第6話 反省と策略と


 始めての戦傷、いやヘマをやらかして半日。

未だ俺の気分は晴れず。思考が欝々ぼんやりしたまま、車中で小休止していた。

戦士ちゃんと僧侶はこの道先の偵察と野営するポイントを探しに出ている。

 服を捲り上げ、ゆっくりと傷跡の辺りをさする。

まだそれ自体を目視する事は出来ない。あの時の痛みや吐き気がフラッシュバック

しそうだから。

絆創膏のように貼りつけられた呪符。

その上から指先に伝わる傷の感触は、凹凸の起伏。

魔法で無理やり癒着された事を思い起こさせる。

傷口にジンワリとした熱さと、ヒリつくようなごく僅かな痛みを感じる。


「アンタさ、僧侶に一言感謝したらどうだい」


 偵察に行く彼女らを見送る前、戦士ちゃんに言われた言葉。

それが俺の心の中で、傷を抉るように何度も反芻する。

俺は今まで、傷を治してもらっている今でさえ、

アイツに「ありがとう」の一言すら伝えられていない。

なんとなく理由は解かっている。


 俺の慢心、下らないプライドだ。

俺は周囲に祭り上げられ、尊大になっていた。

そして一番近くで、俺にヘーコラする僧侶に対し横暴に振舞うのが常と。

当たり前の事になっていた。

 魔法への失望もある。ゲームのように一瞬で都合よく治るモンだと

俺は勝手に勘違いし、そう強烈に思い込んでいたのだ。


 だが良く考えてみろ。


アイツは、僧侶の術はドクドクと噴出した出血を僅かな時間で見事に止めた。

そして針で縫うことなく、傷口を塞いで見せたのだ。

破傷風などの病魔をよける効能もあるとか、そういや言ってたな。

これを魔法と呼ばずしてなんと言うのか。


俺は、間違いなくアイツに命を救われた。


アイツは、間違いなく俺を、本心から救ってくれた。


なのに何故。


何故俺はアイツに感謝の言葉が浮かばなかったのか。


「情けねえな」


ああ、情けねえ。

人間として、男として。

言おう。

感謝しよう。

でも、どうやって。


 そんな考えをずうっと考えていたら、彼女たちが、僧侶達が戻ってきた。

車のドアを開き、各々乗り込んでくる。

戦士ちゃんは助手席に。アイツは後部シートに。いつも通りに。

「よっとぁ、この先しばらくは安全だね。この丘を下った先の森に神殿跡が見えたよ。遠目で観察した限り、人影も無かった。野営するならあそこだろうね」

「まだ湧くか分かりませんが、マナの泉もあるでしょう。傷の治りも早くなるかと」

「そか。おい、いや、あの。僧侶」

 俺は傷を気にしながら、体を捻り上体を後部座席へ向ける。

「えっ。あ、私?はい」

 たった一言だ。どうして言えない、俺。

「なんだ、ありがとうな。助けてくれてよ」


 言えた。


 しかし視線は合わせられない。まだ俺の小さなプライドが、アイツの顔を直視する事を許さない。

だが一瞬。目を這わせ、ちらりと見えたアイツは。


