ俺のションベンで綺麗にしてやるよぉ。

丁度、催してたしぃ~」


いい加減にしな。


 そんなニュアンスで俺の体を振りほどき、彼女はベッドの下に手を伸ばす。

床に置いていたワインボトルを手に取ると、胡坐をかいてグビグビと中身を呷り始めた。


ブゥッ!


おう。威勢のいい屁だこと。


「くせェ」


「うっせッ」


 お前がケツ弄ったからだろうと、ボトルの底で小突かれる。

「あぁ、もういいや。俺ションベンして寝るから」

 俺は起き上がるとパーティションの向こう、排泄用の壷へと向かおうとした。

したのだが、「待ちな。」と腕を掴まれる。


「なにィ?」


「……クソしたい」


「オレ小便すぐ済むから、その後でいいじゃんよ」


「その後ブチ込んだら飛ぶだろ、汚ぇ飛沫が」


 壺の高さと糞の落下速度から考えて……いやどうでもいいわ。


「ああもう、じゃあ先にやれば。どぞ?」


 もう無理と口走り、ケツを押さえ彼女はパーティションの裏へ消えてゆく。


そして1拍おいて。


ブボッ! ボッ! ……ミチミチ。


溜まってたっぽいな。

シなくてよかった。


ああ~、くっせ……。

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