第20話 門を巡る激闘

「ダメだよ、カミナ。人が多すぎる」


 街の入り口付近まで来たカミナとクレアだが、なぜか大門の手前で人の渋滞が起こっている。


「なんだってコイツらはここに溜まってんだ?」

「…………門の前になんかいるみたいだよ」

「クレアとシンはどっか民家の陰にでも隠れてろ。銃を使う奴らが居るみたいだからな、流れ弾が当たらない様に、出来るだけ鉄で出来た物の陰に居ろよ」


 カミナは人混みを掻き分け門の前に進んで行く。門を塞いでいたのは一人の大男。縦にも横にもデカく、人間らしい姿ではない、むしろ球体に近いスタイルだ。


(なんだコイツ、デカいな。こんな人間が上に居るとは思わなかったぜ。それにしても…………)


 別に何をするわけでも無い大男を前に、誰一人として前に進もうとしない光景にカミナは疑問を覚えた。


「なぁ、なんで誰も門を通って外に出ようとしないんだ?」

「なんだ、アンタ見てなかったのか? アイツらの足元見てみなよ」

「足元?」


 見ればそこには恐らく人間だったであろう肉塊が数個転がっている。


「通ろうとした奴はみんな叩き潰されちまった。あんなの見たらどうしようもねぇよ」

「他に道は無いのか?」

「あったら誰もこんな所に居やしねぇ」

「…………まぁ、そりゃそうだな」


 更に人混みを進み、大男の前に出るカミナ。


「ん~、なんだお前? それ以上近づくとミンチになるぜ~。ゲヘッゲヘッ」


 気味の悪い笑い声を上げる大男。

 カミナは足元に落ちていた小石を拾い、指に力を込めて放つ。が、大男の肉に弾かれ効果は無い。


「ゲヘッゲヘッ、無駄だ~。ワシの体にはそんじょそこらの銃や剣じゃ効き目はないぜ~」

(確かにそうだな。俺の指弾は普通の銃よりは強い。…………チッ、出来ればこんな奴は触りたくなかったが)


 大男の前に立ち、全身の力を極限まで抜くカミナ。だらんとしたその姿を見て、大男含めみんな不思議そうな表情を浮かべる。


「なんだなんだ。ワシが動けないと思っているのか? このぐらいの距離なら直接触る事も」


 手を伸ばしカミナの体を触ろうとした大男。一瞬の閃光を放った後、その体は腰の部分からキレイに真っ二つになっていた。


「…………はれ? なんだ、一体?」

「神屠暁拳 蟷螂一閃脚」


 真っ二つになった上半身が大きな音を立てて地面に崩れ落ちる。


『神屠暁拳 豪ノ構え』一度全身の力を極限まで抜き、これから使用する一部分のみに全神経を集中、その強度を格段にアップさせる構えである。蟷螂一閃脚は本来この構えと併用して使う事でその真価を発揮する技であり、その威力は鉄ぐらいなら簡単に真っ二つにしてしまうほど。長治郎の抜刀を受けた時は構えが無かった為に互角となった。


(ふ~、動きが鈍い相手だと構えの時間が取りやすい。この技なら触るのも一瞬だしな)


 あっけに取られ、呆然とする民衆。


「おい、ぼさっとするな! 早く街から避難するんだ」


 カミナの声で正気を取り戻した民衆は、大門を通りなだれ込む様にして街の外に逃げて行く。


(これで逃げ道は確保出来たか)


 隠れていたクレアとシンを街の外に逃がし、カミナは急ぎ長治郎の屋敷へと向かった。


 号砲が鳴った少し後、長治郎の屋敷を目掛けて多くの使徒やゴロツキが押し寄せた。街に一家の者を援護に行かせた事で屋敷に残った戦力は減少、そこを突かれた形になり苦戦を強いられている。


「クソ、銃を持ってる奴らがこんなに居るとは。お前ら、絶対にオヤジの所に行かせるなよ」


 怪我をしながらも虎徹は懸命に指揮を執り、自らも戦っている。


「やれやれ、何の騒ぎですか? …………おや、どうやら一大事みたいですね」

「ケルノスさん」

「虎徹さんは正門をお願いします。裏門から入ってくる奴らは全て私が引き受けますので」

「一人でですか? 無茶です、私も一緒に」

「大丈夫、お気になさらず。それぞれの役割を果たしましょう。正門側が抜かれては食い止めるのは難しくなりますよ」


 ケルノスは周囲に居る敵を片っ端から切り刻みつつ、悠々と裏門へ向かって進んで行った。


(役割か)