「はい、私は僧侶ですから。勇者様の僧侶ですから」

 車窓に差し込む日の光を背に、まるで聖人のイコンのように

穏やかで温かい表情を浮かべていた。


「一件落着かね」

 助手席の戦士ちゃんが小さく呟く。

「ん、ンン。これからも、僧侶としてのその役目、しっかり頼むぞ。

あと、もうちょっと早く完治しないのこれ」

「はい!一生懸命がんばります!」

 答えになってねえ。

「良い歳して、素直じゃないねえ。 ――つーか、クッサ!臭い。アンタ小便臭いよ!」

 ああ、昨日盛大に漏らしてからそのまま、下着すら履き替えてないからなぁ。

「とりあえずこの先に小川があるから。そこで洗いな!」

「うん。で、この傷の事なんだけどぉ」

「なんだい。ほっときゃ治るよ」

「いや、僧侶に聴いてんだけどさ」

 僧侶というワードにハッとしたのか、

先程の謝罪会見で機嫌を直した我らが僧侶様は、爛々とした瞳で俺を見やる。

「ホントにさ、もうちょっと早く治んない?これ。まだ地味に痛いんだけど」


 爛々らんらんとしていた彼女の顔が、無神経な俺の一言で一気に曇る。

あぁ、まずい事言っちゃった。助手席からは「このドアホが」と冷たい罵声。

しかし僧侶は、面持ちをそのままに、俺の服をたくし上げる。

そして金創を優しくなぞった。

ジリジリと熱くなるような痛みを感じる。

「もう少し、お日にちがかかりますね」


 お日にちかかっちゃいまいすかぁ。


「仕方ないよ。アタシ等だって、思ってもみなかったさ。

法儀掛けてない服を着てたとはね」

「ほぅぎぃ?」


『うわ、やっぱり知らないのか。』みたいな面倒臭そうな顔。


「え~なにその顔。戦士ちゃん可愛くなぁい。」

「フッ。」

 冷笑と言うか苦笑いと言うか。

呆れた感タップリの鼻息をつく彼女が言うに。


『軽装の戦士ならば戦女神の神殿で守護の法儀を身体と衣服に施すものだ。』

『それを施しておけば刀傷であれ矢傷であれ、今回ほど深くは無かったろう。』

だと。


 矢をブッコ抜いた戦士ちゃん曰く、身体には軽く施されていたようだが。

しかし、軽くって……神さん方よ――。


「それに関しては我々王国側にも過失があります。

勇者様は神々に選ばれし中つ国の救世主。

故に、そのような儀式は無用の長物だろうと判断していたのです」


 マジかよ、僧侶。


「で、実際その法儀の効果っていかほど?」

「そうさねぇ治癒に7日掛かる傷が、5日程度の軽傷で済むね」

「は、2日。2日だけなの。」

「いや、2日も早く治るのは人間にとっちゃありがたいだろ。

アタシ等エルフはともかく」


 実感が湧かない。そんなものだろうか。


首を傾げる俺に、あんた歳、幾つだっけと戦士ちゃんが問いかける。

「今年で22だけど。」

「あぁんじゃ、あと3年ってとこかね。」


 3年?


