第5話 別れと決意
「ちょっ、カミナ。どうし……たのう? これは……ヤメ……って……言った」
必死に止まるように願うクレアだが、その声はカミナの耳には入っていない。今までに見せたことの無いほど真剣な表情を浮かべ、クレアが耐えられるであろうギリギリの速度で激走する。町の数百メートル手前まで戻ったカミナの鼻を血の匂いが包み込んだ。
(クソ、ここまで匂いが強く届くってことは…………)
シンも何かを感じ取ったのか、眉間にシワを寄せて唸っている。
「そこにある岩の陰に隠れてろ」
クレアとシンを近くにあった大きな岩陰に残し、カミナは町へと急ぐ。町の入り口に到着したカミナの目に映った光景は予想通りであり、最悪だった。
至る所に無惨に殺された人達の亡骸が転がり、建物も全て半壊、もしくは倒壊している。大規模な戦争が起こった後のような、惨憺たる光景を見ながらもダムの店へと急ぐ。
「そりゃ、オッサンの店だけ無事ってことはないよな」
店だった場所にはただ瓦礫の山があるばかり。
「……! まだ微かに気配がある」
瓦礫の山をかきわけると、そこにはかろうじて息をしているダムの姿があった。
「おい、大丈夫か!? 俺だ、カミナだ」
「おぉ、アンタか。……クレア、クレアは?」
「大丈夫、クレアは無事だ」
「そうか……。なら、良い」
そう言うとダムは完全に気を失った。町の入り口でその光景に呆然としているクレアの前に、ダムを担いだカミナが姿を現す。
「父ちゃん!」
ゆっくりと地面に降ろされたダムに駆け寄るクレア。
「父ちゃん! 父ちゃん!! 起きてよ、私だよ、クレアだよ」
必死の呼びかけとクレアの手の温もりに、ダムは意識を取り戻す。しかし、すでに声もろくに出ない状態になっていた。
「ク……レアか。良かった、おま……えが無事……なら。」
喀血し、どんどんと弱くなっていく声と消え行く意識の中で、ダムは力を振り絞り話を続ける。
「お……まえの……おかげで。ワ……シはしあ……わせ……だった。おま……えだけ……でも、にげ……て。しあ……わせに」
「ちょっと、父ちゃん。そんなじゃ聞こえないよ。いつもみたいに大きな声で話てよ」
「カ……ミナ。……クレアを」
その声にただ無言で、しかし力強く頷くカミナ。
「ありが……とう」
ダムは笑顔を浮かべる。
「あったかいな~…………」
クレアに握られているダムの手が力無く地面に着いた。
「父ちゃん、とうちゃ…………」
カミナはクレアの顔を見て愕然とする。泣き上戸を自負していたクレアの目には一粒の涙すら浮かんでいなかったのだ。
「クレア……。泣いて良いんだぞ」
「うん。……フシギだね。すごく泣きたいんだけど。なんでかな、涙が全然出てこないの」
小さい肩に背負わせるにはあまりに大きすぎる悲しみ。クレアはこれで家族を二度、神人によって失ったのだ。
「……どこ行くの?」
その場を離れようとしたカミナをクレアが呼び止めた。
「神人を追いかけようとしてるんでしょ。ヤメて。私、もうこれ以上はガマンできないよ」
一瞬足を止めたカミナだが、再び動き出す。
「待って! カミナまでわざわざ殺されに行く必要ない」
カミナの袖を掴み、必死に呼び止めるクレア。
「心配するな。俺は絶対に帰って来るから」
「ダメ! 行かない…………で!?」
思わず袖を離すクレア。単純な恐怖とは違う、圧倒的で言葉にすることの出来ない程の威圧感でありながら、誰もが常にどこかで感じているもの。言うなれば死そのものを体現しているかの様なカミナの雰囲気を感じ、無意識に後ずさりするしかなかった。
「残党が居るかも知れない。どこかに隠れて待ってろ。シン、クレアを頼むぞ」
微かに残る血の匂いと異質な気配を辿り、カミナは神人のもとへと向かう。
「ジジイ、決めたぜ。俺は神を殺す」
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