 虎徹も周囲の敵を斬り払いながら正門へと向かう。


 裏門に着いたケルノス。正門ほどではないが、こちら側からも多くの敵が押し寄せており、既に門を抜かれる一歩手前になっていた。裏門の指揮を執っている男に話しかける。


「生き残っているみなさんは正門側にの応援に。ここは私一人で十分ですから。」

「…………しかし」

「問題ありません。さぁ、早く」

「…………分かりました、お願いします。戦える者はみな正門側へ、負傷者も可能な限り連れて行け!」


 どんどんと退却して行く焔一家の男達。


(さて、邪魔が居なくなりましたね。これで心置きなく戦えます)


 退却して行く男達に追い打ちを掛けようとする敵。しかし、追い掛けた敵は誰一人として追いつく事は出来なかった。


「無視して行くなんて寂しいじゃないですか」


 追い掛けた敵は一人残らずケルノスの糸で急所を突かれ絶命する。


「な! なんだコイツは。焔一家ってのは刀しか使えない奴だけじゃないのか?」

「私はただの助っ人です。こちら側から入りたいなら私を殺さないと無理ですよ」

「…………良いだろう、一斉に掛かれー!」


 数人が斬りかかり、数人が発砲する。一斉に。が、ケルノスは無傷。弾は全て糸に絡め捕られ、攻撃をした敵は全て切り刻まれていた。


「私はあまり強くない相手を同時に、大勢相手にするのが大の得意でね。こういう状況が一番真価を発揮出来るんですよ」


 静かで冷徹、しかし確実な殺意を込めて浮かべる笑み。凍える恐怖を感じ、敵は一目散に逃げて行く。


(さて、これで大丈夫とは思いますが、治まるまでは一応ここに居ますかね。正門側も気になりますが…………)


 ケルノスが裏門での戦いを制したころ、正門での戦いは苛烈になっていた。


「ここが踏ん張りどころだ! 絶対にオヤジの所に行かせるんじゃねーぞ」


 虎徹は周りを鼓舞しながら必死に戦っている。その鼓舞は皆に向けてであると同時に、怪我をして思うように刀を振るえない自分に対するものでもあった。


(クソ、数が多すぎる。お嬢は一体どこに)


 カミナと別れ、急ぎ長治郎の屋敷に向かっていた鳳仙だったが、途中で足止めを喰らっていた。


(急いでるのに。一体どこから撃ってきてやがるんだ)


 鳳仙を足止めしていたのは、虎徹達を襲った神人である。鳳仙の動きに合わせるかの様にして撃ち込まれる銃弾に、歩みを進める事が出来ない。


(音がしてから動いても避けれるし、弾も斬れる。でも、これじゃ…………)

「ふ~ん。さすがに簡単には仕留められないか。にしても弾を斬るって、トンデモネーな」


 独り言を言いながらも、断続的に狙撃を続ける神人。発射された弾の全てを避けるか、斬るかで立ち回る鳳仙。


「ん~。これじゃ埒が明かないね~。しょうがない、使うとするか」


 変わらずに響く銃声。


(弾切れを待つのは間違いかな? 音の感じからして今こっちに体をかわせば…………)


 今まで通り音を頼りに避けようとした鳳仙だったが、予期しない方向、タイミングからの銃撃を受けてしまう。


(なんで!? 狙撃手は一人じゃないのか?)


 戸惑う事で次の回避行動が鈍くなる。その少しづつのタイミングのズレが、鳳仙に与えるダメージを徐々に大きくしていく。


「ふっふ~ん。俺のトリックショットを避けようなんてムリムリ~。そろそろトドメかな~」


 新たに発射された銃弾。避けるのは難しいと考え斬るために構えた鳳仙だったが、蓄積した疲労とダメージで踏ん張りが効かず、体制を崩してしまう。


(しまった! これじゃ斬れない。殺される)


 死を覚悟した鳳仙。勝ちを確信した神人。しかし、両者の考えはどちらも外れる事になる。


「やれやれ、危なかったな」

「カ……カミナ!」

「脚に力が入らねーだけで諦めるのか? 焔一家の跡目ってのはそんなもんか?」

「な! 誰が諦めるもんか。ウチはまだまだ戦えるよ」

「おぉ、元気じゃねーか。気合い入れろ、お前が命掛けるのはここじゃねーぞ」

「うん、分かってる」


 鳳仙の顔に気迫が戻る。


「良い顔だ。ここは俺に任せてお前は長治郎の所に」


 頷き、走り出す鳳仙。逃がすまいと放たれた銃弾は、カミナの手の中に握り込まれていた。


「どこの誰かは知らねーが、お前の相手は俺がしてやるよ」

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