第9話 どこでも〇ア

第9章


 翌朝、神器――もとい武器弾薬を供給する車内の魔法陣が光った。

供給されたのはプレートキャリアというボディアーマーの一種。

所謂、防弾チョッキだ。

防刃性能を持つ軽量タクティカルモデルである。

「うっしゃあああ。やったぜ‼」

 これは嬉しい。

何がうれしいって防御力より、一度に運用できる弾薬その他が増える事だ。

今までは腰に巻いたタクティカルパックに頼っていたが、流石に限界があった。

「どうしたんですか。あ、昨夜はさぞお楽しみに……。」

 昨夜、結局助手席で眠った僧侶がむくんだ顔で寄ってくる。

俺と戦士ちゃんがおっぱじめると、奴は決まって後部座席から逃げ出す。

そして間仕切りを閉めて、眠くなるまで俺のスマホを弄っているのだ。

ンで、夜が明けるといつもこの顔である。

「それは胸当て…なんだ布製じゃぁないですか」

 それにしては重いですねと、残念そうに彼女は言う。

「お前には豚に真珠だな」

「失礼なッ」

 おお、この諺を覚えたか。

ま、俺が吐いた罵詈雑言の数々は大抵お前向けだしな。

「布じゃないんだな~。特殊な繊維で刃物に耐性がある。

表面には銃の弾倉やグレネードなんかもくっつけれるぞ」

「ほぇ~。ただの布にしか見えないのに。あと、大して守れる場所無くないですか」

 確かに軽量さを重視した作りで、肩や首を除いた上半身一帯の保護しか無い。

アメリカ陸軍が用いるSPCSというプレートキャリアと同様のデザインだ。

「これも法儀かけた方が良い気がします」

「ああ、守護の法儀ね。また大きな街に着いてからだけど。んで、話は変わるが」

不安そうにプレートキャリアを見る僧侶の前に、一丁の小型拳銃を持ち出す。

「拳銃? 勇者様がお使いの物とはずいぶん形が違いますが」

「うむ、僧侶よ。貴様にこの神器“ワルサーPPK”を与えよう」

 畏まってそう告げるが、要は戦力向上策です。


 現在、我らパーティの基本戦術はこうだ。

アサルトライフルによる斉射の後、戦士ちゃんが切り込み隊長を務め突撃。

俺と僧侶は後衛でバックアップ。

特に僧侶は慣れない俺のカバー役を担ってきた。

ただ最近は、俺もそこそこ周りが見えるようになってきた。

あ、ネクロマンサーの件は別としてね。

更に、僧侶は護身術・徒手格闘術の練達者だ。

賊に不意打ちされても、華麗に反撃を行える冷静な判断力を持ち合わせている。

俺の御守りに終始させているだけでは、宝の持ち腐れである。


 そこで拳銃だ。


ライフルやサブマシンガンでもいいだろうが、取り扱いがより難しい。

あの格闘術を生かすにも、拳銃の方が組み合わせ的に良いだろうと判断した。


 と、偉そうな事を述べているが、


実際はプレートキャリアと一緒に供給されたのよねコレ。

でも、俺はもう別の拳銃を用いてるし。

なによりこのワルサーPPKは、扱いやすい9mmショート弾を用いる。

ビギナーの彼女にはピッタリだ。

「これが弾薬ですか。あの、凄くちっちゃいんですけど」

「反動も小さいし、対人なら殺傷力も十分だと思うけどなぁ」

「勇者様、前にもう一丁届いてませんでしたか?」

今、俺がもつ拳銃と同サイズの物があったろうと僧侶は言う。

「9mmパラべラム弾がいいなら、コレだけど」

彼女が指摘した別の自動拳銃オートマティックを取り出す。


 ――これなあ。


トリガーセイフティなんだよなあ。

銃側面のスイッチを動かすマニュアルセイフティ。

それより直接的に、引き金から出っ張る爪形を押し込む安全装置である。

個人的な印象だがこのトリガーセイフティ、玄人向けだと思う。

豊富な訓練を積んだプロフェッショナルの持ち物という印象だ。

この安全装置にまつわる素人の失敗談を聞いたことがある。

『家屋に侵入した不審者に驚き、思わず引き金に手を掛け銃を抜き暴発』

まあネットの情報なんで、真偽は分からんが。


 とはいえだ。


意識的にスイッチを操作するマニュアルセイフティは不慮の暴発を防ぎやすい。

ただ聞こえはいいが、突発的な事態への対処と言う点では、

トリガーセイフティの銃と同様十分な訓練が必要な事も事実だ。

なにしろ射撃プロセスにおいて、安全装置の解除操作が求められる。

焦って解除動作に手間取ってしまえば命取り。

どちらを携行させるか。悩ましい。実に悩ましい。


 僧侶は従軍経験がある。

これまで一緒に行動して、戦馴れしている事は十分認識している。

だからと言って、未知の武器である銃にパパッと適応できる訳も無い。

安全面を考えてマニュアルセイフティから徐々に慣れさせるか。

いや、その順応期間に不慮の事態が起こればどうなる?

最初からトリガーセイフティを使わせれば、対処の可能性は高まるのでは?


「ううん」

「勇者さま! 私これがいいです」

「うぇい! ちょっと、勝手に触っちゃイカンよ!」


 彼女が手にしたのはトリガーセイフティの自動拳銃。

だが俺は、それでもワルサーPPKを押しつける用に授けた。

当の本人は、自身で選んだグロックを取り上げられて不満げであったが。

それもテストで一度、両方を試射させると考えが変わったようである。

今の自分にはワルサーが適していると判断したようだ。

まあ、そのうち慣れればグロックに切り替えられるだろう。

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