「人間が『限りある時間の大切さ』を知るのが大体25超えた頃さね。

アンタ等人間ってのは、この歳頃になるとたった一日の無駄でさえ

異常に気を掛け始める。」


 たしかにお兄さんとオッサンのボーダーラインだしな。

四十の壁とか聞いたことあるけど、三十の壁か。


「まあとなると。今晩はさっき言った神殿跡で休むとして。

明日は公領の中心街に戻ったほうがいいね。

戦女神の神殿があったろう。法儀、掛けてもらいな。」

 露出しまくりの鎧着たアンタに言われたくねぇ。

そう思いながらも

「分かった。」

としか言えない我が身であった。


 翌朝、神殿跡を出立し一刻程。

岩山の壁面に沿い立つロードウェル公領の建築群が、

森の木々天辺から顔を見せ始めた。

 幸運な事に、昨夜訪れた神殿跡には元神官の隠者が一人住み着いていた。

僧侶と隠者による連携魔術、連術れんじゅつを施してもらえた。

中つ国の魔法は、こういった連術が効能が高く、重視される。

 更にはよく整備されたマナの泉の恩恵も得られた。

マナの泉の外見は、灯篭というか、石造りの燭台である。

その燭台中央に空く金属製のパイプ穴から、

地脈を通る緑を帯びた光るマナが流水のように湧き出ている。

一見、水のようなマナを掬い取ろうとすると、

それは手から全身に伝って少しの間、身体全体を緑の光で包み込んだ。


 ベッドの中で、優しく抱かれたかのような暖かい幸福感を感じた。

傷口は未だ痛むし、体力も快調とは言えない。

一方で、気力は全開した。

栄養ドリンクをがぶ飲みしたかのようにギンギンである。

あの泉、無水カフェインでも入っているのではないか。


「ところで勇者よ。今日はやけに身なりが綺麗だね」


艶のあるチャコールグレーのテーラードジャケット。

質の良い無地の白カットソー。ボトムスには黒のチノパンを合わせた。

「今後その服で動くんじゃあるまいね? 法儀までかけて」

「いや、これは『交渉用』だ」


 本当は背広か、この地方の高級服でもあればよかったんだが。

戦士ちゃんから綺麗との評価も受けたし、大丈夫でしょう。


「先に戦女神の神殿へ行かれたほうが……」

「衣服は先に神殿へ預けて、法儀をかけてもらう。

身体へはそれを引き取ったついでだ。

今回の交渉は時間的にも優先されるからね」

「そうだねぇ。今日の夕刻までに済ました方が良い」

「だろ。砦に入ったら僧侶は俺と公爵の面会許可を。

許可が取れ次第、戦士ちゃんと合流してくれ」


 中心街へ着くと、俺たちはせっせか行動を始める。

守護の法儀をかける衣服を神殿の女神官に渡し、大通りの坂を登る。

小便の臭いが取り切れていない衣服を渡すのは少し気恥ずかしかった。

しかし女神官さんは嫌な顔一つせず、受け取ってくれた。


「綺麗に洗濯しておきますね」

 という言葉は、少し胸に刺さったが悪気は無いんだろうなぁ。


 いい女だ。


 そして、やってきました公爵の座す高台の砦。

砦の門番に要件を伝え、中に入ると戦士ちゃんとはここで一旦分かれる。

更に侍従長へ公と面会の話を取り付けて僧侶も離脱。

公との面会には、俺一人で臨む。

俺を案内する道すがら、品定めするような目で侍従長が問いかける。


「真に恐縮ながら勇者様、お国はどちらで?」

「やはり、この格好は珍妙に映るか?」

 いかにも勇者らしい厳かな口調で質問に返す。

「いやややっ。そのような意図は決して!

この地方では見かけぬお召し物ですが

その生地や断裁の質の良さは分かりまする」

 それ故に、関心を揺り動かされましてと。

「よい。私も勇者となってすぐ、西方への旅路に着いたのでな。

有り合わせの中、相応しい服がこれしか無かったのだ」

「なんと、さすればこれは神々の御召しになる衣装の一つと。

真に眼福。公もお喜びになられます」


 角を曲がった先、閣議室の前で、侍従長は一礼するとドアを開く。

部屋の左壁、いくつも空いた縦長の窓から光が採光されている。

無人の長テーブルがその光を反射している。

それを眺めた視線の先、最も奥の窓から外を見据える鎧姿の男が一人。


けいがロードウェル公か」

「いかにも、貴方が勇者殿か」

「そうだ」

「本物であろうな」


 来たよ、俺を疑るその目。

本営で見た王や貴族共と同じだ。

神器じんぎを?」

俺は脇のホルスターから拳銃を抜き取った。

神器、コルト1991A1を公へちらつかせる。

「ほう、これが神器。そのような小さな『金槌かなづち』、どのように使うのか……ッ」

 歩み寄ってきた公爵の額に銃口をあてがう。

「金槌ではない。弓のいらぬ弩と言えばよいかな。

私が引き金を引けば卿の額に風穴が空く」


 一瞬の緊張の後。

「なに、戯れだ」と銃を下す。


「生気が抜けていくのを感じたろう」

「――確かに、伝承の通り……ですな。

しかし、堂々と武器を持ち込まれるとは。

一瞬やはり間者かと思いましたぞ」

 武器類は門番に預ける事になっていたが、何分彼らは銃を知らん。

気づかれる事なく持ち込むことができた。

「いや誠に戯れである。許せ」

 俺のその言葉に公爵は一礼すると、テーブルの方へ俺を促す。

それを無用と断ると、話があると近場の窓へ公を誘導する。


「先の戦いの知らせを聞いたぞ。戦線が後退したそうではないか。

領地に戻ってきたのは戦力再編の為か?」

「は、御推察通りで。それをご存知の上で私に用とはまさか。」


 御参陣いただけるので?

