第6話 醜悪の代価

 小さな砦。その一室で酒を飲みながらグダグダと管を巻き騒いでいる数人の男たち。


「それにしても上手くいったな」

「いや、全くだ。思った以上だぜ」

「バロル様に直接頼んだのが正解だったよな」

「さすがはバイさんっすね」


 位置関係的にこの集団のリーダーであろう男は自慢げに椅子にふんぞり返っている。


「これからは頭使わねーとな。脳筋じゃ世の中渡っていけね~のよ」

「にしても、ちょっとキツかったんじゃないっすか?」

「確かにな。豪腕の将だかなんだか知らね~けど、死ぬかと思ったぜ」


 バイはテーブルにある酒をグイっと飲み干した。


「まぁ、結局は俺に手を出しちゃったから、アイツも含めて町のゴミ共は皆殺しになったわけだ」

「食料や酒も手に入ったし、神都からの評価も上がったみたいですよ」

「俺たちレベルの使徒じゃ、こんな食い物や酒には滅多にありつけませんしね」

「ありもしない反乱の意思をでっち上げて報告するだけで、こんなにも色々とプラスに運ぶとはな」


 男たちは笑いながら飲食を楽しんでいる。


「でも良かったんすか? あのままでも搾り続けることは出来たんじゃ?」

「あぁ? 良いんだよ。ゴミ共なんて放っておいても勝手に増える。なにより、俺を殴ったのが単純に許せなかったしな」


 酒瓶から酒を注ぎつつ、バイは続ける。


「また別の町を見つけて、適当に搾った後で気に入らなけりゃ皆殺し。これを続けるだけで俺たちゃ一生安泰ってわけだ」

「メンドクサイ奴らが居れば神人に適当に泣き付けば楽ですしね」

「そう言うことだ。とにかく頭が良い奴が最後に笑うのよ」


 注いだばかりの酒を一気に飲み干し、ダムを始めとした一同は醜悪な笑いを浮かべている。


「あ、もう酒が無いっすね。ちょっと取ってきます」


 そう言い残し一人の男が部屋を出ていく。


「バロル様が帰って一段落したら、次のターゲットを探さないとな」

「この拠点からだと、この前見つけた小さな村が良いんじゃないっすか?」

「ん~そうだな。ちょっと早い気もするが、唾つけといても良いかもな」


 そんな会話をしていると、酒を取りに隣の部屋に行っていた男がフラフラとした足取りで帰って来た。


「おいおい、もうそんなに酔ってんのかよ。情けね~……」


 男の足元から顔に目をやったバイ達から一気に血の気が引く。戻って来た男の首から上は、なにかでねじ切れた様な跡を残して無くなっていたのだ。


「おいおいおい!!! なんだ、こりゃ」


 突然の出来事に慌てふためくバイ達。


「クセぇな。お前らからは血と下衆の匂いがプンプンする」


 部屋の入り口から聞こえる声に、バイ達は一斉に視線を向ける。そこにはカミナが立っていた。


「なんだ! テメーは」

「……あ、コイツあの町の店に居た奴ですよ」

「なんだ生き残りが居たのか。で、コイツはテメーの仕業か?」

「聞くまでもないだろ」

「復讐か? せっかく生き残ったのにわざわざ殺されに来るとはな」


 無防備に距離を詰めてくるカミナに対し、バイ達は一斉に武器を取る。


「おいおい、それはないんじゃないか」

「うるせぇ! テメーもなんか武器を隠してんだろ。じゃなけりゃ、コイツの首がこんなねじ切れるはずがねぇ」

「そういう意味じゃねーよ」


 バイ達の視界から一瞬でカミナが消えた。


「な! どこ行きやがった」


 周囲を見渡すバイの目に信じられない光景が映る。周りに居た数人の男たち、その全ての首から上が既に無くなっていたのだ。


「ひ、ひぃ~、な……いったいなんだってんだ」


 腰を抜かし、その場にへたり込むバイ。その背後から肩に腕が回され、耳元でカミナが囁く。


「俺が言ったのはな、俺を相手にそんな武器で戦おうってのが間違いじゃねーのかってことだ」


 立ち上がれないバイは這いずるようにしてカミナから距離を取り命乞いをする。


「た、頼む。た、助けてくれ。悪かったよ、改心する。だから、な、頼むよ」


 カミナはバイに詰め寄りながら言う。


「俺が見た限り、おっさん以外の死体には刃物でいたぶった跡や嬲った跡があった」


 さらに距離を詰めながら続ける。


「許しを懇願しながら殺されたであろう死体も沢山あった」


 バイの髪を鷲づかみにし、顔を突き合わせる。


「そんな人達を、お前はどうした? さっきみたいに汚ねぇ面で笑いながら殺したんだろ」

「いやいや、そんなことしてない! 俺はただ今回の作戦に巻き込まれただけだ」

「ほぉ、そうなのか。じゃ、お前はあくまでも主犯格じゃないと」

「あぁ、そうだ」

「そうか、なら仕方ない」


 そう言うとカミナはバイに背を向け歩き出した。


(しめた、チャンスだ)


 武器を握りしめ背後から襲い掛かろうとするバイ。


「あぁ、そうだ。お前の足の骨な、動くと粉々になる様にしてるから、動かない方が身のためだぜ」

「へ!?」


 カミナの言う通り、バイの足に激痛が走る。足の踏ん張りが一切効かなくなり、前のめりに倒れ込むバイの視線の先には、大量のガラス片が散乱していた。


「いぎゃ~~~!!!」


 体中にガラス片が刺さり、痛みでのたうち回るバイ。動けば動くほどガラスが体中に突き刺さり、痛みは激増していく。


「お前が主犯格なのは外で寝てる見張りと、さっきまでのお前達の話を聞いて知ってたさ。死を目の前にすれば少しは反省するかと思ったが、全くだったな」


 手を使いなんとかガラスの破片地帯から抜け出したバイ。


「クソ、ハメやがったな」


 カミナは残っていた酒瓶を手に取り、バイに対して酒を浴びせかける。アルコールが体中の傷口に染み渡り、更なる激痛が襲う。


「誰かに危害を加えるってことはな、同じこと、それ以上を自分がされても文句を言わない覚悟があることが大前提だ」


 酒を浴びせながらカミナは続ける。


「他人には笑顔でそれをしておいて、いざ自分の番になったら御免被る。そんな都合の良い話はねーんだよ」


 壁に掛けてある燭台からロウソクを一本取り、痛みで転げまわっているバイの前にカミナは立つ。


「町の人にやったこと、その痛みを感じながら死ぬ義務がお前にはある」

「や、やめ……」


 ロウソクの火がバイの体に着いた瞬間、勢い良く火が上がる。


「これがお前への裁きだ」

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