俺はわざとらしく笑ってそれを否定する。

「いや、別件だよ。先日、貴領内にて賊を征伐した。

雲雀ケ丘の辺りに住み着いた輩だ」

「それはありがたい。昨今は我らに加担した冒険者共まで徒党を組む始末で」

「うむ。今回私が討ち取った連中もその類だ。

そこで面白い物を見つけたよ。――これだ」

俺はジャケットからガラスの小瓶を取り出す。

それを見たロードウェル公の顔がギョッとする。


「狂乱の麻薬。一舐めするだけで痛覚や恐怖心が消え、攻撃性が増す。

神殿がご法度と定める物だな。

はて、卿は夫婦共に戦女神の熱心な信者と聞いていたが」

「そのようなものが我が領内に蔓延っているとは!

早速憲兵隊を編成し――」


「ジグリギルド傘下、ルフラン商会」

 再び公の顔が凍り付く。


「古くから魔族領とつながりのある商会だそうだな。

賊から薬を回収した際、文書を読んだぞ」


 コルダ油という特殊な油がある。


 魔族が妖魔を手なずける際に使用する特殊な精油だ。

この油の精製段階で出来る副次物が、狂乱の麻薬である。

魔王軍へ反攻勢に出る同盟兵士に含ませば、さぞ勇猛な戦いぶりをみせるだろう。


「そしてルフラン商会に仲介を依頼した主は『双剣のロウ』

冒険者だった若き頃、卿が名乗っていた名だな。

ごく短い間だったそうだが、我が友にその名を覚えておる者達が――」

 調子よく話す俺を遮ってロードウェル公は麻薬の小瓶を奪い取る。


「――卿よ、その小瓶がすべてではないぞ。

おや、そういえば向こうの建物は物資の倉庫だったな」

「なっ⁉」

 驚き窓から身を乗り出す公に続き、倉庫の方を見下ろす。

倉庫出入り口の柱にもたれ掛った戦士ちゃんが、こちらに手を振っている。


「あそこは同盟軍共用の倉庫と聞いた。

どのような所か後学の為に、我が従者に番を務めさせたのだ」

 実際は、元の倉庫番に金を握らせてすり替わった。

「同盟本部へ上げる物品報告書の認め方も学んだようで、さぞ勉強になったろう。

おお、そういえばその書をたずさえた早馬が直ぐにも出るそうだぞ」

「何⁉」

「我が従者の一人は北セントレア王国の神官でねぇ。

彼の者から至急の用と知らせれば――」

 みるみると公爵の顔は青くなる。

早馬に託される物品報告書、そしてルフラン商会の文書に俺からの親書。

これらが本営に届けば同盟内において公爵は窮地に立たされる。


「勇……いや、貴様。貴様は真に勇者なのか⁉」

「いかにも、公爵?」

「そんなはずが……このような者が勇者だと……」

 ゆっくりと、公爵の右手が左腰、吊るした長剣の柄へと延びていく。

「公爵、ここで私が合図すれば早馬が駆ける事を忘れぬよう。

当然、俺を殺そうとしてもだ」


 だが公爵よ。卿は運がいい。


「あの卑しい賊にコレを奪われたままでは、それをダシに揺すられる事になっていただろう。だが連中は葬られ、件の品も文書も我々勇者一行が手中にある!」

「何が望みだ……いや、勇者様、何をお望みでしょうか」


 この男、折れたな。


俺は公爵に一言断ると、戦士ちゃんに向かって『交渉成功』の合図を送った。

「今後、我ら一行に対する同盟内での擁護と支援。そしてもう一つ頼みがある」

「なんでしょうか。勇者殿?」

「そうわざと畏まらなくていい」

「では聞くが。金か、女か」


 女と答えそうになるが…ここは、ぐっと堪えて。


「いや、それらではない。公よ、捕虜にしている魔族兵が幾らか居るらしいな」

「ああ、奴等のことか。」

 ロードウェル公爵は反吐がでるといった顔で溜息をつく。

「先の戦で捕らえた虜囚達なのだが」


 曰く、まだ同盟軍が善戦していた頃。

散り散りに撤退した敵兵共が、暫くして部分単位で合流。

群がり、今回のように賊と化したという。

なるほど人間側も魔族側も、あぶれれば行き着く先は皆同じらしい。

近くの村々で乱暴狼藉を働き始めたので公らが処理し、一部を捕らえたそうだ。


 で、だ。


「その捕らえた連中は、今の卿らにとって価値のある捕虜か?」

 公は一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、すぐ面持ちを曇らせる。

「いや、無い。先の戦から暫く立つ。もう連中の持つ情報に新鮮さは無い。

人間の賊と変わらん」

 かと言って、せっかく生け捕った魔族をただ殺すだけでは有益性に欠ける。

街で公開処刑にでもして、民草の鬱憤晴らしに使おうかと考えているそうで。


 虜囚の件について述べ終わると、

窓の向こう、遥か彼方の景色を憂鬱そうに眺め始めた。


 やはり扱いに困っている。


公開処刑に処したとして、確かに一時は庶民のガス抜きにはなるかも知れない。

しかし密偵が群集に紛れ込んでいれば、その情報は敵軍へと伝わる。

同盟追撃へ向けて敵の士気を向上させる材料となりかねない。


「有益な処理方法を探りかねているようだな。

では、私に連中の処遇を任せてもらえないか」

「ほう。如何様いかように」

「指定する捕虜をあの台地――練兵場へ。なに、簡単なことだ。

柱に縛っておいて貰うだけでいい。処理もこの拠点内で済ませられるだろう」

「勇者殿。いや、勇者様。先程も言ったが、ただ殺すというのは――」

「いいや、そうではない。ゆぅ~えきな、実ッ験なのさ。俺にとっては、な」


 ゆっくりと、かつ大げさに手振りを使い、ニヤリとしてみせた。


「単純な事だ。私の持つ神器が、いかに魔族に対し有効かを確かめる」

 これから起こりうる魔王軍とのコンタクト。

その状況や戦場の環境によって、俺は扱う火器の選択を迫られるだろう。


 特に小銃だ。

距離があり、障害物が少ない平野なら、大口径のバトルライフルがいい。

だが、森林や建築物内で閉所戦闘を強いられれば?

小回りの聞くカービンの方が取り回しが良いだろう。

 ただ、オークやガーゴイルといった頑丈そうな魔族に対して

カービン銃から放たれる5.56mm弾はいかほどの威力を発揮するだろうか。

残念ながら、今の俺にはその程度の判断材料さえ足りない。


 魔族は基本的に同種で大隊を成すそうだ。


どの種族に対して、どの火器で対処するか。急所は。有効射程は。

具足を着込んでいた場合は。知りたい情報は、山ほどあるのだ。


 二刻後、岸壁の途中から延びるサッカー場一つ程の台地に

幾本もの木柱が突き立てられた。

片方の『ゴール側』には、一体ずつ種族の違う魔族が縛り付けられている。

各々こちらに向けて恨み節をがなり立てていた。

魔族には魔族の言語があるかと思っていたが、流暢りゅうちょうに此方を罵るあたり言葉は人魔共通なのだろう。

 彼らに相対するこちらのゴール側には長テーブルと俺。

『ベンチ』では衛兵数名を率いたロードウェル公爵がしげしげとSUV自動車を眺めていた。

そして、戦士ちゃんと僧侶はそこから車内に積載した火器と弾薬を運んでくる。


 HCAR7.62mmライフル。M203グレネードランチャー。

 M72携帯式ロケットランチャー。

 そして50口径重機関銃。


「これで全部ですね」

僧侶はすべての火器を運び終えた事を告げると、不慣れな手つきでイヤーマフを耳に被せる。

片側の耳は俺の声が聞こえるようにずらし、ノートを開いてこちらに準備ができたと合図した。

ベンチ側では戦士ちゃんが公爵らに耳を塞ぐよう指示を送っている。


「始めるぞ、僧侶。記録:M6、弾種M855A1。

中型オーク兵/胸部革具足。距離百メートル」

バックパックをバイポッド替わりに、M6をマウントする。

さて、どの部位から撃ってみようか。

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